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時速380km、五百円硬貨ほどの焦点に、命を賭けて|レーシングドライバー・佐藤琢磨

モータースポーツ界にそびえる二つの頂、F1とインディカー・シリーズの双方で表彰台に上がった日本人は、一人しかいない。プロ・レーシングドライバーの佐藤琢磨だ。

レーシングドライバー・佐藤琢磨
レーシングドライバー・佐藤琢磨さん
さとう・たくま/レーシングドライバー。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング所属。学生時代の自転車競技から一転、20歳でレーシングスクールに入り、モータースポーツの世界へ。2002年にF1デビューを果たし、04年のアメリカグランプリで表彰台に上がる。10年からインディカー・シリーズに挑み、13年ロングビーチグランプリで日本人初優勝を成し遂げ、F1とインディカー双方で表彰台に上がった唯一の日本人となる。17年インディ500で初優勝。19年はインディカーに挑戦して初めて2勝を挙げ、異なる4つのタイプのコースすべてで勝利を挙げたエリートドライバー (現役では5人のみ)の仲間入りを果たす。20年に2度目のインディ500制覇。シーズンを通しても自己最高位のシリーズ7位の成績を収める。1977年、東京都生まれ。

インディカーでは、2020年に3年ぶり2度目のインディアナポリス500(インディ500)制覇という快挙を達成。インディ500とは、一周2.5マイル(約4km)のオーバルトラックを200周、計500マイル(約800km)で争う、世界3大モータースポーツレースの一つだ。

今年44歳の佐藤は、 そのキャリアでもっとも輝かしい活躍ぶりを見せている。まずは頂点を知る者に、F1とインディカーの違いを教えてもらおう。

「F1には、製造者(コンストラクター)部門とドライバーズ部門があります。メディアではドライバーズ部門に注目が集まりますが、それ以上に製造者部門が重要。あらゆるリソースと技術を集約して、オリジナルのマシンを作り上げないと勝てないからです。結果的に見た目はそっくりですが、中身は全然違うもの。地上最速のマシンをどう作り、どう操るかを競います

インディカーでは、マシンのシャーシやタイヤは単一メーカー、単一スペックのワンメイク。エンジンは2社から選び、ダンパーのみチーム独自の開発が許されます。その分ドライバーの力量が問われる。F1で計測するのは1000分の1秒までですが、僅差の勝負になることが多いインディカーでは1万分の1秒まで計測します。モータースポーツでここまでの精度を求めるのは、インディカーだけです。

F1はチームの一員として最速のマシンを開発する面白さがあります。ドライバーとしてよりエキサイティングなのは、インディだと思います」

マシンを全身で感じ、目からの情報を加え瞬時に操作する。

ドライバーには多くの能力が要求される。なかでも重要なのは、目から入る情報を素早く処理して分析する能力。そのベースとなっているのは、視力(静的視力)であり、動体視力である。

「インディカーのトップスピードは時速380km。1秒間に100m以上進みますから、減速するブレーキングポイント、曲がるターニングポイントの見極めが少しでも遅れると、パフォーマンスが落ちますし、思わぬ事故にもつながります。耳の奥の三半規管をはじめとする全身がセンサーとなり、マシンのヨーイング(左右の回転)ローリング(左右の傾き)ピッチング(前後の傾き)という三次元の変化を感じながら、そこへ目から入る情報を統合して脳で瞬間的に判断して操作しているのです」

新幹線を遥かに超える時速380kmの景色は、私たちの想像を遥かに超えている。プロフェッショナルには、一体どう見えているのだろうか。

「新幹線に乗ったとき、遠くの富士山を眺めるとゆっくりとしか動きませんが、近くの鉄橋に目を向けると速すぎて残像しか残りませんよね。

同じようにインディカーでも、近くを見ても、必要な情報が得られないので、前方300m、200m、100mといった感じで遠くへ焦点を合わせます。スピードが出るほど中心視野は狭くなりますから、トップスピードで集中できるのは、五百円硬貨ほどのエリアにすぎません。同時にミラーで後ろの状況も確認しています」

