• スポーツの未来を見据えるとき、「現在の子供を思う」ことの意義|世界スポーツ見聞録 vol.31
COLUMN
2021.06.25

スポーツの未来を見据えるとき、「現在の子供を思う」ことの意義|世界スポーツ見聞録 vol.31

子供にゴルフを教える様子
写真:Erickson Productions/アフロ

錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。2019年末までアジアトップを務めた田丸尚稔氏が語る、スポーツの10年後を決める「子供の頃の体験」について。

スポーツ教育事業に取り組む理由。

10年後の未来に、どうなっているのだろうか?

仕事のあれこれで何か迷いがある時によく思い出す基準がこれだ。ターゲットは? 費用対効果は? 人々のニーズは? とかく目の前に現れる障壁を考えがちではあるけれど、一歩立ち止まり、あるいは一歩引いて、取り組んでいることが社会や世界にとってどういうものなのか、想像してみる。

それは10年後にはさらに発展しているのか。人々を幸せにする何かたり得ているのか。そう考えると、自分の仕事において大事なこと、ないしは自分が仕事で魅力に感じているものは、花火のように派手に散るブームを作るのではなく、連綿と続く地味で確かなことを築いていくことなのだろう。

米国から日本に帰国して取り組んでいる事業は、まさにそんなことだと思う。子供たちを対象に、スポーツを通して自身を発見し、競技の技術だけでなく、ライフスキルも身につけられるプログラムを開発している。

詳細は正式に発表する段で改めて書いてみようと思うけれど、ともかくスポーツという存在が、人が成長することに寄り添えることを明らかにするために取り組んでいる。

子供の時の体験で、コミットメントの度合いが決まる。

考えてみれば、現時点で児童や生徒である彼らは、10年後には小学生なら20歳前後、中学生なら20代も半ばになり、高校生なら30歳も間近な働き盛り、社会の中心を担ってしかるべき年齢になっている。10年後の未来が少しでもベターな世の中になることを望むならば、今、彼らが何に出会い、考え、学び、挑戦するのかはとても重要なのは間違いない。

スポーツにおけるコミットメントに関する研究でも、同様の考えは示されている。まず、スポーツ・コミットメントの定義は、金崎良三の論文から引用すれば「スポーツへの到達、執着、結びつき、あるいはスポーツ行動やスポーツ集団に身を投入すること」となる。

そして、コミットメントの度合いが高ければ高いほど、スポーツの実施程度は高くなり、実施時間は長く、さらにはスポーツへの出資も多くなるということが明らかになっている。また、スポーツ・コミットメントを形成するのに大事な要因として、学校体育や運動部活動など過去の経験が大きく関連していることもわかっている。

つまり、乱暴にまとめるならば、子供の頃のスポーツ体験が、学校を卒業し、社会人になってからのスポーツとの関わり方にも影響を及ぼすということ。

人がスポーツとの関わりが強くなるというのは、スポーツを行うだけでなく、観戦なども含めた活動が増えることで、つまりスポーツビジネスの市場の発展という意味でも、子供の頃にいかに興味深いスポーツ体験をさせるか、がとても大事というわけだ。

子供のスポーツにおける課題。

一方で、子供時代のスポーツの取り組みにおいては、バーンアウト(燃え尽き)など離脱してしまう課題もある。自分の周りを見渡しただけでも、「体育嫌い」だった人は肌感覚だがとても多い印象だし、家族にそういう人がいて、スポーツ観戦や週末のアクティビティにお金や時間を使うことに苦労する、などという話も珍しくない。

運動部活動の参加率のデータを見ても(スポーツ庁, 2016)、中学男子75.1%⇒高校男子56.4%、中学女子54.9%⇒高校女子⇒27.1%と年齢が上がるにつれて減少、特に女子は高校生になると参加者が3割を切るということを考えれば、スポーツを十分に実施する環境がある、とはとても言えないように思える。

運動部活動に関しては、指導者不足だとか、様々なシステムの課題など、枚挙にいとまがないので詳細は割愛するが、いずれにせよ、子供のスポーツ環境にはたくさんの課題があって、時々嘆きたくなるけれど、それは改善の余地があることだと考えれば、そこに携われるのは、とてもやりがいがあるとも感じている。

未来を見据えるなら、今の子供を思う。

10年後の未来に、どうなっているのだろうか?

もう一度、冒頭の問いに思いを巡らせてみる。私の場合はスポーツだけれど、それが食べ物だろうが、アートだろうが、現在の子供たちについて考え、想像し、そこにある課題を明らかにして、そして解決していくのは、未来の社会を変えるにはとてもよい視点ではないだろうか?

目前にある、直接的な消費者やターゲットに対応するのも大切な一方、先を見据えた準備を放っておくわけにもいかない。

未来を見据えるとき、現在の子供を思う。例えば『Tarzan』というメディアが10年後の未来にも健全に存在しているためには、今の子供たちと何ができるだろうか? キッズの運動コミュニティを作ったり、非認知能力を高めるスポーツ教室を行ったり、健康を促す街づくりをしたり…いろいろできそうだな、と考えるだけでとても楽しい。

あなたの思い描く10年後の未来は、どんな社会が待っているだろうか? そこで中心を担うであろう、今の子供たちに、あなたは何ができるだろうか?

目の前の課題に忙殺されている人が多いのは理解しつつ(私がそうです)、少し先の長くて広い視野が大切なことも、時々思い出してみると良いかもしれない。

田丸尚稔

たまる・なおとし/ 1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学にてスポーツマネジメント修士課程を修了し、IMGアカデミーのアジア地区代表を務めた。現在は日本に帰国し、スポーツ教育の新しい事業に取り組む。筑波大学大学院在籍(スポーツウエルネス学・博士後期課程)。

文/田丸尚稔

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