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20代前半の女性を悩ます「顎関節症」の原因と対策

顎関節症

顎の関節や顎を動かす筋肉が痛んだり、咀嚼時におかしな音がすることも。口を大きく開けにくくなって、食事に苦労する姿がときに周囲に奇異に見えるが、患者にとっては一大事だ。

ここ一番の大事な場面で思うように口が開かない。開けようとすると顎が痛む。痛みを押して開けばおかしな音が鳴る。2人に1人が一生の間に一度は経験する顎関節症(がくかんせつしょう)の多くは、自助努力で改善の可能性があるものの、放置は禁物な理由とは?

男女ともに20代前半に多い「顎関節症」

ある日を境に、話そう、食べようとするたびにが言うことを聞かない。痛い、口を開けにくい、開けようとするといままで聞いたことのない音が顎関節から聞こえる…。これがいま増加中の顎関節症(がくかんせつしょう)だ。

顎関節症

顎関節症で痛みが出やすい部位/口の開閉や咀嚼など顎が動くと痛むほか、痛みが筋肉に緊張と疲労をもたらし、血流が悪化する結果、発痛物質の排出が進まず、過敏になった筋肉に触れただけで痛む圧痛も出てくることがある。出典/『自分で治せる! 顎関節症』(木野孔司監修/講談社、2014)

「平成28年歯科疾患実態調査」(厚生労働省)によると、歯科を受診した20代前半の女性のうち、顎関節に雑音がすると答えた人が40%以上、痛みを感じると答えた人は15%近くいた。このことは外来でも早くから確認されていて、20代前半の女性が最大多数で、その後は男女とも一貫して少なくなっている。

顎関節症

多い女性患者も年とともに減っていく/男性3887人、女性8999人の外来受診患者数を見ると、男女とも20代前半が最多で、その後の世代は徐々に少なくなっていた。女性は40代で再度増えるとする二峰性の発症“ではない”ことがわかる。また、一般的には加齢に伴い歯が抜けるなど口腔環境は悪化することを考えると、嚙み合わせや歯並びの問題が顎関節症の原因“ではない”ことも推測できる。もちろん、このデータには発症しても受診しなかった患者は含まれないから、本当に中高年に発症が少ないかどうかは不明。出典/東京医科歯科大学第一口腔外科1982年~1996年顎関節症性別・年齢別分布

だが、先の「歯科疾患実態調査」では、単調減少ではなく、中高年になると女性は再度増加するというデータもある。このため女性ホルモン・エストロゲンとの関係を指摘した研究もあるが、確かなことはよくわかっていない。

とはいえ、華奢な顎関節の持ち主が嚙み締め行為を過度に繰り返せば、顎とその周囲にダメージをもたらす可能性は考えられる。

「顎関節症」の顎で起きていること
顎関節症

側頭骨の左右、上の窪み(下顎窩)に下顎頭が入り込む構造になっている。下顎頭の上端にはコラーゲンでできた関節円板が付着、クッションとして機能している。原図出典/前出『顎関節症』

顎関節症

正常な場合、下顎頭が回転し関節円板とともに前に移動し、口が開く。

顎関節症

関節円板は前後の連結が緩いため、ずれた状態から下顎頭に乗り上げるときにカクッという音が。

顎関節症

関節円板の変形が進むと下顎頭が前に出られなくなり、口が開けにくくなる。だが、症状があるからといって、この現状を外科的に変更するのはいまでは最後の選択肢になることが多い。

顎関節症のリスクをセルフチェックしよう

顎の使い方に影響するかもしれない生活環境は、既にいくつも知られている。下のセルフチェックで顧みてほしい。

該当項目があれば顎関節症の疑いあり!
  • 食べ物を嚙んだり、長い間しゃべったりすると、顎がだるく疲れる。
  • 顎を動かすと痛みがあり、口を開閉すると、特に痛みを感じる。
  • 耳の前やこめかみ、頰に痛みを感じる。
  • 大きなあくびや、リンゴの丸かじりができない。
  • ときどき顎が引っかかったようになり、動かなくなることがある。
  • 人差し指、中指、薬指の3本を縦に揃えて、口に入れることができない。
  • 口を開閉したとき、耳の前のあたりで音がする。
  • 最近、顎や頸部、頭などを打ったことがある。
  • 最近、嚙み合わせが変わったと感じる。
  • 頭痛や肩こりがよくする。

