思考力の低下は血(けつ)不足かも?「血虚」の原因と対処法(漢方薬剤師・鹿島絵里さん)
「漢方薬店kampo's(カンポーズ)」薬剤師・薬学博士の鹿島絵里さんが漢方医学視点からのカラダづくりを提案する連載「漢方でつくるヘルシーボディ」。今回は「血(けつ)不足」が引き起こすことについて。
思考力の低下は血虚(けっきょ)の状態
漢方医学的視点からカラダづくりを応援する、漢方薬店kampo’s(カンポーズ)薬剤師・薬学博士の鹿島絵里です。
質問に対して相手から答えになってない答えが返ってくる、そんな経験はありませんか? 上司や部下、あるいはパートナーなど身近な人と話が噛み合わないとモヤモヤしますよね。
もちろん中には言葉で伝えるのがそもそも上手くないという人もいるでしょうが、相手の意図を理解できずに明後日の返事をしてしまう人は、共通して血虚(けっきょ)と呼ばれる状態にあることが多いです。
血(けつ)は現代医学でいうところの血液を含む概念です。血虚というと、イコール貧血と思われがちですが、血虚の状態は必ずしも貧血として現れる訳ではありません。血(けつ)の役割にはカラダを滋養する、ものを見る(視力)などがありますし、ものごとを考えるときも血(けつ)を使います。
先に述べたような「質問に対して変な答えが返ってくる」ときは、血虚状態が思考力の低下として現れたと捉えることができます。
コミュニケーションがとれないことも困りますが、思考力の低下による誤った判断が頻発すると、当然ながらトラブルが増えます。こうなると心身共に支障をきたしやすくなり、本人も周りも振り回されてしまいます。
なんだかここ数か月(または数年?)不幸を背負い込みがちだと思ったら、近くの人、時には自分自身が血虚状態をこじらせているかもしれません! いい判断をして、適切なコミュニケーションがとれるように、血虚状態の改善方法を知っておきましょう。タイプを見極めて、個々人にあった対処が必要です。
タイプ① ハードワークからくる一時的な消耗
まずありがちなのが、忙しさなどから一時的に血(けつ)を消耗しすぎているタイプの血虚です。夕方になると目がかすむとか、疲労がたまって朝ほどテキパキ動けないなどが当てはまる方ならこのタイプです。
この場合は五臓の肝(かん)をケアします。
肝には血をため、そのためた血を必要に応じてカラダに分配する働きがあります。肝はストレスの影響を受けやすい部分ですから、多忙だったり我慢を多く強いられると機能が落ちます。機能の落ちた肝では血(けつ)をためられず、さらに分配もできずに血虚症状が引き起こされます。
こうした場合は生活のオンオフを切り替えて休みをきちんと取ることが大事です
柑橘類、苦手でなければセリ科の食材など、香りの高いもので肝の乱れをリセットするのも有効です。漢方薬なら加味逍遙散(かみしょうようさん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが用いられます。
タイプ② 血(けつ)を作る力が弱い
こちらもよくみられますが、血を作り出す力がなくて血不足を引き起こしているタイプです。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)をはじめとする補血薬が有効ですが、大事なのはその次の一手を考えることです。
血虚の慢性化を引き起こすのは多くの場合、血を作り出すための消化器官が弱っていることが原因です。漢方医学で言う五臓の脾(ひ)に問題があります。
脾を回復させて、自ら血を作り出せるカラダを取り戻さない限り、血虚体質からの脱却はありえません。血虚と聞いてレバーを食べようと思うのは、見当違いとまでは言いませんがちょっと早とちりです。
脾が弱っていたら食べたものから充分に栄養を取り出せません。そして血虚は鉄不足とは違います(実際のところ、貧血だって必ずしも鉄不足だけが原因ではありませんから、レバーや鉄剤で解決しようとするのは乱暴というものです)。
こんなときは脾を補う食材を消化の良い形でとる、そして空腹の時間を十分に取って脾を休めます。
おすすめ食材は白米、山芋、高麗人参など。これらを温かなお粥やスープとしていただくのがベストです。漢方薬なら補中益気湯や小建中湯があります。脾の働きが回復すれば食事から血を作り出せるカラダになります。
タイプ③ 生理と連動して起こる血虚
最後にもうひとつ、生理周期と連動するタイプの血虚があります。
男女問わず血虚症状は起こり得ますが、女性は生理がありますから血(けつ)のトラブルに見舞われやすいです。生理周期が短い、出血量が多い、こうした性質は血不足に直結するので注意が必要です。原因はさまざまですので、心当たりがあれば早めに専門家に相談してほしいと思います。
不調が続く時こそ補血を
疲れている、集中できていない、そんなふうに感じたら血虚対策を講じるタイミングです。他人の基準や一般論ではなく、自分基準で自分のカラダをケアしてくださいね。
よく観察してカラダのクセを知っておくと、小さなポイントケアで血虚の予防ができますよ。近くの人で血虚症状が出ている人がいたら、どうぞ寄り添ってあげてください。コントロールできると本人も周りもハッピーです。