野球・バレーボール・バドミントンの〈投げる〉を向上させる! 最先端・動作トレーニング
運動中の「脳の働き」が解析できるようになってきた昨今。スクワットやベンチプレスといったウェイトトレーニングだけだと、スポーツ動作に応用できないことがわかってきた。ではどんな競技力向上のためには、何を行うべきか。その解が、動作トレ。この記事では、野球・バレーボール・バドミントンに応用できる動作トレを紹介する。
取材・文/井上健二 撮影/山本嵩 監修/牧野講平
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目次
〈投げる〉を向上させる動作トレを解説
「スポーツ選手のパフォーマンスを高めるためのトレーニングは、近年大きく変わりつつあります」。そう語るのは、契約アスリートに最先端のトレーニングや栄養指導を提供している〈森永製菓inトレーニングラボ〉のパフォーマンススペシャリスト、牧野講平トレーナー。
牧野講平さん
教えてくれた人
まきの・こうへい/アメリカ・イースタンワシントン大学卒業、弘前大学医学部博士課程後期在学。NSCA CSCS、NSCAジャパンマスターコーチ、JATI-ATI、NASM-PES、NCA-PCT、EMI-CPY。これまで野球の前田健太選手、スキージャンプの高梨沙羅選手などを指導。
「運動の主役となる筋肉(骨格筋)は、脳からの指令で動いていますが、近年、運動中の脳の働きが詳しく解析できるようになりました。脳と筋肉の連携の様子を踏まえて、パフォーマンスを高めるために、どのようなトレーニングが求められるかが明らかになったのです」(牧野トレーナー)
今回は、そうした最新の研究成果も踏まえて〈森永製菓inトレーニングラボ〉で行われているトレーニングの基本のキを教えていただいた。
さまざまなスポーツ競技で共通する「打つ」「投げる」「歩く・走る」という3つの動きをテーマに、それぞれのパフォーマンスを高める動作トレーニングを紹介する。
「スポーツ動作で中心的な役割を果たすのは、脚の付け根にあたる股関節。3テーマとも、股関節にフォーカスしながら、動きを改善する方法を紹介します」
この記事では「投げる」の動作トレーニングを解説する。
取材に伺ったのは…
〈投げる〉の鍵は、重心移動と回旋動作
〈投げる〉という動作は、基本的には〈打つ〉に近い。股関節を内向きに回す内旋を伴うテイクバックから、重心移動を伴う並進運動へと移り、回旋して爆発的なエネルギー発揮へとつなげていくのだ。
高校野球のエース級ピッチャーが、4番打者としても活躍できるゆえんだ。
〈打つ〉と大きく違うポイントは、最終的にはカラダを正面に向けるという点。ここでは野球のピッチング動作以外に、バレーボールとバドミントンにも応用できるパフォーマンストレーニングを紹介する。
「バレーボールにもバドミントンにも、〈投げる〉という動作はありません。ですが、バレーボールやバドミントンで、オーバーハンドで〈打つ〉動きは、野球のピッチング動作に通じるところが少なくないのです」(牧野トレーナー)
始めに野球、バレーボール、バドミントンに共通している動きを改善してから、それぞれのスポーツの特徴を踏まえたパフォーマンストレーニングに挑んでみたい。
野球・バレー・バドミントンに共通する動作トレ4種目
① シングルレッグ・スクワット(フリーレッグ・バックフォワード)10回
目的:股関節を動かすハムストリングスの可動域を広げる
- 高さ15cmほどの台を用意。
- 正面に横向きに置いて右脚で片脚立ちになり、
- 左脚を引いて台の外に出し、爪先立ちになる。
- 右足に体重をかけ、左足には体重をかけない。
- 背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。
- 右足に体重をかけたまま、
- 左足を床で後ろにできるだけ遠くへ滑らせながら、右の股関節を深く曲げてしゃがむ。
- 左足を滑らせながら、右足で台を踏んで元に戻る。
② エアプレイン(フロントレッグ・オン・ボックス)10回
目的:股関節の内旋を引き出す
- 高さ15cmほどの台を用意。
- 正面に横向きで置いて左足を乗せて、爪先を正面に向ける。
- 右足を1歩後ろへ引き、爪先を右へ向け、胸郭と骨盤を右側へ向ける。
- 背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。
- 左の股関節を内向きに回す内旋を行いながら、
- 右足で爪先立ちになり、背骨を軸に胸郭と骨盤を正面に向け、
- 左膝を曲げて軽くしゃがみ、元に戻る。
③ ラテラル・スライド・スクワット(コンセントリック・フォーカス)10回
並進運動を引き出す
準備
- 高さ15cmほどの台を縦に置いて左足を乗せる。
- 右足を肩幅よりも少し広めに開き、左右の爪先を正面に向ける。
- 背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。両膝を軽く曲げる。
- 右足に加重しながら、テイクバックをするように右の股関節を内向きに回す内旋を行い、膝を少し曲げて軽くしゃがむ。
- 体重と骨盤を左側へスライドさせながら、左足に加重して左の股関節を曲げて軽くしゃがみ、元に戻る。
④ フォワード・スライド・スクワット 10回
体重移動+左の股関節の内旋
準備
- 高さ15cmほどの台を正面に横向きに置き、左足を乗せて爪先を正面に向ける。
- 右足を1歩後ろに下げ、爪先を右へ向け、胸郭と骨盤を右側へ向ける。
