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血糖値コントロールで「安定した集中力」を手に入れたプロドライバーの食事術

山本尚貴選手

全てはパフォーマンスのため、数々の食事制限を行うアスリート。日本を代表するドライバーの一人、山本尚貴選手はなかでも血糖値に重きを置いている。

血糖値を意識して、体調管理に徹し始めた

自動車レースの2大カテゴリー『SUPER GT』と『スーパーフォーミュラ』に挑む山本尚貴選手。実は血糖値の“ドライブ”にも長けた稀有なアスリートだ。

山本尚貴選手

山本尚貴選手

やまもと・なおき/1988年生まれ。6歳からカートを始め、2010年には国内2大カテゴリーにデビュー。18年にダブルタイトル、20年には史上初の複数回ダブルタイトルを獲得した。『SUPER GT』GT500クラスと『スーパーフォーミュラ』に参戦し、さらなるタイトル獲得を目指す。

「モータースポーツは機械を扱う競技なので、体調が良好でも成績に必ずしも比例しません。それでも常に100%に近い状態でパフォーマンスを発揮できるよう体調管理に徹し始めたのは、血糖値を気にするようになってから。

昔から自炊が好きで、自らのカラダを実験台にいろんな食事法を試してきましたが、3年前のある日“血糖値スパイク”という聞き慣れない単語を耳にし…。血糖値の上下が、パフォーマンスに影響を及ぼしているのではないかと考え、まず管理栄養士の山上はるかさんに相談しました」

不調がある時はたいてい血糖値スパイクを起こしていた

山本さんから話を受け、山上さんがまず提案したことは、野菜から食べ始めるベジファーストの実践と、糖質源を吟味し低GI値のものをチョイスすること。並行して、病院で改めて血糖値を測るよう促した。

「ドクターに相談すると、血糖値を測定できる糖尿病患者向けの機器《フリースタイルリブレ》を紹介されて購入しました。あわせて血糖値や体調を5段階評価で記すシートを習慣化し、血糖値とパフォーマンスの関係性を探り始めたんです」

《フリースタイルリブレ》を装着する山本尚貴選手

中島裕トレーナー、管理栄養士の山上はるかさんとは頻繁に情報交換。「食べ方や食品選びについて助言を受けます」。シーズン中など綿密に体調管理したい時は《フリースタイルリブレ》を装着。血糖値をトラッキングし、調子が良い時の傾向を分析。

データを分析すると、何らかの不調がある時はたいてい血糖値スパイクを起こしていたことが判明。

「そこで1年ほど前から抜本的に変えたのが、レース当日の食事の摂り方。朝食と夕食は摂りますが、その間の時間帯は昼食を摂らず補食でつなぐよう切り替えたんです。

以前はレース直前の昼食では脂質以外の栄養が豊富な食事をガッツリ食べ、仮眠を取ってから本番に臨んでいました。ちゃんと食べないとパワー不足を感じましたし、仮眠を取ればスッキリした状態でレースに集中できると信じ込んでいましたから。ただ実際は車に乗った瞬間に満腹で気分が悪くなったり、仮眠したにもかかわらず眠気を感じたまま…ということも。

当時は“そういうものだ”と感じていましたが、完全に血糖値スパイクの典型例ですね。今は血糖値の乱高下を防ぐため、昼食の代わりに摂る補食の内容は1回につき玄米かスーパー大麦入りのコンビニおにぎり1個。時間があれば、おにぎりを摂る前に葉物系のおかずやスープを口にしておきます。固形物が喉を通らない時は30分〜2時間かけてゼリー1本を飲み切る。

血糖値の上昇を気にしすぎて糖質の摂取量が不足すると、レース中に糖が枯渇してしまう可能性があるので、摂取には工夫が必要です」

以前の食事例
  • 1日3食、補食2回。
  • 1食につき糖質80〜100g、タンパク質15〜30g。
  • 昼食を食べたらレース開始まで仮眠を取る。
山本尚貴選手の以前の食事例

図はレーススケジュールをもとに食事量やタイミングを記したもの。一般の成人男性よりやや多いくらいの糖質量を摂取。「当時は食事をすれば眠くなるものだと思い込んでいました」。

現在の食事例
  • 1日2食(朝食と夕食)、2食の間は補食でつなぐ。
  • 補食はおにぎり1個orゼリー1本を時間をかけて飲む。
  • 血糖値や体調を専用シートで管理。
山本尚貴選手の食事チェックシート見本

現在の食事チェックシート見本とある日の食事/補食は1回につきコンビニおにぎり1個(糖質約40g)にとどめるか、ゼリーの一気飲みを控えて乱高下を防止。またレースウィークなどは血糖値や心身の体調の評価を専用シートに記入。

精神面の変化も血糖値に影響する

だが、そのような工夫をすれば100%うまくいく、とも限らない。

「血糖値は食事だけで制御できるものと僕は思っていました。しかし、緊張が高まるレース前には、血糖値が200近くまで急上昇。これは食事では達したことのないような高い数値です。レースが終わる頃には脱力感や疲労感にも襲われ、測定すれば案の定、血糖値が急降下している。

精神面の変化がこうも影響するのかと驚きました。もしこの流れでレースでいい成績だったからと夕食にご馳走を食べれば、また血糖値スパイクを起こし、翌朝だるさが残ってしまう。レースが何週間と続くこともよくあるので、一度こういうループにハマると調整が大変です。

最近はレースが終われば、結果は問わず、帰宅までの移動時間にプロテインバーやバナナなどを摂り、夕食のドカ食いを控えるようにしています」

せめて血糖値が“急降下”しないための工夫も

ただし血糖値の上昇も、多少はやむを得ないと割り切っているそう。

「せめて血糖値を“急降下”させないよう工夫しています。傾向として、血糖値が垂直に上がれば下がり方も垂直になることが多い。ただ血糖値が垂直に上がっても、下降する速度が緩やかなケースもあると気づきました。僕の場合、腹持ちがいいものを食べた時によく起こります

和菓子をよく食べますが、砂糖を使用しているためやはり血糖値は上がる。しかし下がり方は洋菓子を食べた時と比べても緩やかです。好物のもち米も同様ですが、血糖値スパイクを起こさない分カラダへの負担が少なく、レース前後の補食には腹持ちがいいものを率先して選ぶようにしています」

サポートする中島裕トレーナーも、「最近は山本選手が仮眠を取る姿を滅多に見ませんし、集中力に波がなく、常に安定しています」と、血糖値を気にする前と後の山本選手の“進化”について語った。

「確かに、この数年は常に頭が冴えた状態でレースに臨めています。今では血糖値が体調を測るバロメーターのひとつとなりました。タイムや順位、成績など数々の数字に常に追われている僕としては、血糖値を含めて数字は努力を裏切らないと確信しています」

取材・文/門上奈央 撮影/小川朋央

初出『Tarzan』No.822・2021年11月11日発売

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