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腹筋は見せ物じゃない 五十嵐亮太さん語る「使える腹筋」

五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

五十嵐亮太(いがらし・りょうた)/1979年、北海道生まれ。野球解説者。97年にドラフト2位指名でヤクルトスワローズに入団。2020年引退。引退後もトレーニングに励み、今でも草野球では140km/hの速球を投げる。

豪腕投手として名を馳せ、2020年に球界を引退した五十嵐亮太さん。現役生活23年の長きにわたり一線で活躍し続けた裏には、独特な“腹”の考え方があった。インタビューでその核心に迫ろう。

カラダのサイズを求めた20代前半

高校時代から屈指の豪腕投手として注目され、1997年のドラフト2位でヤクルトスワローズ(現東京ヤクルトスワローズ)に入団した五十嵐亮太さん

高卒ルーキーとして150km/hを超える速球を武器に、新人時代からリリーフとして活躍。2000年には自身初の開幕一軍の座を勝ち取った。その後日米の球団を渡り歩き、2020年、五十嵐亮太のユニホーム姿を最後に23年間の現役生活に幕を下ろした。

平均在籍年数が7〜8年とされるプロ野球界で20年超えの野球人生を支えたのは、常にカラダの進化を求める日々のトレーニング、ことに腹の使い方に秘密があったという。

五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

若い頃は、カラダを大きくしようと、いわゆる腹筋運動だけじゃなく、とにかく知ってるトレーニングをガンガンやっていました。確かに筋肉はやればやるほど大きくなりましたが、なぜこのトレーニングが必要なのか、筋肉をつけることでどんな影響があるかまでは、そこまで深く考えてなかった。

僕は身長178cmで決して大きい方ではありません。当時の僕には、プロ野球の世界では、カラダの大きな選手の方が選手寿命が長いというイメージがあったんです。周りの先輩もそうだったので、自分もカラダのボリュームや強さのみを求めていたんですね。そういう意味では、筋肉をつける目的が漠然としていたのかもしれません

と、若い頃のトレーニングを振り返る五十嵐さん。

いまでこそ、日本のプロ野球界でもジム設備が整備され、筋トレの知識や重要性が広く知れ渡っているが、90年代後半は、まだまだ進化の途中。チーム全体が一律の平均的なトレーニングを行い、「投手は筋トレをしない」というような昭和型の思考さえも残っていた時代だった。

トレーニングの内容や意識が変わったのは、20代半ばぐらいからです。オフシーズンにアメリカでトレーニングをするようになったのがきっかけですね。アメリカのジムには、MLB選手の他にNFLやNHLの選手もいて、日本人メジャーリーガーや若手選手と一緒になることもありました。どの選手もトレーニングの目的をしっかり持っていた印象です。

それぞれカラダのサイズや骨格の違いがありますし、競技やポジションもみんな違う。彼らを見て、今までのとにかく大きく強くという目的ではなく、投手としてカラダに何が必要かを考えるようになりました。

実戦に使える筋肉とは何か? そのためのメニューを強く意識するようになったんです。その頃から、引退まで毎年トレーニングメニューを変えて試行錯誤を繰り返しましたね

丹田の重要性に気づく

入団時から順調に球速もアップし、2004年には、当時の日本人最速158km/hもマークした。だが、その代償か怪我にも苦しみ、2006年には右肘靱帯断裂が発覚。オフにトミー・ジョン手術を受けた。

そこから彼は、さらなるトレーニングへの探究に突き進む。怪我をせずに最大のパフォーマンスを発揮するためのトレーニングを追求する過程で、丹田の意識の大切さに気づいたそう。

五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

怪我でシーズンを棒に振り悔しい思いもしましたが、若い頃のトレーニングで球速がアップしたし、それまでやっていた方向性が間違いだとは思っていません。ですが、その方法がすべてではなかったと気づけて、次のステップに進めたのはよかった。振り返ってみると、やっぱり、ヘソの下。丹田への意識とその使い方がすべてなんです。

かなりマニアックで感覚的な話なんで、言語化するのはすごく難しい。僕自身も曖昧になることがありますからね(笑)

丹田は、ヘソより指3〜4本分ぐらい下の場所。この部位への意識がすべての動作の基準になると語る。

例を挙げると、よくまっすぐ立つ時に、頭の上から一本の軸が通っているようにイメージしろ、と言いますよね。そのとき、意識するのはカラダ全体ではなく、実は丹田なんです。そうすれば自然とまっすぐ立てるようになるし、カラダの軸もしっかりして、重心バランスも良くなります。

斉藤和巳さん(元福岡ソフトバンクホークス)やイチローさん(元シアトル・マリナーズ)は、立ち姿がすごく美しい。彼らは、現役時代から常にそれができてたってこと。だからあれほどいい成績を残せたんだと思います。

