サウナ×ウェルビーイング。本場フィンランドの最新事情

いま、ウェルビーイングブームも相まって世界各地にサウナが増えているらしい。サウナの本場であるフィンランドでも伝統に新たな文脈をかけ合わせたサービスを提供するブランドが人気を博している。

取材・文/金井タオル 写真提供/テルヘン 

Terhi Ruutu テルヘン Terhen サウナ フィンランド トリートメント

いまや世界的なウェルビーイング(身体的、精神的、また社会的に良好な状態であること)のブームも相まって、トレーニングジムに併設される形で世界各地にサウナが増えているらしい。では、サウナの本場・フィンランドではどうか。

ヘルシンキ在住のサウナセラピスト、テルヒ・ルートゥ(Terhi Ruutu)さんが2021年に立ち上げたライフスタイル・ブランド〈テルヘン〉もまた、フィンランドの伝統的なサウナ文化にウェルビーイングという新たな文脈をかけ合わせたサービスを提供している。

サウナを通して、ケアと感謝の気持ちを学ぶ

以前は、フィンランドを代表するテーブルウェアの総合ブランド〈イッタラ〉でグローバルリテールマーケティングとリテールコンセプトデベロップメントを担当していたというテルヒさん。

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テルヒ・ルートゥさん(写真左)とスタッフ

当時はあまりサウナに興味がなかったものの、友人に誘われて国内の公衆サウナ巡りへ。そこで体験した伝統的な施術をキッカケにして、サウナ文化に開眼。休暇を取得し、ヘルシンキでマッサージを、ついで2人のフィンランド人女性のもとで1年かけてサウナ・セラピストのトレーニングを受ける。

「解剖学や民間療法を学び、特に人体のケアと感謝の気持ちを学びました。また、看護や癒しについても多くを学び、人はみな同じであり、誰もが価値ある存在なのだと実感させられました。

この気づきは、フィンランドのサウナ文化がすべての人に平等な場所であることとも強く関連しています」(テルヒさん)

勉強をはじめた段階では起業をするつもりはなかったが、自身が学んだ伝統とサウナ文化をより広いターゲットに伝えたいと、起業を決意。現在に至る。

伝統的な施術を現代的にアップデート

〈テルヘン〉が提供するサービスは、カッピング(ガラスなどのカップを肌に当て、カップ内の圧力を変える施術)や白土を用いた泥パック、泥炭や岩塩と蜂蜜のスクラブ、ハーブ水の足湯など伝統的なケアをベースにした「フィトテラピー」と呼ばれるハーブ療法がメインとなる。

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当然、施術で使用する素材にもこだわっている。春先ならイラクサ、夏は白樺など、季節ごとの天然素材を活用。秋頃に採れる針葉樹であれば「かたい葉先で体を刺激することにより肺を強くし、来たるべき冬に備える」など、用いる植物ごとに伝統に裏付けられた効能があるそう。

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「サウナに入ることは、いくつかの健康上の良い効果があります。どのサウナにも備わっているゆっくりとしたペースとリラクゼーションは、ストレスを低下させ、私たちの精神的な幸福感を高めてくれます。

さらに、サウナの身体への効果は軽い運動に相当します。発汗と血圧の低下は、循環器系、血液循環、肺に良い影響を与えます。また、精神的な幸福感を高め、ストレスも軽減します。

サウナトリートメントは、これらの効果を強化し、自然とのつながり(トリートメントに多くの天然成分を使用しているため)や内面的な世界を向上させます。サウナトリートメントでは、人々の身体、心、魂を全体としてとらえます。常に全体をケアすることが重要なのです」(テルヒさん)

そんな〈テルヘン〉のトリートメントは、なんと自宅でも簡単に試せるらしい。

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「自分自身で、あるいは友人と一緒に試してもらいたいとおもい、『SAUNA THERAPY – RECIPES FOR WELL-BEING』という本を書きました。様々なバス、ハーバルトリートメントなどのやり方をまとめています。多くは、サウナなしでも楽しむことができますよ」(テルヒさん)

いつかは、自分のサウナ施設を

テルヒさん自身はサウナ施設を経営していないため、〈テルヘン〉のサービスは既存のサウナ施設などで行われるポップアップイベントで提供されている。

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〈テルヘン〉のトリートメントと公衆サウナを同時に楽しめるため、ポップアップイベントを楽しみにしているユーザーもいるものの、どうしてもサービス内容に限りは出てしまう。故に「いつかは、ヘルシンキにサウナ施設をオープンさせることが目標」なのだと語る。

では、どのような施設にしたいと考えているのだろうか。

「とても好きな質問なので、長く話すことができるのですが、なるべく短くまとめますね(笑)。サウナをコンセプトの中心とした“ライフスタイルの発信地”にしたいと考えています。そこでは、サウナにとどまらない伝統をベースにしたトリートメントを提供します。

なによりも、人と人が出会う昔の公衆サウナ文化を尊重することが重要です。だからこそ、ヘルシンキという都市にオープンしたいのです。

また、〈テルヘン〉が独自に作り上げたサウナ文化を提供するセラピスト(Terhen Sauna Host)の育成も予定しています」(テルヒさん)

そもそも伝統的なケアに特化したサウナ施設はフィンランドにも数か所しかなく、テルヒさんの知る限り首都・ヘルシンキには一軒もないという。

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「伝統的な療法士やサウナ・セラピストはいるのですが、〈テルヘン〉のようなコンセプトはほかにありません。一部のサウナでもトリートメントは行われていますが、非常に稀なことです。そうした流れが変わり、サウナ文化がより豊かになって、それに属する伝統的な治療法が増えることを期待しています」(テルヒさん)

サウナはバランスを維持するためのルーティン

あらためて、テルヒさんは「ウェルビーイング」をどう定義しているのかも聞いてみた。

「ウェルビーイングとは、日々の生活の中で幸せと健康を感じられる、バランスのとれたライフスタイルのことです。なかでも、サウナはこのバランスを維持するための素晴らしいルーティンです。

もちろん健康的なライフスタイルも大切ですが、一番大切なのは日常生活を楽しむこと。日常生活が幸せでなければ、ダイエットや運動は役に立ちません。

一番大切なのは、日々の生活に投資することです。“好きなことをする”というのは、フィンランドに限らず昔からよく言われることだと思います」(テルヒさん)

〈テルヘン〉のサイトではオリジナルのヘアグッズや化粧品なども販売されているものの、残念ながら日本からの購入はできない。ただ、オンラインコミュニティ「Sauna Community」(英語版のみ)には参加可能。

「日本人のファンが増えると嬉しいですね。気になることがあれば、ぜひ問い合わせてください」とのことなので、フィンランドのサウナ文化をより深く追求したい方は参加してみるのもいいかもしれない。