無理に戻してはいけない! 「脱臼」の適切な処置
トレーニングをしていると耳にする「コンディショニング」という言葉を、詳しく紐解いていく「コンディショニングのひみつ」連載。第26回は、接触や転倒での発生率が高い「脱臼」と「亜脱臼」について。
取材・文/黒澤祐美 漫画/コルシカ 監修/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ代表)
初出『Tarzan』No.833・2022年5月12日発売
接触や転倒での発生率が高い「脱臼・亜脱臼」
スポーツ障害のコンディショニング、今回のテーマは「脱臼」について。脱臼とは、ひと言でいうと関節の適合性が失われた状態のこと。関節を形成する骨と骨が完全に離れた状態を「脱臼」、部分的にずれた状態を「亜脱臼」という。
肩、肘、股関節、膝、顎などに発生し、なかでも起こりやすいのが人体で最も広い関節可動域を持つ肩関節だ。
肩関節は、ボールのように丸みを帯びた上腕骨の骨頭が関節窩のくぼみにはまり込んだ構造(下記イラスト)によって、腕をさまざまな方向に動かすことができる。
そのため脱臼も前方、後方、下方とさまざまな方向で起こる可能性があるが、もっとも発生率が高いといわれているのが後方から肩へ衝撃が加わることで上腕骨の頭がくぼみから前方にずれる「前方脱臼」。
起こりやすいシーンはラグビーや柔道といったコンタクトスポーツ中の接触や、スキーやスノーボード中の転倒など。日常生活では、肘が伸び切ったまま手を上げてさらに肩が開いた状態のときに過度の力(引っ張られる・手をついて転ぶなど)が加わると、周囲の靱帯や関節包が損傷し、その結果骨が前方に外れる場合がある。
厄介なのは、受傷2回目以降。
一度脱臼すると靱帯や関節窩などの組織がすり減っているため、回数を追うごとに骨が外れやすくなる(これを反復性脱臼という)。脱臼の症状は、明らかな関節の変形、強烈な痛みと腫れ。合併症を引き起こすことは稀だが、神経圧迫による痺れや肉離れによる筋痙攣を起こす可能性もあるため適切な処置が必要となる。
ちなみに肩関節脱臼に次いで2番目に発生頻度が高い場所が、肘関節。転倒時、肘を伸ばした状態で地面に手をつくことで起こる肘関節の後方脱臼が主である。
今回はこの肩関節と肘関節脱臼の治療と予防について考えていこう。
脱臼の治療と再発予防
脱臼を受傷した際にまず心得ておきたいのが、骨を無理に戻そうとしないこと。変形、痛み、腫れが見られる場合は医療機関を受診し、レントゲンで骨の変異や骨折の有無等を確認。
そのうえで、適切な処置をしてもらうのが望ましい。医師による整復後、腕を下ろして肘を曲げた状態でまずは1〜3週間固定する。
肩関節脱臼発生後は、医療機関の指示に従い、おおよそ次のような手順でリハビリを実施する。1週間が経過したら、エクササイズ①の肘を直角に曲げた状態でゴムバンドを内側から90度開く運動を。
エクササイズ①
初めは角度が小さくてもOK。開いた状態で5秒程度キープし、ゆっくり戻す。3週間ほど経過し痛みが軽減されてきたら、次にエクササイズ②の、ゴムバンドを外から内側に引くエクササイズに移る。
エクササイズ②
脱臼が起こりやすい肩関節の挙上外転・外旋運動や競技の復帰は、2か月程度で完治してからが望ましい。肘関節脱臼は痛みと腫れが引くまでの最長1週間は固定。その後、肘の曲げ伸ばしから開始する。
復習クイズ
答え:2つの骨が完全に離れる