小じわもコロコロ便も注意。秋の養生はここがポイント(漢方薬剤師・鹿島絵里さん)
「漢方薬店kampo's(カンポーズ)」薬剤師・薬学博士の鹿島絵里さんが漢方医学視点からのカラダづくりを提案する連載「漢方でつくるヘルシーボディ」。今回は秋の養生について。
温故知新に学ぶ「秋の注意点」
漢方医学的視点からカラダづくりを応援する、漢方薬店kampo’s(カンポーズ)薬剤師・薬学博士の鹿島絵里です。
漢方医学の礎となる書物のひとつに『黄帝内経(こうていだいけい)』があります。『黄帝内経』では人もまた自然の一部と見なして、季節に合わせた過ごし方や心の持ち方を説いています。書かれたのは古代中国ですが、四季があって風土の似た日本でもまた古くから重んじられてきました。
さて、秋分を迎え朝晩は寒いとさえ思える日も出てきました。こんな時期の暮らし方、先人たちはどうしていたのか気になるものです。
『黄帝内経』によると「秋にふく風にあてられると肺を病む」とあります。そして「その反応点と治療穴は肩背部にある」といいます。「秋は邪気が肩背部にあり、おこり(瘧)を病む」とも書かれていますが、まず気を付けるべきポイントとして肩から背中があると読み取れます。
さらにここでいう「肺」とは、現代医学でいう肺の臓器だけを指すのではなく、漢方医学的な意味で肺を中心とした呼吸器系、つまり鼻やのど、さらに大腸や皮膚のことも指しています。
乾燥のサインを見逃さないで
一般的には肺が病むと言ったら風邪をひくことが想像できますが、おこり(瘧)というのは悪寒と発熱を繰り返す病のことで、現代でいうところのマラリアやインフルエンザに相当します。
秋の養生をおろそかにすると、そうした重い肺の病にかかりやすくなると『黄帝内経』は述べています。
マラリアは現代の日本で暮らしていればピンときませんが、インフルエンザは警戒したい肺の病ですよね。肺は潤っていることが機能を維持するうえで重要なのですが、乾燥が気になりだす秋にはその影響を受けやすく、注意が必要です。
肺の乾燥といっても、乾燥して出る咳だけがそのサインではありません。先ほど少し触れました、大腸や皮膚にも乾燥のサインは見て取れます。
粉を吹いて明らかに乾燥した肌は言うまでもありませんが、夕方になると小じわが増えるとか、無意識に肌を搔いているとか、手指のささくれが増えるとか、こうしたサインを見逃さないでほしいです。
また便の状態にも注意してみてください。ごつごつと岩のようであるとか、さらにはコロコロとウサギの糞のような状態なら、それは肺の系統の潤いが不足しています。意識的に対策を行いましょう。
秋の養生のための対策3つ
対策1. 肩と背中を温めよう
電車の中やカフェの空調はまだ冷風が強く吹いています。ストールや羽織るものをひとつ、持ち物に加えておきましょう。秋の邪気が好んで侵入する肩と背中をしっかりと守ります。
また、物理的に温めるのもいいですね。お風呂やカイロなどを利用して、40~45度の少し高めの温度で気持ちよく温まってください。血流をよくするためにストレッチも有効です。肩をよく回したり、左右の肩甲骨をぎゅっと寄せたり、普段あまり動かしていない肩背部分をほぐしましょう。
対策2. 保湿しよう
お風呂上りにクリームを塗ることとインフルエンザを予防することは、現代医学の中で育った私たちには全く無関係のように思えます。
しかし「邪がまだほんうわべの皮毛にとどまっている」状態から「肌膚のところまで侵入」、さらに「筋脈」と進んでいき、「五臓」にまで達すると治療が困難になってくるので、早めに食い止める必要があると説くのが『黄帝内経』です。
漢方が養生を得意とするのは、こうした考え方が根底にあるからでしょう。呼吸器系の機能と肌、大腸の状態をきちんとリンクさせて整えておくことは、それぞれの個々の機能を高めることにもなるので、体表の保湿もやっておきましょう。
対策3. 白い食材と食物繊維をとろう
秋は白い食材が良いとされます。豆腐、梨、レンコン、山芋などはスーパーでも手に入りやすく、おすすめです。また食物繊維が豊富な食品は水分を吸収する性質がありますから、便の乾燥が気になる秋には特に重宝します。
ただし寒さも感じ始める時期ですから、調理法にはひと工夫しましょう。基本的には温かくいただいてほしいですし、そうでなくとも冷蔵庫から取り出してすぐではなく常温にしてからとか、温かいお茶やスープと一緒にとか、カラダを冷やさない工夫を忘れずに。
養生とはいわば「チリツモ」です。これをやったら劇的に何か変わる、ということは非常に稀ですが、気を付けるベクトルがわかって少しのコツを実践できると、いつの間にか体質は変わるものです。
先人たちの知恵、知って損はありませんね。