備えて安心。プロが選んだおすすめ市販薬
自宅にあると心強い救急箱。いざという時のために、薬とアイテムの選び方を知っておこう。薬剤師である三上彰貴子さん監修のもと、おすすめの市販薬をまとめてみました。薬の保管法や使用期限についても解説しています。
取材・文/廣松正浩 撮影/新井孝明 取材協力/三上彰貴子
初出『Tarzan』No.799・2020年11月5日発売
1. プロが選んだおすすめの市販薬9点。
職場では労働者の安全を守るため、事業者が用意しなければならないものを労働安全衛生法が規定している。でも、その中には副木、担架など自宅に置くには疑問を感じるものも。 「何を用意すべきかわからなければ、中身とセットで売られている救急箱を買うのも一案です」と案内するのは薬剤師の三上彰貴子さん。セットならば頻度高く使用する薬の他にも、絆創膏やガーゼなどのマストアイテムがそつなく用意されているはず。日々の生活で使ったら、減った分だけ補充しておけば安心だ。 「自分で中身をそろえるなら、家族構成を考えましょう。子どもがいて、ケガをしがちなら救急手当てセットを組むつもりで。独身や夫婦だけなら急な発熱時の風邪薬や解熱鎮痛薬、打撲の時の湿布薬とか。高齢者がいるなら胃腸薬や整腸剤も用意しておくといいでしょう」 年に一度は中身をチェックして、使用期限を過ぎているものは新品と交換することを怠らないように。以下に挙げた9点は、「総合感冒薬・トローチ」「湿疹・かぶれ・虫さされ」「解熱鎮痛薬」「整腸剤」「下痢止め」「胃薬」の6カテゴリーの常備薬だ。
2. 常備薬、選び方のポイント
・総合感冒薬・トローチ〜「総合薬」にも得意分野がある。
大人だけの家族か子どももいるかで選択肢が変わる。6歳未満なら市販薬より、まず受診するのが間違いない。内服薬も医師が適切な処方を考えてくれるだろう。15歳未満の場合、市販薬では有効成分でアセトアミノフェンが使われているものなら使える。使用できる年齢を必ずチェックしよう。 大人が風邪のひき始めに飲むなら葛根湯濃縮液の《カコナール2》は、眠くならず仕事に支障をきたしにくい。喉の症状に早くよく効く《パブロンSゴールドW》もひき始めにいい。同じく《ルルアタックEX》も喉から症状の出がちな人にお勧めできる一品。鼻の症状から始まりがちな人には《ベンザブロックSプラス》もいいだろう。 パッケージや添付文書を読み込むと、総合感冒薬といってもどの症状に軸足を置いているかがわかるはず。少なくとも主な症状が喉なのか鼻なのか、顕著な症状は明らかにして選ぼう。トローチも年齢制限や1日の服用回数に制限のあることがある。ご注意あれ。
・湿疹・かぶれ・虫さされ〜ステロイドの抗炎症効果を使って早めに治す。
原因が湿疹であれ、虫さされであれ、外用ステロイドが配合されている製品には高い抗炎症作用が期待できる。 《フルコートf》には抗生物質を加えてあるので、うっかりかき壊した患部への細菌の侵入、増殖も防ぐ。 また、《ムヒαEX》のステロイドは効果を発揮した後、体内で分解されやすいアンテドラッグ型で安全性に優れている。ステロイドには怖いイメージもあるが、抗炎症作用でかき壊してひどくなる前に治すことができる。
・解熱鎮痛薬〜最近は胃を守る成分を配合したものも増加。
急な頭痛、歯痛、発熱を乗り切るお助けアイテムだが、子どもには子ども用の解熱鎮痛薬を一択で選ぼう。大人用のものを半量などと考えないことだ。たとえば15歳未満の子どもにアスピリンを含む解熱鎮痛薬を飲ませるのはよくない。 大人ならば《バファリン プレミアム》は胃粘膜の保護も視野に入れた配合のため、内服薬で胃の荒れやすい人にも安心。メディアでもよく目にする《バファリンルナ》や《ノーシンピュア》などは手堅い選択肢だ。 外用薬と同じく有効成分、ロキソプロフェンナトリウム水和物で解熱鎮痛の効果を発揮する《ロキソニンSプラス》も胃に優しい処方になっている。使ったことのあるものを常備しよう。
・整腸剤〜狙いは体質改善なので、時間をかけて根気よく。
