本当に正しく磨けてる? 電動ハブラシ、実はNGな8つの使い方
気温も段々と暖かくなり、春からいよいよ始まる新生活。これを機に身近な生活用品を買い替える人も多いだろう。そんなとき、毎日洗面所でお世話になっているハブラシを、最新の電動ハブラシに替えるのはどうだろう?
取材・文/廣松正浩 撮影/山本嵩
寝ぼけ眼の朝に、疲れて早く眠りたい夜に、何かと忙しい新生活を陰ながらサポートしてくれるのが電動ハブラシ。とはいえ、優れた道具を手にしても、使い方を間違えると電動ハブラシが誇る高性能を発揮しきれない場合もある!
そこで電動ハブラシとの上手な付き合い方を上妻和幸先生(こうづま歯科医院院長)にうかがった。小学生の頃に歯ブラシの使い方を習ったという人も少なくないと思うが、実は「電動ハブラシの正しい使い方」を知る機会は、意外と少ない。これを機に間違った使い方から卒業し、正しく効果的な口内ケアを実践しよう。
教えてくれた人
電動ハブラシのメリットは?
使い方のレクチャーを受ける前に、まずは電動ハブラシを選ぶメリットを確認しておこう。大人が注意すべきはむし歯ではなく、歯周病。しっかりと目的意識を持って活用するのもポイントだ。
「地域の学校に歯科健診で伺うと、子どもたちのむし歯は減っているなという印象を受けます。その一方で、大人の間には歯周病が相変わらず多い。統計では日本人の8割が歯周病を罹患しているといいます。
成長期はむし歯の予防が、成人後は歯周病の予防が歯磨きの大きな目的になりますから、電動ハブラシもそれに沿った機種を選び、目的に合った使い方をしましょう」(上妻和幸先生)
いま全国の歯科医師の多くが推奨する歯磨きの手法は、ハブラシを左右に行き来させるヨコ磨き。正式名称でいうとバス法とスクラビング法だ。だが、正しいヨコ磨きをできている人は驚くほど少ない。というよりは、そもそも手では困難だし、正しい手法を追求すると意外と時間を食ってしまうのだ。
「電動だからこそ可能な動き、速度があります。慌ただしい朝は時短のためでも構いませんが、就寝前は歯と歯周ケアのためにじっくりと使ってほしいものです」
実はNGな電動ハブラシの使い方。
- NG① 手のひらで、しっかり握ってる。
- NG② 歯に当てるとき、手磨きの癖で動かしている。
- NG③ 強く当てすぎている。
- NG④ 境目が上手く磨けていない。
- NG⑤ 磨く時間が長すぎる。
- NG⑥ 歯磨きペーストが多すぎる。
- NG⑦ ハブラシの先端が使えていない。
- NG⑧ ブラシの交換を怠っている。
NG① 手のひらで、しっかり握ってる。
「歯科医や歯科衛生士の歯磨き指導を受けていない人は、ついハブラシの柄を手のひらで握って磨きがちです。このパームグリップだと、どうしても前腕で力任せにゴシゴシ磨こうとしてしまうので、歯と歯の境界、歯と歯茎の境界の溝(歯肉溝)の中や、奥歯の奥の面などハブラシの届きにくい場所に汚れが滞りがちになります」
電動だけでなく手磨きでも、ハブラシはペンを握る要領で軽く持ちし、角度を変えながら、届きにくい場所も細かく攻略しよう。力任せに押し当てると毛先が開いてしまい、狙った場所から逸れるのであくまでソフトに。それでも、電動なら素早くキレイに仕上げてくれる。まずは、いままでの握り方から卒業すべし。
NG② 歯に当てるとき、手磨きの癖で動かしている。
「理想的な磨き方は毛先の腰でしならせるように、踊らせるようにハブラシを動かすこと。電動ハブラシを使うなら、狙った箇所に当てるだけでいいんです。動きは電動歯ブラシに任せ、自分でゴシゴシ動かさないことです」
当てた箇所がキレイになったら、ずらすようにゆっくりと隣の箇所にブラシを移動。本来、歯は1本ずつ磨くのが理想だが、似た形の歯が並ぶ箇所は2~3本まとめても、高性能な電動ハブラシは素早く磨けるだろう。それが朝の時短にもつながるはず。
NG③ 強く当てすぎている。
「健康意識が高く、真面目な患者さんほど、ともすると“かため”のハブラシで強く磨きがちです。こうした歯磨きを繰り返すと、歯の根元が楔状に削れてしまったり、歯肉が後退して、象牙質の露出を招くことがあります」
