「走る」楽しさをエントリー層に。初心者のための義足板バネ

文/本田賢一朗

福祉機器メーカー〈今仙技術研究所〉と〈ミズノ〉が、スポーツのエントリー層に向けたカーボン製板バネ《KATANAα(カタナアルファ)》を共同開発した。2021年9月より今仙技術研究所から全国の義肢装具製作所で販売を開始する。

2014年8月からスポーツ用義足の板バネの開発をしてきた両社。これまでは陸上競技場などで走るための競技専用の義足に取り付けるものだったが、今回初心者を対象とした軽量で扱い易い板バネを新たに開発した。

日常用義足と《KATANAα(カタナアルファ)》の写真
競技専用義足ではなく日常用の義足ソケットや部品を利用できるようになった。左は日常用義足。

〈ケイズデザインラボ〉が開発したアライメント計測技術により日本の下肢切断者に適した板バネ形状となり、スポーツシューズ作りのノウハウを活かしたトップモデルと同様のバネ特性を実現。日常用義足からの取り換えも容易で、従来の競技モデルと比べ安価となっている。

《KATANAα(カタナアルファ)》《KATANAα junior(カタナアルファジュニア)》の写真
左:子供用の《KATANAα junior(カタナアルファジュニア)》 右:大人用の《KATANAα(カタナアルファ)》大人用 想定価格22万〜27万5000円(税込み)※コネクター、専用ソケット含む

ケイズデザインラボが手掛けた、義足と板バネの取り付け位置や寸法のバランスであるアライメントを撮影画像で計測し、管理できるアプリ《アライメントノート》により義肢装具士の職人仕事に頼っていた調整が安定的かつ簡単にできるようになったのも特筆すべき点。

義足と板バネの取り付け位置のバランスであるアライメントは、数ミリ違うだけで途端に走れなくなったり、走り幅跳びでいえば数十cmから1mも記録が変わってくるほど繊細なもの。また義足は数か月経過すれば装着角度も変わり、装着する人も競技を通して技術や体力レベルが上がるため日々微調整が必要となる。

その調整も義肢装具士の勘や経験に頼るところがあり、料理人が毎回同じ味を出せないように全く同じアライメント調整を行うことは不可能だという。

しかも日本の下肢切断者は約6万人(※平成18年厚生労働省「身体障害児・者実施調査」)ながら、義肢装具士は現在全国で5000人程と言われ、その数は完全に不足。障がい者が走り出すにはいくつも壁がある。

そこでアライメントを数字で見える化し、義肢装具士と情報の共有が簡単かつ的確にできるようにしたというわけだ。加えて義足マッチングシステム《アライメントノートWEB》で、身体情報に基づき競技特性や板バネの選択もできる。

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《KATANAα(カタナアルファ)》のミッドソールを比較した写真
スポーツシューズ作りのノウハウから生まれたミッドソールは適度な厚みで硬さと弾力性を両立。上が子供用、下が大人用。
《KATANAα(カタナアルファ)》のアウトソールの写真
滑りにくく、さまざまな路面に対応できるアウトソール。

下肢義足にも太腿義足いずれにも対応するなど至便性が高まり、路面のグリップ力を高めたアウトソールの〈カタナアルファ〉は、障がい者がスポーツを始める壁をひとつ越えた。

今仙技術研究所のエンジニア・浜田篤至さんの話からは義足板バネを通して“速く走る”、“高く跳ぶ”を科学的に突き詰めることには、思うようにカラダを動かすための方法を考え、知る喜びがあると感じる。それはつまりスポーツの本質。

思うようにカラダを動かすことの難しさからスポーツの楽しさに切り込むカタナは磨かれている。

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