「背骨を軸にしてカラダを動かす」尾上右近さんの美姿勢の秘訣
職種は違えど、そのスラッとした背すじは共通。なぜそんなに姿勢がいいのか、3名の著名人に聞いてみた。今回伺ったのは、歌舞伎役者・尾上右近さん。
取材・文/鈴木一朗 撮影/下屋敷和文 ヘア&メイク/白石義人
初出『Tarzan』No.818・2021年9月9日発売

背骨を使えれば、大きな表現ができる
右近さんの父は清元宗家七代目清元延寿太夫。生まれたときから、唄い手になる運命にあった。ところが、曾祖父である名優・六代目尾上菊五郎の映像を見て歌舞伎役者にも憧れを抱く。驚くなかれ、3歳の頃である。
「音楽の中で躍動するカラダが、すごく印象的でした。今でも、いろんな舞台を見て衝撃を受けることがありますが、その原点となった出来事なんです」(右近さん)
役者と唄い手の二刀流は、400年の歌舞伎の歴史でも初めて。そして、どちらも凜とした姿のよさが、観客を魅了する。

「女形を演じるときは胸で表現をします。舞台が大きいと目の芝居だけでは伝わらない。だから、背骨を軸として胸を動かすことで見たい方向を示す。また、引く動作も重要。腕を前に伸ばす際も、背中を一度後ろへ引いてから腕を出す。こうすることで大きな表現ができる。背骨をきちんと使うことが重要です」
背骨が伸びていると声が自然と出る
もちろん唄い手にとっても、正しい姿勢=背骨は重要だ。
「息が吸えなくては、話にならないんです。役者と一緒で、引かなければ、出せないということ。唄うときは座っているので、地面に対して垂直に背骨が伸びている状態が、一番無理なく肺に空気が入ってくる。そうすると、声が自然と出る。だから、常に姿勢は意識していますね」(右近さん)
作品を作るとき役者には役者の、唄い手には唄い手の言い分がある。初の二刀流である彼は、近い将来両者を繫げる思いの架け橋となり、新しい何かを生み出すことができるかもしれない。

歌舞伎は円を描くように動くのも重要。直線的にならないよう、こちらも背骨を軸にして丸く、柔らかく、動きを表現していく。
「役者と唄い手。違うからぶつかり合うし、歩み寄る美しさもあります。全てが丸く収まるのがいいとは思わないけど、両方がわかるのは特権。これを生かして、自分なりにもっと歌舞伎や清元を広めていきたいです」(右近さん)
尾上右近さんの美姿勢ポイント
- 目だけでは伝わらない。背骨を軸として、胸から動かす。
- 背中を引いてから前へと動くことで、大きな表現ができる。
- 唄うときは、地面に対して垂直に背骨を伸ばすことが大事。