「立ち仕事」のプロがやっている骨盤ケア(フラメンコダンサー、客室乗務員、料理人…)

生活習慣や動きの癖がダイレクトに反映されるのが“骨盤のズレ”。そうは言っても職業柄、立ちっぱなし、座りっぱなしを免れないケースは多々ある。そんななか、姿勢がキレイなあの人たちは、どんなケアを実践しているのか。フラメンコダンサー・SIROCOさん、客室乗務員・尾原恵さん、料理人・阿部朝陽さんに聞きました。

取材・文/黒田創 撮影/吉松伸太郎 

初出『Tarzan』No.826・2022年1月27日発売

ダンサー、客室乗務員、料理人…あの職業の骨盤ケア

① フラメンコダンサー・SIROCOさん

SIROCOさん

シロコ/1982年生まれ。20歳でフラメンコと出合い、スペインで修業を重ねる。2017年に国際コンクール『アニージャ・ラ・ヒターナ・デ・ロンダ』で日本人初優勝を果たす。後進の指導にも力を注ぐ。siroco.jp

スペインの国際コンクールで優勝を果たすなど、日本人フラメンコダンサーの第一人者であるSIROCOさん。手を叩き、激しく足を踏み鳴らして情熱的に踊るそのスタイルゆえ、「昔は常に満身創痍でした」と笑う。

「30歳を過ぎてからはギックリ腰を抱え、大事なライブ前にひどい痛みが出ることもしばしば。マッサージしてもらったり、腰に神経ブロック注射をしたりとあらゆる手段を講じましたが、そんな中でバレエレッスンに出合ったんです」

野性的なフラメンコとは異なる、ゆったりとしたバレエの動き。SIROCOさんはそこで改めて姿勢や軸の大切さを学んだという。

「バレエのレッスンの中に、骨盤から動かす動作があります。僕は長年の酷使で腰や骨盤がガチガチだったのですが、バレエのレッスンを通して、脊椎をひとつひとつ動かし、骨盤をしっかり立てて動くことを意識したら、全身が柔らかく使えるように。

結果的に、さまざまな痛みを楽にし、自分のカラダとちゃんと向き合えるようになったんです。カラダへの意識が変わったことで、表現方法にも幅が出ている気がしますね」

SIROCOさんの骨盤セルフケア

ドローイン

SIROCOさんのセルフケア

軽く脚を広げてまっすぐ立ち、手をお腹の前で組む。骨盤はまっすぐに。膝を曲げつつ脊椎をひとつずつ曲げてお腹を引っ込め、骨盤を後傾させ、戻す。続けて同様の動きを斜め後ろ方向でも行う。各10回ずつ。

バレエ・エクササイズ

SIROCOさんのセルフケア

椅子の後ろにまっすぐ立ち、右手で背を持つ。次に右膝を左上に振り上げ、そのまま円を描くように下→右→下→左へと振り子のように動かす。10往復したら反対側も同様に。骨盤を立てゆっくり行うのがポイント。

② 客室乗務員・尾原恵さん(全日本空輸株式会社)

客室乗務員・尾原恵さん(全日本空輸株式会社)

尾原恵(おはら・めぐみ)/1985年生まれ。2008年全日本空輸入社。客室乗務員として国内線・国際線のフライトを多数経験。学生時代はバレーボールの経験も。

全日空のCA(客室乗務員)として十数年のキャリアを持つ尾原恵さん。その自然な立ち姿勢は、常に骨盤を意識し、ケアしている賜物だ。

「わが社のマニュアルには姿勢に関する記載があって、“姿勢の美しい人こそが健康で美しい外見の持ち主である”と明記されています。

新入社員時代は、1本の線の上をきれいに歩く研修もあり、足の出し方ひとつから毎日何度も繰り返しました。そうした経験の中で、常に骨盤を立たせる姿勢が身についていったのだと思います」

客室乗務員・尾原恵さん(全日本空輸株式会社)

フライト前やインターバル中に座ったまま行うストレッチ。手を組んで腕を前に伸ばし、肩甲骨の可動域を広げたり、片脚を伸ばして前屈し腰まわりをほぐしたり。これも骨盤を整えることにつながる。

特に意識しているのが、音を立てずにあらゆる動作を行うこと。

「荷物棚からの荷物の上げ下げも、腕だけを使うとバタバタと音を立ててしまう。カラダの軸を意識し、肩を入れて優雅に動けば音が立ちにくいんです。また、その方が腰に負担がかからない利点もあるんです」

とはいえ、国際線フライトになると長時間立ちっぱなしという状況も。

「フライト中の揺れには膝でバランスをとったり、合間にストレッチをしたり。最近では“ANAエクササイズ”を行うなど工夫しています」

尾原恵さんの骨盤セルフケア

ANAエクササイズ

客室乗務員・尾原恵さん(全日本空輸株式会社)

強くしなやかなカラダづくりを目的として、〈ルネサンス〉監修のもと2017年から社内で実施。所属部門ごと内容が異なり、CA用は機内でのCAの動きに対応した内容に。「忙しいフライト中でも行え、スッキリ整います!」。

③ 料理人・阿部朝陽さん(Italian Restaurant DAYS)

料理人・阿部朝陽さん(Italian Restaurant DAYS)

阿部朝陽(あべ・ともあき)/1983年生まれ。レストラン〈LIFE〉で修業したのち、2013年に〈DAYS〉をオープン。東京都目黒区中目黒1-4-2 1F。昼11:30~15:30(15:00L.O.)、夜17:30~23:00(22:00L.O.)、日休。

カウンターのみのワンオペ飲食店は珍しくないが、東京・中目黒の人気イタリアン〈DAYS〉はテーブルも合わせて30席以上。オーナーシェフ・阿部朝陽さんはそのお店を一人で回す。その確かな味にはファンも多く、著名人も足繁く通う。

「いついかなる時も骨盤を立てるよう心掛けています。それは修業時代、日本舞踊をやっているお客さんから“料理人もお客さんから見られる存在なのだから姿勢はちゃんとしなさい”と言われたのが心に残っているから。

以来、料理中も両足にしっかり体重をかけ、頭のてっぺんを紐で吊られているように立つことを意識しているんです。オープンキッチンだと料理人の立ち姿勢は特に重要。猫背だと格好悪いですからね」

写真の通り、料理に向かうときも骨盤を立て、背すじを伸ばし、顔を上げるのが“阿部スタイル”。ワンオペでも店全体の状況を常に把握でき、お客さんからの呼びかけを聞き逃したり、料理を出す順番を間違えることなくオペレーションしていく。

そんな阿部さんも長年の疲労の蓄積で腰椎分離症を患っている。だからこそ毎日の骨盤ケアとエクササイズも欠かさず、しっかり動けるカラダをキープ。おいしいお酒と食事は、そんな“姿勢”の賜物でもある。

「エクササイズとサウナでカラダを温めると腰まわりはうんと楽になる。骨盤まわりも自然と緩みますよ」

阿部朝陽さんの骨盤セルフケア

GENRYUチャンネル

料理人・阿部朝陽さん(Italian Restaurant DAYS)

阿部さんは大分の腰痛専門整体院による人気YouTube『GENRYUチャンネル』をお手本に営業後の店内で入念にストレッチを行う。「立ち仕事だからこそ腰まわりのケアは十分に。毎日やってこそ効果が出ます」。