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謎多き存在、自律神経。その正体を突きとめろ!

交感神経と副交感神経の2種類の神経を総称した自律神経のメカニズムを解説。実は健康の“黒幕”、自律神経はどんなことをしているか。その実態を知れば、付き合い方も見えてくる。

自律神経・内分泌・免疫、健康をキープする3兄弟

とあるものの内部環境を一定の状態に保ち続けることを恒常性=ホメオスタシスという。ヒトのカラダなら、健康を保ち、いい感じのコンディションを維持するという意味になる。

で、このホメオスタシスを支えている3本柱が、ホルモン分泌を司る「内分泌」、異物の攻撃からカラダを防御する「免疫」、そして内臓や組織の働きをコントロールする「自律神経」だ。これらは独立して作用するのではなく、3つのチェーンが互いに繫がって影響し合いながら働いている。

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ホメオスタシスは脳の視床下部と3兄弟の連携技。
内臓器官は自律神経の担当。ホメオスタシスのカギを握る視床下部は身体的、精神的ストレスの影響を受けやすいので、持続的または強烈なストレスによって体調が崩れることも。

3本柱のコントロールタワーに当たるのは脳に存在する視床下部という部位。環境の変化、ストレスなどカラダのさまざまな情報を吸い上げ、自律神経を介して「そろそろこの臓器を動かしなさいよ」とか、免疫器官に「やばいんでリンパ球を増やしてよ」とか、内分泌器官に「ちょっとこのホルモン出しといて」と指令を出す仕組み。こうしてヒトは日々健康に暮らしていけるというわけ。

内分泌と免疫についてはこれまでさまざまな研究が進められてきた。今回は残る人体最大のブラックボックスのひとつ、自律神経のお話。

自律神経の中枢は、わずか4gの「植物脳」

アメーバ状の原生生物からヒドラやイソギンチャクなどの腸を持つ生物に進化し、やがて動物は脊椎を持つものと持たないものの2種類に袂を分かった。哺乳類を代表とする脊椎動物と、昆虫やエビやタコなどの無脊椎動物だ。

この分岐点で神経ルートの変更や赤血球の出現などのさまざまな進化が見られたが、そのまま引き継がれたものもある。一日のうちにある一定のリズムを刻む体内の概日リズムはそのひとつ。日中カラダがアクティブになり、夜間は休息モードになるといったリズムだ。

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自律神経のカギを握る視床下部は、かくも複雑な構造。
視床下部は脳の中にある非常に小さなエリア。ここに、ストレスやホルモン、摂食行動や消化、睡眠、体内リズムといった生命活動に重要な役割を果たす中枢が詰め込まれている。
参考資料/医学書院『図説 中枢神経系』(水野昇、岩堀修明、中村泰尚訳)

さて、自律神経を含むホメオスタシス維持の司令塔が視床下部というのは先ほど述べた通り。視床下部は脳の深部の脳幹にある重さ4gの部位。この小さな部位に生命活動に関わるさまざまな神経の塊がいくつも存在している。睡眠や体内時計といった概日リズムの担当部位もあり、そのリズムに則って自律神経をコントロールしている。

つまり、視床下部は進化のごく初期の段階から存在する部位。別名を「植物脳」といい、脊椎動物に進化したときに獲得した視覚神経や運動神経などのいわゆる「動物脳」とは区別されている。

中枢自律神経網、CANとは?

さて、視床下部が自律神経の司令塔ということを繰り返し述べてきた。だが厳密に言うと、さらに上位に位置するコントロールタワーがあるらしい。恐怖や怒りなどの情動を司る大脳辺縁系や大脳皮質の一部だ。

内臓をはじめとするカラダのさまざまな部位からフィードバックされる知覚情報の一部は、身体的ストレスや精神的ストレス、大脳辺縁系からの情動情報とともに、大脳皮質の「島皮質」という部位で統合される。

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CANを構成する最上位の部位、島皮質。
脳を中心から縦方向に切ったときの断面図。視床下部は脳の深い部分にあるのに対して、島皮質は脳の表面に位置する。深い溝の中にあるとはいえ、血管障害などの影響を受けやすいと考えられる。

島皮質は脳のこめかみのあたりにある大脳皮質の一部。深い溝のように凹んでいて、ぽっかり浮かんだ島のように見えることからこの名がついた。ある学説によると、島皮質の右側は交感神経、左側は副交感神経をコントロールしているともいわれている。

視床下部、大脳辺縁系、島皮質などの総称を、CAN(central autonomic network)、訳して中枢自律神経網という。自律神経の真の中枢はまさにここ。視床下部は脳の深部にあるのに対して大脳皮質は脳の一番外側。従って脳梗塞や認知症などで大脳皮質の機能が損なわれると、自律神経の働きが低下する可能性は高いという。おおこわ。

脳と各内臓を結んでいるネットワークは2種類

ここまで自律神経について語ってきたが、自律神経とは交感神経と副交感神経の2種類の神経の総称。

双方、視床下部のある脳幹から走行する神経だが、交感神経が脊髄に沿って走る脊髄神経なのに対して、副交感神経は脳から循環器、消化器に至り、これとは別に仙髄からの脊髄神経が大腸や排泄器官に延びている。ややこしいが、脳から延びる神経は別名「迷走神経」と呼ばれ、体内で無数に枝分かれして文字通り迷走しつつ臓器にコネクトする。