- 背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。
- 左足に加重しながら、股関節を内向きに回す内旋を行い、
- 背骨を軸に胸郭と骨盤を正面に向けながら、左膝を曲げて軽くしゃがみ、元に戻る。
応用編|野球の動作トレ 2種目
マウントの傾きも意識してトレーニング
野球ではどこのポジションでも〈投げる〉が、ここではとくにピッチャーの動きにフォーカス。ピッチャーは、盛り上がったマウンド上に立ち、ピッチングを行っている。「そこで、あえて台を使って段差を作り、実際の状況に近い形で実践的なトレーニングを行うのが、より効果的です」。最初の種目は両脚を床に付けたままで行い、2番目の種目はさらに実践的に1歩踏み出す動きを伴う。
① フォワード・スライド・ランジ(リアレッグ・オン・ボックス)10回
目的:股関節の内旋を引き出す
準備
- 高さ15cmほどの台を後ろで横向きに置き、右足を乗せて爪先を右に向け、胸郭と骨盤を右側へ向ける。
- 左足を1歩前に出し、爪先を正面に向ける。
- 背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。
- 左足に加重しながら、股関節を内向きに回す内旋を行い、
- 背骨を軸に胸郭と骨盤を正面に向けながら、左膝を曲げてしゃがみ、元に戻る。
② ピボット・ランジ(リアレッグ・オン・ボックス)10回
目的:股関節の内旋を引き出す
準備
- 高さ15cmほどの台を横向きに置き、右足で片脚立ちになり、
- 左足を台の外に出す。背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。
- 顔を左側へ向ける。
- 左足を床で1歩前に踏み出し、股関節を内向きに回す内旋を行い、
- 背骨を軸に胸郭と骨盤を正面に向けながら、
- 左膝を曲げてしゃがみ、元に戻る。
応用編|バレーボールの動作トレ 2種目
空中で軸を保って回旋を行う
バレーボールのアタックは〈打つ〉動作でありながら、〈投げる〉動作に近い。
「野球の〈投げる〉との決定的な違いは、空中にジャンプして行うことです」(牧野トレーナー)
ゆえに上半身にフォーカスした動作トレーニングを。始めの種目では、胸郭の回旋を引き出す。次の種目で空中でもブレない軸を作り、ジャンプに続く回旋で生み出したエネルギーをロスなくボールに伝えられるように鍛えていく。
① シングルハンド・ロウ(ソラシック・ローテーション)10回
プッシュ・プルを誘導して回旋を引き出す
- チューブ(軽めのチューブを2〜3本結び、できるだけ長くする)の一端を、腰の高さで固定する。
- 反対の端を、左腕を伸ばして持ち、背すじを伸ばして胸を張る。
- 体側で右肘を後ろに引き、手のひらを上に向ける。
- 左肘を後ろに引いてチューブを引きながら(プル)、
- 右腕を内向きに回す内旋を行いながら前に伸ばす(プッシュ)。
② シングルレッグ・ソラシック・ローテーション 左右各10往復
目的:胸椎の回旋+骨盤の安定で動きの軸を作る
- 両脚を揃えてまっすぐ立ち、両腕を床と平行に伸ばし、手のひらを合わせる。
- 左足を少し後ろに引いて爪先立ちになり、右側の股関節を軽く曲げ、右足に全体重をかける。
- 両腕の三角形を保ち、骨盤から下を固定したまま、
- 背骨を軸として胸郭を軽く左右に向けるように、胸椎を左右交互に回旋させる。
- 脚の左右を変えて同様に行う。
応用編|バドミントンの動作トレ 2種目
動作改善で会心ショットを決める
バドミントンで、シャトルをオーバーハンドで〈打つ〉動きは、〈投げる〉にも通じる。
「野球の投球動作と比べると、バドミントンでシャトルを打つときはステップ幅が狭くなることも多いので、最初の種目では小さめの動きでポイントとなる股関節の使い方を覚えてください」
また、試合などで強烈なショットを決めるときは、バレーボールのようにジャップしてから〈打つ〉ことも多い。そこでバレーボール編でも取り上げた2つ目の種目を続いて行う。
① ピボット・ランジ 10回
目的:股関節の内旋を引き出す
準備
- 右横きで立ち、背すじを伸ばし、両手を骨盤に添える。顔を左側へ向ける。
- 左足を床で半歩前に踏み出して体重移動をしながら、
- 股関節を内向きに回す内旋を行い、背骨を軸に胸郭と骨盤を正面に向けながら、
- 左膝を曲げて軽くしゃがみ、元に戻る。
② シングルハンド・ロウ(ソラシック・ローテーション)10回
プッシュ・プルを誘導して回旋を引き出す
- チューブ(軽めのチューブを2〜3本結び、できるだけ長くする)の一端を、腰の高さで固定する。
- 反対の端を、左腕を伸ばして持ち、背すじを伸ばして胸を張る。
- 体側で右肘を後ろに引き、手のひらを上に向ける。
- 左肘を後ろに引いてチューブを引きながら(プル)、
- 右腕を内向きに回す内旋を行いながら前に伸ばす(プッシュ)。
動作トレはいつ行うべき?
いずれのエクササイズも自重を用いており、カラダへの負担は少ないので、共通する動作トレである【基礎編】は毎日行ってもOK。
加えて【応用編】の種目に関しては、それぞれの競技を行う前のウォーミングアップに取り入れるのがお薦め。
「通常の筋トレで筋肉が大きくなるまでには、最低でも8週間ほどかかりますが、パフォーマンストレーニングの場合は、早い人では1回で変化が実感できます。平均すると2週間前後で動きが変わったというポジティブな変化が得られるようになるはずです」(牧野トレーナー)