でも、一般の人がこれを反射的かつ“無意識”にできるようになるには、日頃からすべての動作において丹田を“意識”する練習が必要なんです。

例えば、フッキンをする時に一番やっちゃいけないのが、腹を硬くしようとして腹筋そのものに力を入れちゃうこと。極端に言うと、鍛える部分に意識を持ってはいけない。

僕の感覚では、丹田に意識があって、フーッと息を吐きながら柔らかく優しくフッキンをする方が、自然に使える筋肉が作れると思っています。

ベンチプレスやバーベルスクワットも同じ。負荷をかけて動かしていますから、あえて胸や大腿部を意識しなくても筋肉はつくわけです。それよりも、軸がブレないように、バランス良い姿勢で動くことの方が重要。丹田を意識することで自然と腹圧もかかり、トレーニング効率も上がるのです

腹筋は自ら使うものではない

筋トレ時も全ては丹田への意識と、呼吸。それで動きがスムーズになり、実戦的な筋肉がつくというわけだ。

誤解を恐れず言えば、腹筋は見せるものでも、自ら使うものでもない。カラダが自然に反応する時、バランスを取るために“使われる”筋肉っていう捉え方なんですよ。

カラダを支えて、四肢を動かすための筋肉っていうのかな。例えば、日常生活で重い段ボール箱を持つ時に、同じ重さでも姿勢によって何か軽く感じる時ってあると思うんです。それが丹田を使えている感覚で、僕の言葉でいうとハマリがいい状態です。

ピッチャーの動きで言うと、セットポジションで丹田に意識を持ちながら息を吐く。瞬間的ですが、そのハマリがいい状態から投球する方が腕にも指先にも無駄な力が入らず、バランス良く無理なく投げられるんです。ブレずに投げているから、腕を強く振ってる意識もない。

僕は、選手生活の晩年にようやくそれが理解できた。若い頃は、やっぱり力に頼っちゃうんですよね。力を抜かなきゃいけないことはもちろん分かっているんですけど、ついつい三振を狙いたくなるし。もし、僕が若い頃から今の意識ができていれば、ボールのスピン量が増えてコントロールも良くなっていたかもしれませんね(笑)

独特の表現で腹の使い方を説明する五十嵐さんは、カラダを支え、反射的に動ける腹こそが、真に使える腹だと説く。

意識は丹田。そして呼吸

現役選手で腹の使い方が上手いのは、今年の注目選手の一人である千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希。腹もカラダの使い方も年々上手くなっていますね。身長のわりにまだ線が細いけど、これから丹田の意識を覚えればすごい投手になる。

そうそう、ヤクルトのチームメイトだった青木宣親も常に腹のことを考えていました。フッキンのメニューにもこだわりがあって、僕の話も理解してくれました。

毎シーズン、腹のことに疑問を持って試行錯誤しながらトレーニングに取り組んでいて、苦労しているようでしたが、ここ数年は、納得のいく状態で、特に調子がいいそうです。2人ともカラダの軸が上手く使えている印象ですね

現役引退して間もない五十嵐さんは、「目的」「丹田」「呼吸」の3つを意識して、定期的にトレーニングを続けているという。

五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

結局は、投手としてどんな球を投げ、そのためにどんなカラダが必要なのか。そういう目的意識があってこそのトレーニングなんです。その中で、僕が選んだもののひとつが、丹田に意識を向け、怪我をしないで一年間投げられるカラダ作りだったんです。力を入れずに息をフーッと吐きながら丹田に意識を持つ。これが今でも140km/hの球を投げられる秘訣なんです(笑)

五十嵐流・使える腹トレーニング

五十嵐さんが現役時代から続けてきた腹筋運動の中から4種目をレクチャー。ポイントは、息を吐くタイミング。腹には力を入れずに、丹田を意識し、しっかりと呼吸しながら行うのがキモだ。

① ひねりを加えたV字シットアップ

ひねりを加えたV字シットアップ 五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

床に寝て上体と両脚を上げ両足にタッチ。そのまま上体をひねり、右手で左足を、左手で右足をタッチし、戻る。息は手を触れるごとに吐く。10〜15回を3セット。

② 上部を鍛える定番クランチ

上部を鍛える定番クランチ 五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

仰向けで両腕を胸の前でクロスさせ、腰が浮かないように注意しながら、息を吐きながら上体のみ起き上がる。肩甲骨が床につかない位置まで戻る。10〜15回を3セット。

③ 開脚を加えたレッグレイズ

開脚を加えたレッグレイズ 五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

背中を床につけたまま両脚を垂直に上げ、開脚を2回して下ろす動作を繰り返す。脚の開閉時にも、息を吐きながらゆっくり行うと効果的。10〜15回を3セット。

④ 背をつけた状態でツイスト移動

背をつけた状態でツイスト移動 五十嵐亮太さん ヤクルトスワローズ 東京ヤクルトスワローズ

床に背をつけたまま上げた脚と組んだ手を交互にひねって素早く横に移動する。腕と脚をひねる時に息を吐く。マットの横幅を3往復3セット。

取材・文/菅野茂雄 撮影/伊藤大作 スタイリスト/荒木義樹 ヘア&メイク/松本和也

初出『Tarzan』No.832・2022年4月21日発売

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