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交感神経と副交感神経では走行ルートが異なる。
交感神経は脳幹から脊髄に沿って下降し、首、胸、腰の部分から直近の臓器へと至る。一方、副交感神経の一部は脳の迷走神経経路で遠く離れた臓器に至っている。

神経の走行経路が違う理由は謎。ただ、原始生物はひとつの「管」で循環器と消化器の働きを使い分けていた。循環器を優先するときは主に交感神経が働き、消化器を優先するときに副交感神経が働く。ふたつの経路はその名残かもしれない。

交感神経と副交感神経はシーソーの関係

下のイラストをご覧の通り、交感神経は瞳孔を拡張させてより多くの情報を獲得し、気管を拡張させて大量の空気を取り込み、心臓の鼓動をバクバクに速める。副交感神経はこれとは逆に、瞳孔や気管を収縮させ、心拍を低下させる。前者はサバンナで突如敵に遭遇したときに稼働し、後者は洞窟の中でリラックスしているときにメインに働く。

つまり、一方が下がればもう一方は上がる。交感神経と副交感神経はシーソーのような関係だ。

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ふたつの神経が各臓器に及ぼす、プラスとマイナスの作用。
交感神経と副交感神経はすべての臓器において拮抗的に働く。そのなかでも交感神経が得意とするのは循環器系の亢進、副交感神経が得意なのは消化器の亢進だ。

ざっくり言うと、交感神経は日中、活発な活動をするときに優位に働き、副交感神経は日が暮れてカラダが休息モードにスイッチするときに優位に働く、と捉えればいい。

ふたつの神経はこのようにプラスとマイナスの関係だが、それだけではなく、それぞれに得意分野がある。交感神経は心臓、血管、肺などにスピーディに作用し、スクランブルが発生したときに対応できる緊張状態を作り出す。副交感神経は唾液腺や胃、小腸といった消化器に長くゆっくり作用して、必要な栄養をカラダに送り込む。おのおの得意な分野でカラダの調子を整えるという特性を持っているのだ。

食事、運動、睡眠。そのとき自律神経は?

さて、交感神経は主に日中、副交感神経は主に夜間に優位に働くことは間違いない。ただし、厳密に言うと24時間の中で昼夜無関係に攻守交代するタイミングもある。

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心身ともに健康な人の自律神経リズムを追ってみると。
1日24時間の交感神経と副交感神経の働きの概念図。時間軸をベースラインとして上に行くほど交感神経が優位に働き、下に行くほど副交感神経が優位ということ。

そのひとつが、食事。起床後、交感神経はどんどん優位になっていくが、ランチタイムで一旦休憩、副交感神経に舞台を譲る。食事に含まれる栄養の消化吸収を促すためだ。腹がこなれる午後2時頃から再び交感神経が優位になり、夕方から夜に向けて下降し、睡眠中は副交感神経の天下が続くという具合。

一日のどこかで運動が加わると、運動中は交感神経がさらに高まり、運動後には副交感神経の働きが優位になる。こちらは疲れたカラダを回復させるため。自律神経は気づかぬところで勤勉に働いているのだ。

よく聞く自律神経失調症、そもそもどんな症状?

異変が認められる臓器はないのに、自律神経系に関連ありと考えられる不調が生じる。動悸、息切れ、めまい、慢性的な疲労や頭痛…。

心療内科などの分野では、こうした症状を自律神経失調症と診断することがある。

改善策としては、原因となっている精神的なストレスに注目し、取り除くことを重視する場合もあれば、シンプルに内臓の機能の正常化を目指す場合もある。

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一方で神経内科などでは自律神経失調症の捉え方が若干異なる。立っていて急に血圧が落ちて倒れる、強烈な便秘で排便がまったくないといった、自律神経が支配する内臓機能が完全に損なわれているケースのことを指す。どちらにしろ、治療が簡単ではないことは同様だ。

結局のところ自律神経はコントロールできるのか?

昔の人に比べて現代人が格別大きなストレスを受けている、とは一概に言えない。昔の人だって年貢はキツかったろうし、薬もないし、身分制度は厳密だし、なかなかハードな人生を送っていたに違いない。

ただ、昔より自律神経のチューニングに悪影響を与える条件は確かにある。たとえば昼夜無関係に稼働する都市生活での体内リズムの乱れ、たとえば便利なシステムがすっかりできあがったことによる運動不足。

なので、自律神経の働きを整える方法のひとつは、できる限り日の出とともに活動を始め、日が沈んだら休養するという体内リズムの調整。調子が悪いときは、休暇中にそんな生活をしてみることもひとつの手。適度な運動による刺激が自律神経リズムにメリハリを与え、バランス調整に繫がることは言うまでもない。最近では好みの音楽を聴くと運動後の疲労が軽減されるという報告もある。

また、自律神経自体に問題がなくても、肝心の臓器に問題があったり、ヘルニアなど脊椎の病気で神経伝達がうまくいかない可能性もある。持病を放置せず、きちんとメンテナンスに努めることも忘れずに。

取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/大谷亮治 イラストレーション/中川原 透 取材協力/井口保之(東京慈恵会医科大学内科学講座神経内科教授)

(初出『Tarzan』No.698・2016年6月23日発売)

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