歯の白い表面はエナメル質で硬く、丈夫なもの。これに対し、象牙質はほのかに黄色く色づき、エナメル質よりも柔らかい性質のため、露出するとむし歯になりやすいし、見栄えも悪くなる。
電動ハブラシの刷掃効果は高いため、強く当てる必要はまったくない。強く当ててしまうと、毛先の動きを抑え、損ねてしまいかねない。なお、最新モデルの中には強い力を検知するとスマホアプリと連動してアラームを発してくれたり、動きを下げる機能を搭載したものもあるので、そういった機能も参考にしよう。
NG④ 境目が上手く磨けていない。
歯の表面に対し垂直に当てるヨコ磨き、スクラビング法だと表面は効率よくキレイにできるが、歯と歯茎の境目、歯肉溝の中に毛先を届けるのは少し難しい。実は、この歯肉溝の中こそ歯周病の主戦場。ここを磨かずして予防はありえない。
「いまどきの電動ハブラシは極細毛のものもあるので、歯肉溝に対し約45°でアプローチするバス法なら、歯周病の原因菌をしっかりかき出せるでしょう。スクラビング法とバス法を使い分けるのがお勧めです」
NG⑤ 磨く時間が長すぎる。
歯磨きの所要時間は個人差が大きい。お気に入りの楽曲をBGMに長々と磨く人もいるが、磨き過ぎに強い力が加わると、エナメル質に傷をつけてしまいかねない。ほどほどの時間に留めよう。
一方、てきぱきと進めたい朝は電動ハブラシの使用が一択だが、では、どれだけの時間が目安だろうか?
「歯列を上下左右の4分割でイメージして、1区画30秒ずつで計2分間が目安です。個々の区画を磨く際は、まず歯の表側。次に噛み合わせ面を磨き、最後は歯の裏側を磨いたら、次の区画にハブラシを進めます」
手順を習慣化してしまえば磨き残しは少なく、ムラなく均等に磨けるだろう。
NG⑥ 歯磨きペーストが多すぎる。
いまどきの高性能電動ハブラシは歯磨きペーストなしで歯垢も十分に落とせる。
「歯磨きのCMによる刷り込み効果なのでしょうか、皆さんハブラシの上面にたっぷり載せないと気が済まないようですね。最後に尻尾が跳ね上がるようなら、もう載せ過ぎです(笑)。歯科医としての推奨量は小豆一粒大、いや、米一粒程度の量で十分です」
また、研磨剤を配合してあるものを使うと、エナメル質を摩耗してしまうことがある。歯は再生することのないかけがえのない組織だ。研磨剤入りは避けよう。
「歯は生涯をかけて使っていくものですから傷めつけない、傷つけない、激しくしないことが大事です。優しく扱ってあげてください」
NG⑦ ハブラシの先端が使えていない。
歯肉溝や歯間のほかにも磨きにくい箇所はある。
「下の前歯の裏は唾液の溜まる場所だから、歯石が沈着しやすいのですが、意外と磨きにくいものです。ハブラシを起こして手前の角、“かかと”を当てるとうまく磨けます。逆に、奥歯の奥はハブラシの先端の角、“つま先”を引っかけるようにして当てるとラクですよ」
意外にも利き手側の歯には磨き残しが多い傾向があるという。たまに利き手“ではない”方の手で磨くのもいいだろう。
NG⑧ ブラシの交換を怠っている。
「電動ハブラシには“かため”や“やわらかめ”など、さまざまな交換ブラシが用意されています。使う人の好みもあるとは思いますが、最初にセットされている標準タイプのものが恐らく汎用性は最も高いはずなので、あえて変える必要はないでしょう」
それよりもむしろブラシの交換を怠らないことだ。寿命は使い方次第で大きく変わるが「後ろからブラシを見たときに、ヘッドの左右に毛先が広がって見えたら、すぐ新しいものと交換しましょう」
どんなに高性能な電動ハブラシでも、肝心のブラシが劣化してしまえばパフォーマンスは低下する。週に一度はブラシをひっくり返してチェックすべし。
歯磨きのときのヒトの手の動きを研究し、開発されたいまどきの電動ハブラシは、刷掃能力が手の8倍とする報告もある。ただ時短効果を実現できるだけでなく、手には困難な歯肉溝の中に潜む歯周病菌をかき出すこともできるまでに進化している。
成長期はむし歯予防。成人後は歯周病対策が口腔ケアの要だから、歯肉溝を効率よく攻略できる電動ハブラシで歯磨きのクオリティを改善しよう。新しい生活習慣のスタートにはもってこいの季節だ。