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「疲れと冷え」から救ってくれる漢方的な考え方

寝ても取れない疲れがあるなら、一度は冷えを疑ってみるべき。今回は「薬石花房 幸福薬局」代表である中医師・幸井俊高さんに伺った、漢方的な発想から「疲れと冷え」を癒すティップスを紹介。

一人ひとりの状況に応じて、不調を元から治す。

ひと言で「冷え」といっても、実態は十人十色。一人ひとりに合った対策で冷えと疲れを取る必要がある。そこで役立てたいのが、古代中国に起源を持つ漢方的な発想。漢方では、その人の体質、体力、病状などを「(しょう)」として捉えて病気を治そうとする。

証では、陰・陽をベースに寒・熱、虚・実、表・裏を重視する。

「このバランスが崩れると、疲れなどが起こります。これらを適正バランスに整えることで、病気を自然に治そうというのが漢方の発想です。冷えに悩まされているのは、証のうちでも寒・熱が寒証に傾いているためだと考えられます」(中医師の幸井俊高さん)

証とは
証とは?/虚は免疫力や自然治癒力の低下、実は病気の勢いが強いことを表す。表は外界の悪影響や感染、裏は病気が体内の奥に入り込んだことを意味する。

寒証に傾きすぎると、冷えの他にも、痛み、しびれ、凝り、寒け、血行障害、便通の乱れといった不調を感じやすくなる。西洋医学では体温ばかりを注目するけれど、たとえ平熱でも、こうした寒証を放置すると深刻な病気に発展する恐れがあるから要注意。

でも、カラダは温かいほどいいわけではない。寒証の逆の熱証では、熱っぽいという自覚以外に、かゆみ、炎症、発汗、イライラ、不眠といった不調が起こりやすい。

寒・熱の適正なバランスを保つために大事になってくるのが、漢方の神髄ともいえる「気・血・津液」と「五臓」という考え方だ。それをどう調整するのか、引き続きチェックしてみよう。

人体を作る3つの要素がスムーズに流れる環境を作る。

カラダは37兆個ともいわれる無数の細胞の集まり。その細胞の集合体が烏合の衆ではなく、一つの「命」として機能するためには、気・血・津液がバランス良く循環することが大切だと漢方は教える。気・血・津液とは一体何だろう。わかりやすく解説してみよう。

気とは、生命力を高める目に見えないエネルギー。食べ物や呼吸などによって養われる。血と津液を巡らせるのは気であり、免疫力も気の表れだと考えられている。

血は、血液だけを意味するわけではない。血液の循環や、血液を充実させる栄養呼吸まで含んでいる。西洋医学では、血が足りない=単なる貧血と捉えるが、漢方では血行や全身の栄養状態の低下として貧血を捉える。

津液は、カラダを満たしている水分全体を表す。人体の約6割は水分だから、その循環は証にも大きな影響を与えている。

気・血・津液とは
気・血・津液とは?/気・血・津液が作る三角形の頂点を通る円が理想形を示す。円の外側で気・血・津液が多すぎても、内側で気・血・津液が少なすぎてもNG。

「寒証は、このうち気と血が不足している場合や、津液が多すぎる場合に起こりやすい」

気と血が足りないと冷え以外に、疲れやる気の低下肌のくすみ不眠といった自覚症状が出る。津液が多すぎると冷え以外に、むくみ肥満息苦しさなどが表れることが多い。気・血・津液を過不足なく巡らせて寒証を適正バランスへと導くために目を向けたいのが、次に出てくる「五臓」の働きである。

5つの機能がうまく噛み合えば、疲れ知らずに。

五臓とは、の5つを指す。

誤解しやすいのだが、五臓とは、5つの臓器という意味ではない。肝=肝臓、心=心臓ではなく、気・血・津液を生成、貯蔵し、バランスよく循環させるために不可欠な5つの機能を表している。ちなみに「五臓六腑」でいう六腑は、食べ物の消化吸収や排泄を担う。

