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脂質で走ればマラソンのタイムが上がる!? 後半の失速を防ぐ“脂質代謝能力”って?

人間は“糖”だけをエネルギーにして走っているわけじゃない! カラダに蓄えた“脂質”をもっと効率よく使えれば、フルマラソンの記録だって今以上に伸びるはずだ。

中級ランナーがフルマラソンでタイムが伸ばせない原因として考えられるのは、やはりエネルギー不足。体内のグリコーゲンや糖は長距離走の大事なエネルギー源となるが、もうひとつのエネルギー源である脂肪もうまく燃料に変換できないと、後半でガクンとペースが落ちてしまうのだ。

カラダの基本構造として、糖の貯蔵量が少なくなると脂質代謝が進むというのがある。このメカニズムを積極的に利用しようというのがエリートランナーの考え方だ。漫然と走って糖が自然と減るのを待つのではなく、敢えて減らす環境を作って、脂質代謝にスイッチを入れる。これを続けていると、自ずと脂質をエネルギーにしやすいカラダになるのである。

糖と比べると脂肪の持つエネルギー(カロリー)量は莫大なもの。持久力の源を、ランナーはもっと活かせなければいけない。その秘訣をこれから伝授しよう。

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脂肪を代謝させるには糖の貯蔵量が鍵なのだ。
体内の糖の貯蔵量が多ければ糖が、少なければ脂肪が優先される。しかも脂肪は1kg当たり役7000kcal。燃料として高いポテンシャルを持つ。練習中は糖質を制限、レースは糖質を補充、という考え方が一般的。
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上級者ほど速度を上げても乳酸が溜まりにくいのだ。
初心者、中級者、上級者別に速度と血中乳酸濃度の関連を示したグラフ。初心者は早い段階で濃度がLT(乳酸性作業閾値)レベルに達するが、レベルが上がっていくに従い、速く走っても乳酸が溜まりにくくなる。さらに上級者は乳酸値のレベルが全体に低く、脂質エネルギーをうまく利用していることが窺える。

毎日ちょこちょこより、1日おきにまとめて走る

従来、持久力を伸ばすためにはとにかくゆっくり長く、できれば毎日走るというのが王道だった。たしかにこの練習法でも持久力アップは期待できるが、最新の研究では、同じ距離を走るなら必ずしも毎日走らなくても脂肪代謝能力が向上、つまり持久力を高められることがわかってきた。

「実験では、週6日10km走を行ったランナーと1日おきに20km走ったランナーを比較したところ、スピードや6日間の合計走行距離は同じ60kmにもかかわらず、後者の方が運動中の脂質酸化量が多くなるという結果が出ました。このことから、毎日コツコツと走るよりも1日おきに2日分の距離をまとめて走った方が糖を一気に消費でき、より脂肪が使われやすくなると推測できます」(筑波大学体育系教授・鍋倉賢治さん)

実際の話、どんなにランニングが楽しくても毎日走っていれば知らず知らずの間にオーバートレーニング状態になってしまうことがある。何より、中級レベルのランナーはまだ脚力不足。連日のランでケガをしてしまったら元も子もない。

それに、毎日走らなきゃと思っているランナーも、1日おきでいいとなれば少し気が楽になるのではないだろうか。今まで毎日5km走っていた人なら、今日10km走ったら明日はカラダのケアや用事を済ますことに専念。明後日は再び10km走。そんな感じでメニューを組んだ方がメリハリがつくし、しっかり休める。それで脂肪がしっかり使えるカラダになり、持久力をアップできるのだから言うことなしだ。

朝ランにシフトして燃焼型のカラダに変える

これから次第に朝の冷え込みが強まる季節。ただでさえ布団から出たくないのに朝ランなんて無理! という人もいるだろう。でも「朝走ると脂肪が使われやすいカラダになる」と聞いたら、中級レベルのランナーでも魅力的に感じる人がいるのでは。これ、れっきとした事実なのである。

