坐骨神経痛「放っておくと危ない」理由
トレーニングをしていると耳にする「コンディショニング」という言葉を、詳しく紐解いていく「コンディショニングのひみつ」連載。第29回は、下肢の痛みやしびれをもたらす坐骨神経痛について。
取材・文/黒澤祐美 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.836・2022年6月23日発売
下肢の痛みやしびれをもたらす坐骨神経痛
スポーツ障害のコンディショニング、今回のテーマは「坐骨神経痛」について。
坐骨神経は鉛筆ほどの太さがある人体最大の神経であり、骨盤を出ると梨状筋を抜け、坐骨結節と大転子の間、大臀筋、大腿二頭筋、大内転筋を通り、膝の上方で総腓骨神経と脛骨神経に分かれて足の指まで延びている。
坐骨神経痛とは疾患名ではなく、坐骨神経が圧迫されることでお尻から下肢にかけて「ピリピリ」「チクチク」「ズキズキ」といった痛みが表れる状態のこと。
緊急を要するケースが少ないため安静と消炎鎮痛剤でその場をやり過ごしてしまう人もいるが、根本的な原因を突き止めない限り痛みは続くため、まずは医療機関を受診することが望ましい。
下肢の痛みやしびれを生じる腰椎疾患の原因は、腫瘍性、感染症、炎症性、外傷と多岐にわたるが、なかでも腰椎の退行性変化、つまり加齢による腰椎変形疾患の頻度がもっとも高い。代表的な腰椎変形疾患を見ていこう。
腰椎椎間板ヘルニア
先ほど加齢による変形疾患の頻度が高いと記したが、この腰椎椎間板ヘルニアに関しては20〜40代といった比較的若年層に発症しやすい。
タイヤの外層ゴムに亀裂が入り、中のチューブが飛び出すように、椎間板が破れて髄核が後方に突出し脚に向かう神経を圧迫することで痛みやしびれを生じる。顔を洗う動作や靴下を履く動作のように、前屈みになると痛みが出やすい。
治療方法は鎮痛薬やブロック注射による保存療法。手術に至る場合もある。
腰部脊柱管狭窄症
中高年に多く、椎間板ヘルニアとは逆に腰椎を後屈させると痛みが悪化することが多い。脊髄の神経が通るトンネル(脊柱管)が加齢とともに狭くなり、それにより神経が圧迫を受けて痛みやしびれが生じるというもの。
治療は神経ブロックや神経の血行を促す薬、リハビリ、コルセットなど。歩行障害がある場合は手術を行うこともある。
腰椎分離すべり症
ヘルニアや狭窄症よりも頻度は低いが、幅広い層で発症しやすいのがこの腰椎分離すべり症。
腰椎の背中側の骨に亀裂が入り、腰椎を支えきれず椎骨が前にずれてくることで神経を圧迫。片側のみの下肢の痛みやしびれを生じることが多く、腰椎を痛みのある方へ反らすと痛みが増強される。
治療方法は神経根ブロックや鎮痛薬による保存療法。こちらも場合によっては手術となる。
梨状筋症候群
さて、ここまでは腰の疾患が原因による坐骨神経痛を紹介したが、もう一つ、お尻の筋肉である梨状筋が硬直することで坐骨神経を潰してしまう「梨状筋症候群」の場合もある。
硬くなる原因の一つは運動不足。梨状筋症候群の改善に有効なのが、硬直した梨状筋の柔らかさを取り戻すこと。長時間の座り仕事などでお尻が固まりがちな人は、下のようなストレッチやマッサージを取り入れるとよい。
予防エクササイズ
膝を立てて仰向けになり、左の足首を右腿に乗せる。右腿を両手で抱えて胸の方へ引き寄せ、左のお尻をストレッチ。逆も。
梨状筋の下にフォームローラー(テニスボールなどでも可)を置き、体重をかけながら転がすことで筋肉をほぐす。
復習クイズ
答え:梨状筋