石ができても無症状のケースも。
自覚症状は皆目ないのに、健康診断の腹部エコー検査で“石ができてます”と驚きの宣告。症状はないため経過観察になったものの、放っておいて大丈夫? なかには激痛に見舞われる人もいるというが…。
肝臓で作られる胆汁が流れ、十二指腸内に放出されるまでのルート、胆道のどこかで石ができ、痛みだけでなく、ときに生命に関わる重大事態を招くのが胆石症。立派な石が成長しても、まるで無症状の人もいるため、統計調査で実態を把握するのは困難だ。
だが、医療機関からの報告でいくらか傾向は見える。確認された胆石症は胆囊由来のものが過半数を占め、総胆管結石を合わせれば100%近くに達する。
なぜ胆石はできるのか?
そもそもなぜ石ができるのか? それには胆汁の役割と成り立ちを知るのが近道だ。胆汁はコレステロールやレシチン、胆汁酸や赤血球由来の色素、ビリルビンなどを材料に肝臓が合成する。
食事で摂った脂質、糖質の消化を円滑に進めるため、胆汁はこれらの栄養を分解し、膵液の消化酵素を効きやすくする。胆囊は胆道の途中で胆汁を溜め、5~10倍の濃度にまで濃縮する。
胆汁の中にコレステロールが多いと、この濃縮過程で析出することがある。胆囊結石の多くはこうして生まれ、成長する。胆管内に細菌感染が起こると、白血球(好中球)がこれを処理しようとして分泌した物質が核となり、ビリルビンとカルシウムを材料に結石を生じることもある。
軽い発作は胃痛にも似ている。
コレステロール結石とビリルビン・カルシウム結石で症例のほとんどを占め、肝臓内の胆管内に生じる結石は1%程度とされる。そして、胆石が胆囊管付近に存在していると、食後の胆囊の収縮の際に、筋肉によって胆石が胆囊頸部にはまって胆囊の内圧が急上昇し、激しい痛みを生じることがある。これが胆石発作だ。
だが、時間がたち筋肉の収縮や炎症が解消して胆石が動きやすくなり、胆汁の流れが再開すると、発作が見事に鎮まることも。
少し耐えれば痛みが去ることを知った人は、受診しない可能性もある。また、軽い胆石発作は胃の痛みと判別が困難なので、ますます実態の把握は難しくなる。
患者の追跡調査では、診断後すぐ何らかの症状の出ることはあっても、中長期的には鎮まっていくとする報告もある。
だが、胆石を持っていることは間違いなくリスクだ。時間がたっても胆石が動かず、胆道のどこかを塞ぎ続けると、胆汁の成分が刺激となって胆囊に炎症が起こったり、胆汁によって流されなくなった細菌は爆発的に増えかねない。特に胆管炎は血中に細菌感染が広がりやすく、発熱や黄疸の出ることがあり、対応を誤ると意識障害、ショック症状、敗血症や多臓器不全症候群にも発展しうる。
また十二指腸への出口、十二指腸乳頭部近く(共通管部)では総胆管と主膵管が合流する。ここを胆石が塞ぐと、行き先を失った膵液が膵臓に逆流し、急性膵炎を招くことも。
いまはまだ無症状でも、胆石があるとわかっているなら単なる経過観察にとどめず、治療を検討するのもおすすめだ。
服薬、手術も選択肢だが…。
一般的な胆石症の治療は薬物療法か手術の2つだ。10~15mm未満の小さいコレステロール胆石には胆汁酸の一種、ウルソデオキシコール酸を処方することがある。胆汁酸を補うとコレステロール胆石を少しずつ溶かせるからだ。なお、15mmを超える大きな胆石が、胆管内で微動もしないような場合は、体外衝撃波結石破砕療法で胆石を砕いてから服薬・内視鏡治療という手法もある。
胆囊内の胆石は手術による胆囊摘出だ。胆石発作を起こしたことのある患者には推奨される。胆囊を全摘すると濃縮されなくなるため、胆汁としての機能は低下する。そのせいで、脂っこいものを食べるとお腹が緩くなる人も現れるが、これは食事の仕方次第で乗り越えられる。
ただし、こうした処置で症状が治まっても、胆石のできやすい体質や生活を変えない限りは再発も考えられる。欧米ではコレステロール胆石ができやすい人には5つのFがあるとされてきた。Forty(40代)、Female(女性)、Fair(白人)、Fatty(肥満)、Fecund(多産婦)だ。
日本人にはぴんと来ないものもあるが、ここからぼんやりと見えてくるのは、不活発で運動不足のライフスタイル。細菌感染が引き金の胆石症もあって、生活習慣病とは言い切れないが、活発な生活は(少なくとも)胆囊を揺り動かし、胆汁を攪拌するだろう。揺れ動く液体の中で結晶はできにくい。運動は副作用のない予防薬だ。心ゆくまで存分にどうぞ!