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こんなパンを待っていた! 豆でつくられたグルテンフリーの《ZENB ブレッド》
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人体最大の関節であり、日常動作で大きな負荷が加わる股関節は20種類以上の筋肉によって支えられ、多様な動きが可能だ。しかし、運動不足で座っている時間の長い現代人の股関節は、稼働性の低下は著しい。まずは股関節の動きと役割を理解して、足元からカラダを変えていこう。
ヒトには、全部で200個を超える関節があり、それぞれ重要な役割を担っている。
「なかでもいちばん大きい関節が、股関節です」(順天堂大学保健医療学部の宮森隆行講師)
股関節は、骨盤の左右にある凹み(寛骨臼)に、太腿の大腿骨の丸みを帯びた先端(大腿骨頭)がハマったもの。股関節は球関節に分類されるが、臼状の深い凹みにしっかりハマっていることから、臼状関節とも呼ばれる。股関節は、唯一の臼状関節だ。
たとえば肩甲骨が作る肩関節は動きやすく、稼働性が優位な関節だが、対照的に股関節は安定性を重視する関節。
大腿骨頭の5分の4前後は、寛骨臼に埋まり、構造上、そうそう簡単には抜けないようになっている。肩関節を脱臼することはままあるが、股関節を脱臼することは滅多にないのは、このためである。
加えて、まるでテーピングをするように、多数の靱帯により股関節は補強されている。このうち腸骨大腿靱帯は、全身でいちばん強力な靱帯。さらに靱帯は、互いにクロスするように走っており、どの方向から力が加わってもビクともしないように、股関節を安定させているのだ。
股関節は、なぜここまで安定感抜群で頑丈に作られているのか。その理由は、股関節にはそれだけ大きな負荷がかかるから。
直立二足歩行をするヒトでは、立って行う運動の大半に、股関節が関わっている。そして動くたびに、股関節には体重が加わり続ける。股関節に加算される負荷は、私たちの想像を軽く超えている。
たとえば、歩くだけで股関節には体重の3~4倍の衝撃が走る。走るとそれが4~5倍になり、椅子から立ち上がるときや、階段の上り下りなどでは、最大で体重の6~8倍もの負荷が加わるとされる。こうしたストレスに耐えるために、股関節はタフに設計されているのだ。
だが、関節は安定性オンリーではなく、動きやすさ=稼働性も求められる。股関節は安定性に優れる反面、運動不足だと稼働性が低下しやすいという弱点を秘めている。
「股関節のトレーニングでは、周辺の筋肉にアプローチしながら、稼働性を高めることに重きを置くケースが多くなります」(フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん)
せっかくの股関節のポテンシャルを引き出すために、安定性と稼働性を両立させる努力をお忘れなく。
股関節は、屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋という6方向の動きができるように作られている。
そのため、お尻の大臀筋や中臀筋、太腿の大腿四頭筋やハムストリングスといった表層のアウターマッスルだけでなく、深層のインナーマッスルである腸腰筋や梨状筋といった多数の筋肉がついている。大小合わせて20種類ほどの筋肉が、股関節を動かしているのだ。
なかでも大臀筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、腸腰筋は、重力に対して姿勢と動きを支えている大切な「抗重力筋」の代表格である。
だが、イマドキは運動不足でじっと坐っている時間が長く、股関節は屈曲したままでフリーズ。自慢の抗重力筋も、宝の持ち腐れ状態だ。屈曲以外のチャンスが少なくなると、活躍する機会を失った筋肉は弱く硬くなり、稼働性が落ちる。それが、安定性の低下を招く恐れもある。
トレーニングやスポーツに励まなくても、日常生活で股関節を使うチャンスはいくらでもある。股関節を意識して動かせば、20種類もの筋肉が一挙に稼働できるのだから、眠らせるのはもったいない。股関節を目覚めさせるため、立ち上がり、少し大股で歩くことからスタートしよう。
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/野村憲司、今牧良治(共にトキア企画) 監修・取材協力/中野ジェームズ修一(フィジカルトレーナー)、宮森隆行(順天堂大学保健医療学部 理学療法士、医学博士)
初出『Tarzan』No.833・2022年5月12日発売