• “EKIDEN”は世界共通語になるか|世界スポーツ見聞録 vol.24
COLUMN
2020.10.25

“EKIDEN”は世界共通語になるか|世界スポーツ見聞録 vol.24

『ASICS WORLD EKIDEN 2020』
デジタル上の「たすき」をつなげるバーチャル駅伝大会『ASICS WORLD EKIDEN 2020』。エントリーは2020年11月10日まで。詳しくは公式サイトを参照。

錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。2019年末までアジアトップを務めた田丸尚稔氏が語る、バーチャル駅伝大会について。

かつて一度だけ挑戦したフルマラソン。

さすがに運動不足が過ぎる、ということでランニングを10年ぶりくらいに再開してみた。さまざまなスポーツをやるには移動するのも集団になるのもいまだ憚られ、以前のような気楽さを取り戻せないでいるなかで、スポーツジムに行くのに加えて手軽にやれるということで近所の川沿いを週に何度か走っている。

米国に渡る前は皇居の周りを走ってみたり、一度だけだがフルマラソンに挑戦してみたりしたこともあった。12月に沖縄で開催された市民大会で、気候も景色も素晴らしく体調も良かったので、初挑戦ながらひょっとしたら4時間を切るくらいでゴールできるかも、というペースで調子に乗ってウキウキ走っていたら、30km手前あたりでいきなり膝に痛みが出て足が止まってしまった。

それから延々と歩くほかなくなったのだけれど、沿道の声援がとても温かかったのを覚えている。オフィシャルのエイドステーションではなく、おそらく近所に住んでいると思われる地元の人々が、冷却スプレーを脚にかけてくれたり、黒糖を差し入れてくれたり、あるいはサーターアンダギーを渡してくれたりした(嬉しくなって受け取ったサーターアンダギーは、口の中の水分を片っぱしから奪い取ってしまう感じで、喉に詰まって苦しくなったけれど…)。

おかげでなんとか完走(完歩?)することができた。しかし、それからしばらく、少し長い距離を走ると膝に痛みが出るようになって、徐々にランニングから遠ざかるようになってしまった。

デジタル上の「たすき」をつなげるバーチャル駅伝大会。

もちろん走ることそのものに良さはあるけれど、自分においては大会に参加したり、そこから生まれる交流やコミュニケーションにもたくさん楽しさを感じているので、最近の淡々としたランニングには寂しさのようなものを感じていたところ、とてもよいイベントを発見した。それが『ASICS WORLD EKIDEN 2020』だ。

RunKeeper』というGPS追跡フィットネスアプリがあり、ランニングやウォーキング、フィットネスなどさまざまなアクティビティの進捗状況が確認できるものなのだが、そのプラットフォームを使ったバーチャル駅伝大会に、日本に限らず世界中で参加できるというイベントが開催される。

6区間に分けた駅伝スタイルでの競争で、複数人でチームとしてエントリーし、走るのは開催期間中であればそれぞれのタイミングと場所で行うのだが、自分が担当する区間の距離を走破するとデジタル上の「たすき」が渡される、という仕組み。チームでつながり、そしていろいろな国のライバルたちと記録を競うのはとても面白そうだ。

コロナ禍で、トレーニングやランニングなど運動に関するデジタル技術を使ったツール開発・利用がとんでもないスピードで進んでいる。今回の「EKIDEN」イベントなどを見ていると、データ管理等の「機能」開発から、実際に集まって参加するスポーツの場に行けないことで生まれたコミュニケーション不足を補うような、モチベーションの継続や他の人たちとの交流を促す仕組みなど「使い方」が発展するフェーズへと移ったのだろうと感じている。

そして新しく生まれたツールが、リアルイベントができない状況で一時の代替に留まるのではなく、コロナ後の世界でも残るような、スポーツの新しい在り方や、イベントへの参加方法を拡張する、大きな可能性を持っていることに心が躍る。

「EKIDEN」は世界の共通言語になるか。

加えて、今回のバーチャルイベントが「EKIDEN」と日本語のまま世界に広まるのも面白いかもしれない。たとえば「KAIZEN」という言葉は米国大学院で経営学の授業を受けた際にも使われていたのだが、日本企業が取り入れていた製造業などの作業工程の中で、問題の発見から原因の究明、解決方法の検討と実施というサイクルを回していくという、ある種“日本らしい”効率的なアイデアとして世界に広がった言葉だ。

数年前、カリフォルニアに住んでいた際は、地元のシェフが経営する飲食店で「OMAKASE」というコースメニューを目にしたこともあった。何かと自分で決めたがるアメリカ人が(と、一括りにするのは乱暴ですが)やれトッピングはどうだとか、この食材は抜いてくれだとか、もういちいちうるさいよというシーンにたくさん遭遇したので、「OMAKASE」が支持されることに少なくない驚きを覚えたのだけれど、食材の旬やプロとしてのシェフを信頼・尊重するという日本の文化的なニュアンスも含めての「OMAKASE」だった。

「EKIDEN」も、日本人だったら自ずと「つながり」や「チームワーク」など背景にある情緒が想起されると思う。コロナ禍による社会的距離という課題もそうだし、人種などによる分断が改めて浮き彫りになっている世界の中で、テクノロジーを使ったスポーツが身近な人ばかりでなく、遠い場所に住む人たちを接続し、社会を連帯させること。

単発のイベントで終わらず、背景にある日本的文化もひっくるめて「EKIDEN」という言葉が世界の共通言語になったらとても素敵なことだろうな、と想像している。

田丸尚稔(たまる・なおとし)/1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学にてスポーツマネジメント修士課程を修了し、IMGアカデミーのアジア地区代表を務めた。筑波大学大学院在籍(スポーツウエルネス学・博士後期課程)。

文/田丸尚稔

(初出『Tarzan』No.797・2020年10月8日発売)

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