出典/『顎関節症』(“KOMPAS”慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト

予防のために注意すべき生活環境
小学生 スポーツ外傷(クラブ活動含む)、いじめ、家庭環境、受験
中・高校生 受験、クラブ活動(ブラスバンド、コンタクトスポーツ等)、家庭環境、恋愛問題
大学生 定期試験、クラブ活動、就職問題、学習環境
成年期(~40代) 仕事環境(モニターを見続けるなどの労働環境、人間関係のストレスなど)、家庭環境
成年期(50代) 仕事環境、家庭環境、スポーツ障害
壮年期(60代) 燃え尽き症候群、過剰活動、家庭環境
どれか一つが原因と言い切れるほど強い影響力はないので、これらは寄与因子と呼ばれている。出典/『顎関節症治療の指針 2020』(一般社団法人日本顎関節学会編)

発症時の症状は衝撃的だが、顎関節症は多くの場合、時間の経過とともに和らいでいく。特に治療を受けなくても経過のいい疾患とされている。ということは、実際の患者数は報告されている受診者よりずっと多いと考えられる。

噛み締め癖は歯周病の進行も引き起こす

家庭でも社会でも責任の重くなる中高年では、多忙から受診できていない患者も相当数いるだろう。なかには症状の長引く人もいるし、嚙み締めの癖を自覚する人は急いで受診すべきだ。

なぜか? 日本では成人の8割が歯周病を罹患している。歯周病患者が嚙み締めを始めると、歯の揺れが急激に大きくなる。歯の揺れが大きいほど歯周病が進行していることを意味する。嚙み締めは歯周病を悪化させ、辿り着く先は歯の喪失だ。歯の喪失は認知症の一因にもなる。

だからといって慌てて受診した歯科医院で、歯並びや歯の嚙み合わせの治療を提案されたら要一考だ。嚙み合わせの異常が顎関節症の主たる原因だという考え方は、専門医の間ではもはや完全に否定されている

別の医師にセカンドオピニオンを求めるのもいいだろう。

もちろん嚙み合わせの異常が最後のひと押しになって発症するケースもありうるが、他の寄与因子がいくつも積み重なってのことが多い。それら寄与因子を探り当て、ちょっとした生活習慣やストレスとの関係を変えるだけで、短期間で回復する人も多いのだ。

「行動変容法」で嚙み締め習慣をなくそう

さて、顎関節症の出発点は往々にして歯並びや嚙み合わせの異常ではなく顎の使い方による。つまり、既に指摘した嚙み締めの癖だ。これを専門的にはTCH(Tooth Contacting Habit)という。

本来、人は安静時に上下の歯を嚙み締めることなく、2~3mmの隙間を空けているものだ。不意に上下の歯が接触すると反射的に歯を離し、隙間を取り戻す。嚙み締めている時間は1日で合計20分未満だとされる。これが本来の正常な反応だ。

ところが、長時間の仕事や細かい手作業、自動車の運転や受験勉強などに没頭すると、無意識に嚙み締め続ける人が現れる。

それが続くと顎を動かす筋肉は疲労するし、顎関節には負荷がかかり続ける。といっても、その疲労は重労働からくるような顕著なものではないため、脳はやがて慣れてしまい、疲労していることに気づかなくなっていく。かくて臨界点に達した顎に症状が表れる。

顎関節症の患者のおよそ8割にTCHが見られるという。このTCHから脱却するには、臨床の現場で編み出された行動変容法を試すのがいい。

その方法は単純で、家庭や職場の自分が一定時間以上を過ごす場所の目につきやすい位置に、「歯を離せ」などの短い言葉を書いた貼り紙をするのだ。同じ文言、同じような貼り紙に統一し、10か所以上に貼る。

顎関節症 TCH是正 行動変容法

TCH是正には行動変容法で/家庭や職場などで自分が目にすることの多い場所、10か所以上に貼り紙をする。貼り紙は同じ大きさ、色、形、文言に統一して始めるといい。

これが目に入るたびに、いったん全身に力を入れてから、息を吐きながら脱力する。先に力まないと十分な脱力には至らない。そして、嚙み締めを解除する。

これを繰り返すうちに、やがて文字による指令を脳で理解して行動するのではなく、貼り紙が見える→脱力するという条件反射が刷り込まれ、いずれは貼り紙の助けがなくても、歯が接触すると気づくようにもなる。

歯が接触している状態の方が本来は不自然だから、この新しい反応は自然なもの。元からあるものだから、定着すれば嚙み締めはおのずと収まるだろう。

幸運にも歯周病を抱えていないなら、この行動変容法の実践だけでも、症状の改善には大きく役立つはずだ。

取材・文/廣松正浩 イラストレーション/横田ユキオ 取材協力・監修/木野孔司(木野顎関節研究所所長、元東京医科歯科大学歯学部附属病院顎関節治療部部長)

初出『Tarzan』No.835・2022年6月9日発売

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