鍋倉先生の実験(下グラフ参照)では、朝食前に走った場合と、朝、昼の食事を摂った後の夕方に走った場合では前者の脂質酸化率が約50%、後者が約30%とかなりの差があることがわかっている。その原因として考えられるのが、起き抜けの時間帯が一日のうちで最も空腹状態にあることだ。

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朝ランによる脂質燃焼率は夕方ランよりも高くなる。
男性ランナー5人による実験データ。90分のトレッドミル走を早朝(絶食状態)、夕方(摂食後)に行ったところ、前者の方が脂質の酸化率(燃焼率)が高いことが判明した。
小林、2012より

仮に前日18時~19時頃に夕食を食べたとすると、朝6時~7時頃のカラダは約半日もの絶食状態にある。当然、体内の血糖値は下がり筋肉や内臓のグリコーゲン量も減少しているはず。つまり体内の糖の貯蔵量は限りなく少なくなっており、必然的に脂肪が優先して使われるようになるというわけ。

もちろん、寝起きの朝食前ゆえカラダの動きは悪いし、低血糖で頭もボーッとしているだろう。だから他の時間帯のようにシャキシャキとは走れず、じれったい思いをすることもあるはず。でも、それでいいのだ。

ここでの目的は脂質代謝能力を高めること。ゆっくりペースで構わないし、10〜20分のランで全然OK。詳しくは45ページに記すが、これをコツコツと長期間続けることに大きな意味がある。朝ラン(またの名は朝飯前ラン)を決して侮るなかれ。

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高強度+低強度の練習が持久力を伸ばす

ここまで1日おきラン、朝ランと脂質代謝力を高めるためのメソッドを解説してきたが、もうひとつ押さえておきたいのが「高強度運動+低強度ラン」という考え方。ランニングの前にカラダを思いきり追い込むことで持久力向上が期待できる。

高強度運動を行う場合、エネルギー源として主に使われるのは糖であり、脂質の割合は少ない。しかし短時間にカラダに大きな負荷をかけるとアドレナリンや成長ホルモンが分泌され、それによって脂肪分解が促される。その直後にランニングを行えば、すでに糖の貯蓄量は少なくなっているので、脂肪分解によって発生した脂肪酸がどんどん使われる。実によくできたシステムである。

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事前運動のあるなしで脂質消費率が変化する。
左は事前運動なしで16㎞走ったケース、右はジョグ1㎞と全力走1.5㎞を行った後13.5㎞走ったケース(ランのペースは同じ)。右の方が脂質消費率が高くなっている。
鍋倉、2015より

それともうひとつ、短時間でカラダを追い込むと、当然ながら筋肉のグリコーゲン貯蔵量は大きく減ってしまう。先ほど触れたように、体内で糖の貯蔵量が少なくなれば必然的に脂質代謝のスイッチが入る。つまり、高強度運動の後はいつも以上に脂質がエネルギーとして使われやすい状態になるのだ。

高強度運動、と聞くとパッと思い浮かぶのがハードな筋トレ。もちろん走る前に筋トレを行っても構わないし、バイクマシンを全力で漕ぎまくるのもいいだろう。しかしここはランの持久力向上が目的。せっかくなら走ることでカラダを追い込もう。

具体的な練習方法は実践編の記事に記すが、この「高強度運動+低強度ラン」は限られた練習時間で早く結果を出したい中級レベルのランナーにとって他にもさまざまなメリットがある。ぜひチェック&チャレンジしてもらいたい。

ファット・ローディングというランナーの新技

脂質代謝しやすいカラダを作りたいなら、練習方法はもちろんのこと食事の摂り方にも気を配ろう。カーボローディングで糖をうまく摂取し、エネルギーとして使うことを念頭に置くのがランナーの栄養摂取における基本だが、最近注目を集めているのがファット(脂質)・ローディングという新しい方法だ。

