腸活のホットワード“タンサ(短鎖)脂肪酸”
偏った食生活や運動不足、そしてストレスなどから現代人の腸内環境は乱れがち。腸内環境が悪くなれば、肥満や糖尿病といった生活習慣病にもつながる。
なかでも肥満は近年、世界的な社会問題となっていて厚生労働省(※)によると、成人の日本人男性で30%以上、40~50歳代にいたっては約40%が肥満状態にあり、女性は50歳代以降肥満が多くなる傾向にある。肥満自体は病気でないものの糖尿病をはじめ、高血圧、脂質異常症など多くの生活習慣病を引き起こし、重大な病気の要因になる。
とはいえ、食事制限やキツイ運動といった苦行なく太りにくいカラダになりたい。そんな都合の良いハナシを実現させるのに役立つのが、最近よく耳にする「腸活」。腸に良いとされる菌を積極的に取り入れるなど腸の状態を良くすることで太りにくいカラダになることがわかってきている。その秘密が、腸内細菌が作る代謝物質「タンサ(短鎖)脂肪酸」だ。
タンサ(短鎖)脂肪酸が太りにくいカラダを作る
タンサ(短鎖)脂肪酸とは、大腸内に存在するビフィズス菌をはじめとする腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖をエサにして作り出す代謝物。
代表的なものとして「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」の3つがあり、これらが血液に取り込まれ、全身に吸収されることで健康効果を与え、太りにくいカラダになることがわかってきたのだ。
馬場悠平さん
教えてくれる人
江崎グリコ商品技術開発研究所 乳業・洋生菓子グループ 菌類を使用した基礎研究をもとに、現在はタンサ(短鎖)脂肪酸と抗肥満についての研究活動とヨーグルトが健康に及ぼす作用の研究に取り組み、商品開発にも従事。
タンサ(短鎖)脂肪酸をはじめ食品成分の健康効果を研究している江崎グリコ商品技術開発研究所の馬場悠平さんも酢酸をはじめとしたタンサ(短鎖)脂肪酸のチカラに注目している。
「タンサ(短鎖)脂肪酸は複数の酸の総称です。その中でも注目したいのはビフィズス菌が産生する酢酸。酢酸には既についてしまった体脂肪を減らしたり、つきにくくしたりする働きがあります。具体的には脂肪に栄養が取り込まれ、 蓄積するのを防いでくれます。さらに⾷欲を抑制するホルモンの分泌を促進したり、筋⾁や肝臓での糖代謝を改善しエネルギーを消費しやすくしてくれるので、体脂肪がつきにくくなります」(馬場さん)。
タンサ(短鎖)脂肪酸を作り出すカラダとは、つまり太りにくいカラダということ。好きなように食べているのに不思議と太らない人は、もしかしたらタンサ脂肪酸をたくさん生み出す腸内環境になっているのかもしれない。
タンサ(短鎖)脂肪酸が多くあると持久力が高まることもわかっており良いことづくし。整える、鍛える上で、ぜひカラダにせっせと作ってもらいたいものなのだ。
タンサ(短鎖)脂肪酸はどうやって増やす?
タンサ(短鎖)脂肪酸が素晴らしい役割を担っているのはわかったが、どのように作って、増やせばいいのか? ポイントは2つ。
ビフィズス菌を増やす
植物など広く自然界にある乳酸菌と違い、ヒトや動物の腸内に存在するビフィズス菌は実は摂取するのが難しい。
「発酵食品で摂取できそうなイメージがあると思いますが、それらに含まれるのは大半が乳酸菌。ビフィズス菌は熱や酸素に弱いので、補給できる⼿段は実はかなり限られているんです。 さらに、乳酸菌やビフィズス菌は熱に弱く、調理法によっては菌がどんどん死滅してしまうので、注意が必要です」(馬場さん)。
馬場さんによるとビフィズス菌をとれる食品はヨーグルトとサプリメントくらいしかなく、食品から摂取しても大腸にたどり着く前に胃酸等で死滅する菌も少なくない。腸に生きたままビフィズス菌を届けるのは結構大変なことだとも話す。なじみ深いものでも、実はとても摂取しづらいのだ!
しかも頼みの綱のヨーグルトといえど市販の製品すべてにビフィズス菌が入っているわけではなく、かつ酸や酸素に弱く大腸まで届きづらい。だから、胃酸に対する耐性が強く、生きて腸まで届きおなかで増えるビフィズス菌を提供している食品メーカーもあるので、製品毎にどんな種類の菌が入っているのか意識して選びたい。江崎グリコであれば馬場さんも開発に関わったグリコ独⾃のビフィズス菌 (Bifidobacterium animalis ssp. lactis GCL2505株 ※欄外参照)がある。
ビフィズス菌のエサとなる食物繊維をとる
タンサ(短鎖)脂肪酸を多く作るにはビフィズス菌を補給することに加えて、腸内にいる善玉菌に元気に働いてもらわねばならない。そのためにビフィズス菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を与えることがポイントだ。
食物繊維には2種類あり、穀物や野菜、豆類、きのこなど多彩な食品を摂るのが良い。特に昆布などの海藻類やタマネギ、チコリなどに含まれる水溶性食物繊維は腸内細菌によって分解されやすく、タンサ(短鎖)脂肪酸を増やしてくれるので、積極的にとりたい。ちなみに野菜やきのこ、豆類などに含まれる不溶性食物繊維は便のかさを増し、腸の働きを良くしてくれる。
腸内のビフィズス菌は排泄とともに外に出てしまい、腸内に棲み続けることができないので摂取をやめてしまうとすぐ減って、元通りになってしまう。ビフィズス菌こそ常日頃少しずつ、そして食物繊維を“おかず”に長く摂り続けることが重要だ。
タンサ(短鎖)脂肪酸で太りにくいカラダに
腸内環境を整え、タンサ(短鎖)脂肪酸が多く作られれば脂肪蓄積を抑制し代謝を高め、太りにくいカラダになる。ビフィズス菌と食物繊維を補給する食生活を送っていれば、放っておいてもカラダがタンサ(短鎖)脂肪酸を作ってくれるのだから、この素晴らしきシステムを使わない手はない。加えてウォーキングなど軽めの運動が組み込まれていればなお良し!
腸内環境が整っていなければ栄養の吸収も効率的に行えず、トレーニングの効果も上がらない。最近では睡眠の質や脳の働きにも影響を与えると言われるほど。腸内環境を整えることはココロとカラダ、つまりは生活全体の質を上げることにつながる。
聞き慣れなかった腸活のホットワード「タンサ(短鎖)脂肪酸」も、なんてことはない。ヨーグルトの菌の種類を意識し、根菜類など身の回りにあるものをちょっと付け足すだけで誰もが作りだせるもの。これでなりたいカラダになれるのだから、カン“タンさ”!
「グリコ独⾃のビフィズス菌 ×⾷物繊維イヌリン」が⼊っ たヨーグルトは 「タンサ(短鎖)脂肪酸」の産⽣⼒が⾼い
グリコ独⾃のビフィズス菌(Bifidobacterium animalis ssp. lactis GCL2505株)と⾷物繊維イヌリンを含むヨーグルトは、乳酸菌だけが使われているヨーグルトにくらべ、48時間培養後のタンサ(短鎖)脂肪酸量が有意に多い結果が認められました。