痔の受診率はわずか4割弱。
排便後、便器を見るとホラー映画のような一面の血しぶきが! こんな光景に震え上がった経験はないだろうか? これは恐らく、痔。ただちに生命の危機には直結しにくいが、心理的なダメージは甚大だ。
突起や膿の出現、出血など痔の症状はさまざま(下記スライドを参照)だが、羞恥心から受診を敬遠する患者は多い。
下記に掲載した大規模調査でも受診率はわずか4割弱にとどまる。
厚労省が実施した「平成26年(2014年)患者調査」によると、調査日1日だけの痔核(いぼ痔)の推計患者数はなんと1万3500人。裂肛(切れ痔)と痔瘻(あな痔)も2900人という。
これら3つが患者数の多い3大痔疾患で、ここに敬遠組は含まないので、日本人の3人に1人が痔持ちだともいう。そこのあなた、お尻の調子はいかがですか?
そもそも、なぜ痔は起こる?
さて、肛門は消化管の出口にあり、刺激性のある糞便のほか腸内細菌や排泄される有害物質にもさらされ、過酷な環境にある。
肛門の構造
肛門の長さは約3cmで、縁から約1.5cm奥に肛門上皮と直腸粘膜の境界線(歯状線)がある。境界線より奥にできた痔は痛まず、境界線より外には知覚神経が集まり、痔の痛みに対し敏感だ。
また、粘膜の近くに位置する内肛門括約筋は自律神経の支配下にあり、意思とは無関係に閉じられているため、就寝中や意識のないときにも便が漏れ出すことはない。その外側を囲む外肛門括約筋は脊髄神経の支配下にあり、意思で開閉を調節できる。
歯状線には5~8か所の窪み(肛門小窩)があり、その奥に肛門腺がある。
便秘の硬い便や、勢いよく通過する下痢便は、しばしば肛門を傷つけ、裂肛となる。裂肛を放置すると肛門に不細工な突起を作ったり、一日中痛み、果ては粘膜を突き破ってトンネルを作り、膿を伴う痔瘻になることも。炎症で肛門が狭窄する人さえ現れる。
痔核があると便秘や下痢が呼び水となって腫れたり、深い切り傷となって痛むこともある。
悪しき生活習慣も痔を悪化させる。たとえば飲み過ぎによる血中アルコールの上昇は、痔核を鬱血させ出血を招きやすい。ストレスや疲労も鬱血の原因になる。
昨今は自宅で仕事をする人が増えたが、実はこれも痔にはよくない。職場とは違い、一人きりで仕事に邪魔が入りにくいと姿勢も変えず、長時間切れ目なく働き、肛門の鬱血を招く。1時間に1回は椅子から腰を上げ、お尻を休ませよう。
そもそもダイニングの椅子は長時間座ることを想定しておらず、往々にして座面が硬い。クッションを使い、お尻をいたわろう。
女性は月経前後に便秘、下痢を起こしやすいし、冷え性だと夏場のエアコンがカラダを冷やし、痔核の一因になることがある。
他にも長時間の自動車の運転や飛行機、バス、新幹線などでの移動は痔核悪化の原因ともなる。さらにはランニングやゴルフなどのスポーツ、草むしりなどのしゃがみ仕事や風邪による咳き込みも痔核のきっかけになるという。
実は定年退職後の男性に裂肛が増えている。通勤という名の運動がなくなり、一日中家でテレビを見て過ごし、運動不足から便秘になるというのだ。
便通に異常を招く生活が、お尻を痔へと追い詰める。
ここまで読んで気づかれたかもしれないが、痔は立派な生活習慣病なのである。規則正しく健康的に暮らし、排泄リズムを整えることが、結局は痔も遠ざける。
では、便通をスムーズにするにはどうすればよいか? 食生活の改善は言うまでもない。野菜などの繊維質だけでなく、ヨーグルトなどの摂取で便通をよくしよう。
現代人の忙しい生活も便秘の一因。朝起きてすぐ出勤するような人では、出勤前に時間が取れないため便が出ず、週末しか出ないというケースも。こういう人だとリモートワークでいつでも自宅のトイレに行けるようになると、便秘が解消する可能性もある。
トイレでの排便姿勢も重要だ。直腸と肛門の角度の問題から、背中を反らせると便は出にくい。洋式トイレでは前屈みで排便しよう。人によっては低い台に足を置いて座るのがよい場合もある。
「痔に似た症状の病気」の可能性も。
症状が続くなら速やかに受診を。出血や血便の原因は痔ではなく、大腸がんかもしれないからだ。
受診するなら、やはり専門医がよい。内科や消化器科でも痔を診るクリニックはあるが、痔の専門医ならより安心。日本臨床肛門病学会のホームページには、同学会の認定専門医のリストがある。
今では痔の治療法に選択肢が増えたが、実は専門医の間でも治療方針に幅がある。積極的に手術を勧める専門医もあれば、ぎりぎりまで手術をしない、あるいは手術以外の治療法を勧める専門医もいる。
もしもどの治療がよいか迷ったら、他の専門医にも相談しよう。患者に優しい治療が増えた結果、完治させた人たちには、受診前の心配を取り越し苦労だったとする声が多い。
お尻の悩みは専門医に任せれば安心だ。