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短距離も長距離も基本は同じ! 全ての“走り”に繋がるランのメカニズム

ランニングの目的はさまざまだが、「走りの基本」はその全てに通じている。気持ちよく走るために、無手勝流を抜け出すために、ランのメカニズムを徹底解説。

1. 目線で姿勢をコントロールする

アスリートが勝敗や記録を争うスポーツをチャンピオンスポーツと呼ぶ。一方、一般人が勝ち負けを抜きに趣味や楽しみの一環で行うのがレクリエーションスポーツ。ボクらのランはむろん後者だ。

チャンピオンスポーツでは、五輪のような勝負をかける試合のために怪我のリスクを冒して頑張るケースも少なくない。でも、勝ち負けと無縁のレクリエーションスポーツで故障をしたり、痛い思いをしたりするのはナンセンス。ならば何より大切にしたいのは姿勢。姿勢が悪いとフォームが崩れて不自然なダメージが加わって、故障や痛みに直結する恐れがある。

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背伸びをする感覚で目線を引き上げ、その感覚を守って走ると正しいフォームが崩れない。日常生活でも背すじを伸ばして目線を高く。

もっともシンプルに言うなら、「気をつけ!」の姿勢で走るのが正解。俗に体幹を鍛えて腰の位置を高く保てと言うが、より簡単に姿勢を作るコツがある。目線の位置をできるだけ高く保ち、その高さを変えないように走るのだ。

「目線を高くしようとすると誰でも背すじが伸びて腰の位置が上がり、重心の真下で負担なく着地できます」(法政大学教授でフィジカルトレーナーの杉本龍勇先生)

姿勢は走るときだけ気をつけようとしても、思ったようにキープできない。普段立ったり歩いたりするときから目線を高く保ち、正しい姿勢をインプットしたい。

2. 短距離も長距離も基本は同じである

骨盤を捻って両脚を左右交互に前に振り出し、肩甲骨から腕を振る。難しく考えがちだが、ランの動きは本来シンプル。元オリンピアンで100mの日本代表選手だった杉本先生は「長距離も短距離も走り方は同じ」だと言う。

短距離走のスタートでは、スターティングブロックを蹴った瞬間、深い前傾姿勢で軸脚の足首から頭の先までまっすぐ保ち、地面を後ろに押し出して飛び出す。長距離では地面と垂直に近い角度まで突っ立っているという違いはあるが、頭から軸脚までストレートに保ち、着地時の地面反力を推進力に変えるという点では短距離走と何ら変わらない。子どもの頃のかけっこの気持ちで無心に走ればいい。

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短距離走でも長距離走でも、地面を押す足から頭までが一直線に並んでいると、推進力はマックスに。前傾の角度が違うだけなのだ。

地面反力を効率的に推進エネルギーに変えるには、膝を曲げすぎない伸展位での着地がポイント。

「着地は膝の角度が170度前後。膝が曲がりすぎると、膝下だけで体重を支えるので不安定です。膝が伸展位に近いと股関節で体重を支えられ、姿勢が安定して、地面反力が得やすいのです」

さらに骨盤を立てると接地時間が短くなってバネが使いやすい。また背中を使い、軸脚から頭までを結ぶラインを回転軸に腕をスイングすると、腕の重みでバランスが保て、下半身の出力ロスが減る。

3. 着地を意識する必要はない

踵着地か爪先(フォアフット)着地か。ランの世界では着地を巡り、2大勢力が一大論争を戦わせている。ランで地面に接地するのはわずか0.2秒。その瞬間だけに力を発揮してすべての推進力を得ているので、どう着地するかは非常に重要なのである。

長らく踵着地派が優勢であり、踵を分厚いクッション材で守ったランニングシューズが大量に作られた。そこへ90年代後半から突如として台頭したのが爪先着地派。その背景にあるのは、マラソンでのアフリカ人選手たちの活躍だ。アフリカ人選手の多くはバリバリの爪先着地であり、彼らがマラソンをはじめとする長距離の記録を次から次へと塗り替えたからだ。

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壁から少し離れて立ち、前傾して両手で壁を押そうと重心を前にかけると踵は上がる。この瞬間に着地するから爪先着地に見えるだけ。

爪先着地派は、踵着地ではブレーキがかかり、膝に負担がかかると主張する。でも「爪先から着地してもブレーキはかかる。爪先着地を繰り返すラダートレーニングをやりすぎるとブレーキ動作がクセになり、動きが悪くなります」。

実態は、前傾姿勢で重心を前に進めようとすると自然に踵が浮くので、結果的に爪先着地に見えるだけ。「カラダの正面で高さ2〜3cmの台に踵から着地するイメージだと、爪先を後ろに戻して重心の真下につけるのでブレーキをかけず、理想的に着地できます」。

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真正面に高さ2〜3㎝の透明な台があると仮定。そこへ踵で着地すると、全身が前へ進んだ瞬間、爪先から重心真下にランディング。

4. 裏拍リズムを取り、力を抜いて走る

ゆったりペースで走る長距離走では「スッスッ、ハッハッ」とか「イチ、ニー、イチ、ニー」といった具合にリズムを取るのがポピュラー。その際、通常は着地のタイミングでリズムを合わせようとする。でも、長距離の快適な走りのリズムを作る秘訣は着地の瞬間ではなく、次の瞬間反対の脚を前に振り上げるタイミングで、いわば裏拍のリズムを取ることにある。

裏拍とは、先ほどの例に即して言うならスッスッの間、ハッハッの間、イチとニーの間でリズムを取ること。なぜ着地時ではなく脚を上げたときに取るべきなのか。

第一に股関節の可動域は後方よりも前方の方が大きいから、リズムが取りやすい。第二に着地した軸脚と反対の脚を前に振り出し、重心が前へ移動しているときに裏拍でリズムを取って動きのアクセントをつけてやると、走りがダイナミックになりラクに走れるようになる。裏拍が取れないと踊れないというけれど、それはランニングでも同じなのである。

ちなみに無酸素&全力疾走の100m走では、備蓄エネルギーはたった7秒で尽きる。「残りの3秒は勢い(慣性)を殺さないように力を抜いてリズムで走っている」のだとか。この意味でも短距離と長距離には共通性がありそう。

取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 杉本龍勇(法政大学経済学部教授/フィジカルトレーナー)

(初出『Tarzan』No.751・2018年10月11日発売)

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