女性患者は男性の10倍!?
合う靴が少ない。長時間歩くと趾(ゆび)が痛む。拇趾(親指)の付け根が発赤し、出っ張りも。まさか? そう、恐らくそれは外反拇趾。拇趾から見て、小趾(小指)の側はカラダの外側。拇趾が外側に向かって反っていく現象だ。
その発症には明らかに性差があり、中高年女性の約半数に見られ、女性患者は男性の10倍以上とする報告さえある。思春期に多く発症し、中高年期に増悪するという指摘もある。
近年外反拇趾の診断でよく測定される拇趾の角度(外反拇趾角)は、50歳ごろから急に大きくなることもわかってきた。
なぜ外反母趾は起こるのか?
さて、外反が起きる前に、横アーチが沈下し、付け根が開く開張足という状態になっている人は少なくない。拇趾と他の4趾は靱帯でつながっているが、開張足になるとこの靱帯は伸ばされる。しかし、拇趾を曲げる力が働くため、拇趾は自然と小趾の方向に引かれる。
外反拇趾の原因の一つがこれだとする研究者がいる。それが正しければ、開張足の段階で何らかの対策を講じれば、外反拇趾に発展せずに済むかもしれない。
だが、そもそもなぜこんなことが起こるのか? それは手を見れば何となくわかる。ヒトの手は拇指と他の4指が向き合う構造であるうえ、拇指は関節の可動域が広い。おかげで簡単に物を掴める。
足の構造も基本的に手と同じ。手ほどの器用さはないが、土踏まずというドーム構造を持ち(扁平足の人は別だが)、趾を曲げれば触れた物を少し掴める。遠い昔にヒトの祖先が二足歩行を始めたころの足元は、凹凸だらけの不整地がほとんど。ヒトの足は不整地を掴みながら歩くように発達したと考えられる。
だが、近代になり都市化が進み、足元には平坦な舗装が広がり、足は靴に包まれた。靴を履くと人は往々にして趾を使うことなく歩き回る。運動不足から足は筋力が低下し、ドームは沈下しやすくなる。こんな背景もあって、外反拇趾が増え続けているのだろう。
では裸足で暮らせば予防、改善できるかというと、話はそう単純ではない。いまどきの住居の床は、硬いフローリングが主流。劣化の進む足には荷が重い。欧米人のように屋内でも靴やスリッパを履いて、足をいたわるべきだろう。
改善には気長に取り組もう。
足の運動不足解消に推奨できる代表的なメニューは、趾を使っての足じゃんけんや、床に広げたタオルを趾で手繰り寄せるタオルギャザーなど。ただし、短期間で顕著な効果が出るわけではない。習慣化して気長に取り組もう。
とはいえ、足の運動量が十分に確保できている人は、足底の筋肉が収縮・緊張して力を発揮しているときと、だらりと弛緩しているときとでは、床面から足底(厳密には舟状骨の中心)までの高さの差が大きい。
運動習慣は足底の筋肉も育てるから、土踏まずのドームが沈下しにくくなることを期待でき、外反拇趾の予防にも役立つだろう。テーピングに治療効果のエビデンスはないが、装着して痛みや不快感が和らぐなら悪くない。
角度は痛みの強さと関係がない。
ただ、ここで考えるべきは、すべての外反拇趾を撲滅すべきか、ということだ。冒頭でも触れたが、中高年女性の約半数に起きる現象だが、実際に整形外科を受診する人は限られている。変形が起きていても、痛みなど不快な症状のほとんどない人もいるからだ。
拇趾の角度(外反拇趾角)が大きいと痛そうに見えるが、角度と痛みの強さに直接的な関係はない。では、痛む人には何が起きているのか? 拇趾が外反したため、関節同士が強く接触し、圧力がかかって骨棘(とげ)ができてしまうと、ひどい痛みをもたらす。
また、変形が進んで末梢神経の圧迫が起きても痛む。が、すべての人がそうなるわけではない。
痛い、歩けないなど生活に支障を生じたら受診し、診断がつけば、最終的には手術も選択肢になってくるが、痛くなかったり、痛みが小さい人は①費用は安くないが、専門店でオーダーメイドの靴(整形靴)を注文し、履くといい。
または、②整形外科で自分の足に合ったインソールを作ってもらうのがリーズナブルな対応だ。インソールに関しては、条件がそろえば保険が適用される。
そもそも人の足は一人一人みんな違うから、既製品に適合しない足は必ず一定数現れる。靴は長時間カラダに密着させて使う、カラダへの影響が大きい道具。合わない靴を履き続ける弊害は軽く見ないことだ。また、自分に合う靴やインソールに、適切な金額を投資するのは決して贅沢ではない。