五臓とは
五臓とは?/五臓の頂点をつなぐ五角形を結ぶ円が理想形を示している。肝・脾・腎以外では、心は血液の循環と思考活動、肺は呼吸、水分代謝などを担う。

「寒証を治すには、のバランスを調整することが重要。私のような中医師は漢方薬を処方しますが、普段の食べ物を替えるだけでも整えることは可能です」

肝は、血液や体液、内臓の働きを調節する働き。メンタル面にも関わり、コロナ禍などでストレスが溜まると、機能が失調する。肝の働きが失調して冷えているタイプは、春菊、パセリ、セロリ、タマネギといった香りのよい野菜、ジャスミン茶や柑橘類を補うと、冷えが治まる。

脾は、消化と吸収、気・血の生成を担い、脾が弱いと冷えやすい。脾が弱くて冷えるタイプにはネギやイワシなどが効く。

腎は、気・血・津液を貯め、成長や水分代謝を担う。腎が弱いと、冷えが生じやすい。腎が弱くて冷えるタイプには、ニラ、黄ニラ、エビ、栗、マッシュルーム、ウイキョウ、鹿肉、羊肉などがよい。

まさに医食同源。これらの食材を食生活に加えることが、冷えと疲れから解放される第一歩だ。

食事で弱った五臓をケア
食事で弱った五臓をケアする/カラダは食べたもので作られるから、食事は五臓を整えるのに有効。冷えに悩むならこれらの食材が登場する回数を増やそう。

「冷え」への具体的な2つのアプローチ。

① 手強い冷えに対しては、漢方薬の力を借りてみる。

食事でも治らない頑固な冷えには、漢方薬局を訪ねて漢方薬を処方してもらおう。冷えに効く漢方薬の例を挙げよう。

まずは八味地黄丸。地黄、山茱萸、山薬など8種類の生薬を配合したもの。八味地黄丸に牛膝、車前子を加えた牛車腎気丸も同様の効果を発揮する。

冷えには、内臓など深部に寒証が表れる「裏寒証」と、皮膚など表面に寒証が出る「表寒証」がある。現代人に多いのは裏寒証。裏寒証には「温裏祛寒剤」という漢方薬がいい。温裏祛寒剤には2つのタイプがある。一つは脾胃を温める「温中散寒剤」で人参湯や安中散などがある。もう一つは経絡を温める「温経散寒剤」で温経湯、五積散などがある。

証に合わせた漢方の種類
漢方薬局で証を踏まえた処方を受ける。漢方を取り入れている病院では、保険が利く医療用漢方製剤の処方も受けられる。

② 足りない栄養を補い、過剰なものをカットする。

栄養バランスの乱れも、冷え体質を招きやすい。証を偏りなく整えるには、十分な栄養が必要だからだ。そのために増やしたい食べ物と減らしたい食べ物がある。

増やしたいのは、ビタミンミネラル食物繊維といった現代人に足りない栄養を含むもの。玄米や全粒粉小麦などの未精製穀類、豆類、野菜、果物、海藻、きのこなどだ。野菜や果物は旬のものを選ぶと、気・血・津液が充実しやすい。

減らしたいのは、こうした必須の栄養に乏しく、摂りすぎている脂質糖質塩分が多すぎる食事。加工食品、インスタント食品、ファストフードなどだ。精製しすぎた白砂糖や精製塩、人工甘味料、食品添加物も、証のバランスを乱す。

証を整えるために増やしたい・減らしたい食べ物
外食の回数を極力減らして、その分だけ新鮮な旬の食材を揃えて自炊する機会を増やす努力をすると、栄養バランスは自然に整いやすくなる。

取材・文/井上健二 取材協力/幸井俊高(薬石花房 幸福薬局代表)

初出『Tarzan』No.797・2020年10月8日発売

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