「研究結果から、運動前の最後に摂った食事の内容によって、ランニング中のエネルギー代謝のバランスが微妙に変化することがわかっています。カーボローディングで糖質を蓄えればそれが優先的にエネルギー源として使われますが、意識的に脂肪を多めに摂る、つまりファット・ローディングを行うと、朝食前に朝ランを行った場合とほぼ同じレベルの脂質代謝効果がもたらされるのです」(鍋倉さん)

鍋倉さんが行った実験では、長距離走の当日朝に高脂肪食(タンパク質、脂質、炭水化物の三大栄養素のうち脂質の割合が80%)を摂ったところ、直後のランニング中の最大脂質酸化量が著しく高まったという。

しかしファット・ローディングにはひとつ弱点があって、それは高脂肪食の消化が非常に悪い点。レース直前に脂肪たっぷりの肉やバターなどを食べるとなると……。想像しただけでゲップが出そうになる。

でも、そこまで極端な高脂肪食を摂らなくても大丈夫。長距離走の前に、少しだけ脂肪を多めに摂るだけでも脂質代謝のスイッチはしっかり入ってくれるという。胃もたれせず、脂肪をエネルギー源にできる食べ物とは? 答えは実践編で。

とにかくランを好きになる、という哲学

だんだんランニングにもカラダが慣れてきて、走ること自体が楽しくなってくる中級レベルのランナー。だとしたら、今のランニングへのモチベーションが高まっている状態をいかに維持できるか? 長い目で見ると、そんな部分も持久力アップのための大事な一要素となる。

「持久力を伸ばすためのメソッドはいろいろありますが、それで記録ばかり追い求めているとどこかでモチベーションが切れる懸念がある。もちろん結果は大事です。しかし、自分は何のために走っているのか、たまに立ち止まって考えてみてほしいのです。友達と話しながら走ったり、途中でおいしいものを食べたり、終わった後に飲んだり……。カラダ的視点で見れば、そうした走り方は走力や持久力アップにはそれほど貢献しないかもしれない。でも、走るのは楽しい、と思えるからこそランニングは続けられる気がするんです」

この鍋倉さんの言葉にハッとさせられるランナーはいないだろうか。やるからにはいいタイムで走りたいが、目標を達成したらそこでやる気を失う……それではもったいない。

速さだけがランニングではない。四季の移ろいを五感で感じ、カラダをリフレッシュさせ、ココロをリセットさせる非日常感。その気分を忘れず、常に楽しく走れる方法を見いだせば結果的に持久力もついてくる。

左は運動強度と脂質酸化率の関連性を表したグラフだが、経験豊富なランナーほどより高強度の地点で脂質が使われる。つまり走り続けることでピークが後ろ倒しになり、より長時間走り続けられる。継続に勝る練習法はないと心得よう。

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走り続ければ脂質代謝能力はアップするのだ。
黒線は初級者の脂質酸化率のカーブで、最大酸素摂取率が40%程度の運動強度で脂質酸化がピークに。色線のベテランランナーは脂質酸化のピークが約60%の運動強度で訪れる。 小林、2014より

中級者の持久力アップに役立つ坂道のススメ

タイムが伸び悩んでいる中級レベルのランナーは、ロードばかりではなく少し起伏のある場所を走ってみてはいかがだろうか。トレイルランに移行したベテランランナーが、アップダウンの激しい山道を繰り返した結果、脚力がアップ、ロードのタイムも上がったという話をよく耳にするが、これはちゃんと根拠のある話。ランナーとしてレベルが上がるほど、坂道ランが効果をもたらすのだ。

平地で1㎞走る場合、体重1㎏当たりの消費エネルギーはだいたい1キロカロリー。これが5%の上り坂では1・25キロカロリーとなり、10%では1・5キロカロリー。経験豊富なランナーほど消費エネルギーはやや下がるが、いずれにしても平地よりは数値が高くなる。つまり、平地を10㎞走るなら5㎞上って5㎞下る方がエネルギー消費は多くなり、結果的に脂質代謝が促されるようになるというわけ。

取材・文/黒田 創 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮治 監修/鍋倉賢治(筑波大学体育系)

(初出『Tarzan』No.728・2017年10月12日発売)

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