レーシングドライバー・佐藤琢磨さん
レース中はあえて集中力にメリハリをつけることも大事だという。「集中力はずっと持続できません。直線ではタスクが減るので、最高速なのに少しリラックスしてひと休み。代わりにコーナーに飛び込むときは集中力を最大限に高めます」。まさに達人の領域だ。

大切な目を守るため、佐藤は細心の注意を払う。

「レースの前後に専属トレーナーのマッサージを受けますが、その際ボディだけではなく、目の周りもマッサージしてもらいます。さらに、走る前は目を温めて血行を促し、走った後は目を使うと凝る後頭部をほぐしてもらいます。オフ日にスマホやパソコンなど近くばかり見ていると思ったら、意識して遠くを見るようにします。こうしたケアのおかげで視力は裸眼で1.5〜2.0をキープできています。

レース中に気になるのは、目の乾きだ。

「レースを終えると、体重が2〜3kg落ちるほど、汗をかきます。汗で蒸れるのは不快ですが、ヘルメットのバイザー(シールド)をわずかでも開けると風で目が乾く。インディ500では、バイザーを完全に閉じて隙間をシーリングしても、空気を循環させる上部のダクトから風が入って目が乾き、レース終盤はピントが合いづらくなります。潤いが保てるいい目薬はないか、いま探しているところです」

レーシングドライバー・佐藤琢磨さん
バトルロープを用いたトレーニング。「これは体幹を鍛えるために行います。インディ500のオーバルコースを1周40秒で走ると、1周ごとに4つのコーナーで4.5Gの負荷がかかります。そのGに負けない体幹力がドライバーには求められるのです」。

プロとしてベストな状態でレースに臨むために、普段のコンディショニングも怠らない。

体調管理の基本は食事です。いい燃料を入れないとインディカーが走らないように、人間もバランス良く食べないと体調が落ちる。もともと好きなので野菜や果物をよく食べますし、それでも不足する栄養素はサプリで補うようにしています。ベタですが、目にいいと聞くブルーベリーは、朝食のシリアルに乗せて、毎朝山盛り食べています(笑)。トレーニングは自体重を用いたものが中心。自体重ベースなら、遠征先でも簡単な器具で鍛えられますから」

レーシングドライバー・佐藤琢磨さん
サスペンションに両脚を入れて、両手でボールを押さえ、姿勢を空中でキープしながらプッシュアップを行う。筋力だけではなく、パワー、可動性、バランス力、持久力などがトータルに鍛えられる。「床でやる普通のプッシュアップの3倍以上きつい。すぐ汗だくになります」。

100%の準備をし、100%の力でやる。それがプロである。

そんな佐藤が、プロとして何よりも大切にしているのは、どのようなことだろう。

「目標を立てて、それを達成するまで努力を厭わず、絶対に諦めないことです。これまで幾多の挑戦をして、数多くの失敗を繰り返しながら、目標を一つひとつクリアしてきた。目標のために100%の準備をし、100%の力で取り組めないと悟ったら、プロとしての活動を終えるしかありません

もう一つ挙げるなら、感謝の心を忘れないことでしょうか。コロナ禍で再認識させられましたが、プロとして真剣勝負の場に立てるのは、エンジニアやメカニックといったチームの仲間、スポンサー、そして応援してくれるファンの支えがあってこそ。彼らへの感謝の心、その支援に報いたいという気持ちから、チャレンジする勇気が湧いてくるのです」

今年も4月に開幕するインディカーで、佐藤は今後の目標をより高いところに置いている。

「インディ500は、偉大なドライバーでも勝つことが難しいレース。1勝するだけでも大変なのに、奇跡的に2勝することができました。1勝目のときは、一生に一度でも勝てて幸せだと思いましたが、ここまで来たら連覇を狙って3勝目を目標にしたい。4勝したドライバーは過去100年で3人だけ。チーム一丸となってそのチャンスを摑むべく、果敢に挑戦したいと思っています」

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INFORMATION

ライオン株式会社「スマイルDXシリーズ」

https://go-lion.jp/Smile014

取材・文/井上健二 撮影/若木信吾 編集/ニッセンシュウ

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