なぜデスクワークで背中が丸まる? 肩甲骨の構造から紐解く
重要なパーツでありながら、イマイチ使いこなせていない感のある肩甲骨。驚くほど多くの筋肉と関わり、ゆえにカラダの好不調にも直結している。我々の日常動作でそれぞれがどう動き、影響を与えているかを図解で学ぼう。
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/野村憲司、今牧良治(共にトキア企画) 監修・取材協力/中野ジェームズ修一(フィジカルトレーナー)、宮森隆行(順天堂大学保健医療学部 理学療法士、医学博士)
初出『Tarzan』No.833・2022年5月12日発売
肩関節は一つではない。肩甲骨が4つの関節を作る
上半身の姿勢や運動と深く関わっているのが、肩関節。その最重要パーツが、肩甲骨だ。実は、肩関節は一つではない。いわゆる肩関節は、肩甲上腕関節のこと。肩甲骨の凹みに、腕の上腕骨の丸みを帯びた先端が接する。
他にも、肩関節には、肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸鎖関節があり、いずれも肩甲骨が絡んでいる。これらの関節は互いにリンクしていることから、「肩関節複合体(ショルダー・コンプレックス)」と呼ばれている。この肩関節複合体の鍵を握っているのが、肩甲骨なのだ。
肩関節複合体でまず注目なのは、やはり肩甲上腕関節。人体でもっとも自由に動ける関節である。秘密は、その作りにある。
肩甲上腕関節と股関節は、球関節。関節の凸面と凹面が半球状で、3Dで滑らかに動ける。このうち肩甲上腕関節は、凸面と凹面が浅く接するだけ。ティーに乗るゴルフボールに喩えられるほどだから、それだけ自在に動けるのだ。
肩の動きには肩甲骨が極めて重要
肩関節複合体で、次に目を向けるのは、肩甲胸郭関節。数ある関節のなかでも、肩甲胸郭関節はかなりユニーク。
関節は通常、骨と骨が軟骨を介して接し、靱帯というサポーターのような組織で補強されている。だが、肩甲胸郭関節では、肩甲骨と胸郭は直に接しておらず、両者をつなぐ靱帯も見当たらない。
肩甲骨は、胸郭の後ろを滑るように移動し、上下・左右・回旋を行う。他の関節と作りは違うが、関節のように振る舞うことから、肩甲胸郭関節は「機能性関節」と称される。
そして前述の肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節には、肩甲上腕リズムという独自の運動パターンがある。
「肩を動かす際、肩甲上腕関節だけではなく、肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸鎖関節が働いています。殊に大事なのが、肩甲胸郭関節。腕を高く上げるときは、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節は2:1のリズムで動くようにできているのです」(順天堂大学保健医療学部の宮森隆行講師)
肩甲骨のおもな動きとそれを支える筋肉
デスクワークでは外転と挙上が起こりやすい
肩甲骨では、筋肉が果たす役割が殊に大きい。
「関節の稼働性と安定性は筋肉が支えますが、肩甲骨ではその傾向がとくに強い。肩甲骨は、背中の筋肉の多くが経由している“ハブ”のような存在なのです」(フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん)
肩甲骨を中心とする肩関節複合体を動かす筋肉は、全部で15種類ほど。つまり肩甲骨を動かすだけで、15種類もの筋肉が使えるようになる。
表層筋
深層筋
でも、現状では肩甲骨につく筋肉の多くは、開店休業状態。なぜなら、肩甲骨が固まり、得意のアクティブな動きを封じられているからだ。デスクワーク中やスマホ操作中は、肩甲骨は左右に広がる外転を起こし、猫背になりやすい。そこへストレスによる緊張が加わると、肩とともに肩甲骨は徐々に上がる。
かくて外転と挙上に関わる筋肉ばかりが酷使されて、それ以外の筋肉がオフのままだと、筋力と柔軟性のバランスが崩れる。すると肩甲骨の機能が低下。上半身にトラブルが多発するのだ。