有用な菌を生きたまま腸内に届け、腸内環境を整えるには菌を胃酸の攻撃から守る必要がある。 胃酸を中和する成分を含む《ザ・ガードコーワ整腸錠α³+》は、生菌を生きたまま腸に届けられるように工夫されている。安心の大定番、《新ビオフェルミンS》は、ヒト由来の乳酸菌を厳選しているので、腸への親和性、安全性が高いことが期待できる。 また、《強ミヤリサン錠》が採用している宮入菌(酪酸菌)は、芽胞を形成することで胃酸などの苛酷な環境を生き抜くことが知られている。腸に定着すると腐敗菌に対し強い拮抗作用を発揮するので、じわじわと腸内環境を改善していく。一朝一夕に結果を求めず、根気よく改善を目指そう。
・下痢止め〜下痢の原因を知ったうえで服薬を考える。
下痢はどんな事情によるかで対処が変わる。食中毒の場合は原因物質を至急体外へ排出しないと危険だから嘔吐し、下痢をする。これを薬で止めてはいけない。こういう状況では脱水症状に近づく可能性もあるので、下痢止めではなく経口補水液や整腸剤を飲もう。 盤石の解、《正露丸》は安心だが、薬箱にこもりやすいニオイが気になる人には《セイロガン糖衣A》がお勧め。《ピタリット》は食べ過ぎや飲み過ぎ、寝冷えなどから来る下痢によい。
・胃薬〜原因別で選ぶべき製品が変わってくる。
胃の調子もどういう事情で悪くなったのかを考えよう。ストレス由来の胃の痛みや食べ過ぎ、飲み過ぎなどの胸焼け時には総合的に効き、常備しておくと安心な《第一三共胃腸薬》や《太田胃散》が実績と王道のチョイスだろう。 あるいは絆創膏のように胃粘膜を保護、修復するという《スクラート胃腸薬》にも定評がある。《新セルベール整胃プレミアム〈細粒〉》も胃粘液を増やすことで胃を守る。 アルコールを飲み過ぎたり、強い胃酸による胃粘膜の刺激から起きるムカムカ、吐き気、胃痛には《サクロンQ》が素早く溶けて、効き目を発揮してくれるだろう。ただし、ストレスマネージメントやこれからの時期、暴飲暴食を見直すこともお忘れなく。
3. 救急箱にはこんな物も入れておこう。
子どもがいるなら刺激の少ない消毒薬や《キズパワーパッド》は必須だ。傷口の手当てには滅菌、個包装の綿棒があると清潔、便利。打撲は少なくないので湿布薬も用意しよう。冷やしても硬くならない冷却材も準備を。
そのほか医療用テープは手で切れるし、上に文字も書けて汎用性が高い。三角巾を使いこなす自信がなければ、昔ながらの和手拭いで代用できる。縫い目の方向に裂けば余裕ある長さで腕を吊ることもできる。 手持ちのハサミの切れ味が悪ければ、100円均一のもので十分なので、この際買い直そう。眼鏡やコンタクトレンズの使用者はスペアも入れておくと安心だ。
4. 薬の保管法、期限は?
湿布薬や目薬を冷蔵庫で保管する人がよくいるが、目薬は急冷すると結晶化して変質することがある。常温保存でいいが、開封後は雑菌が繁殖しやすいので、目薬は遅くとも3か月で廃棄しよう。パッケージに書いてある使用期限は開封前のもの。
また、冷蔵庫内は乾燥が進むので湿布薬は粘着力を失いやすく、保管には不向き。冷蔵保存して構わないのは、せいぜい子ども用のシロップ型風邪薬ぐらい。 湿気の多い洗面所や高温になる自動車の中はもってのほか。成分が変質する可能性がある。また洗剤がそばにあるとニオイが移ることも。さらに防虫剤も近くにあると成分を暴露する可能性が。
5. WITHコロナの時代に常備すべきものは?
指にも使えるアルコール系のウェットティッシュは食卓をはじめ、身の回りのウイルスを不活化する備えになる。 傷口の洗浄にも使える開封前の飲料水は救急箱にあっていいアイテム。常備する飲料水や食品は日常でも使い、消費した分だけ補充すれば、いざというときに鮮度の高いものが使える。
また、帰宅時や喉に違和感を感じたときのうがいで、ポビドンヨードのうがい薬を多用すると気道の粘膜が荒れて、逆に感染しやすくなる。薬が使いたければ粘膜を修復する成分も入っているアズノール系のもの(《パブロンうがい薬AZ》など)がお勧めだが、喉に症状がなければ水うがいで十分だ。
教えてくれた人
三上彰貴子さん (みかみ・あきこ)/薬剤師。外資系製薬会社勤務後、慶應義塾大学にてMBAを取得。薬剤師の資格を活かし、薬に関する情報をメディアで発信。All About薬ガイド。
※医薬品は「使用上の注意」をよく読んでお使いください。アレルギー体質の方は、必ず薬剤師、登録販売者にご相談ください。