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頑張っても効果を実感できない!?「筋トレロス」の対策をエビデンスに学ぶ

コロナ禍で活動を制限した結果運動不足になった人もいれば、逆に運動する時間的余裕が増えたという人も多いはず。前者は放っておくと筋肉量ダウンにつながるのは一目瞭然だが、後者も度が過ぎると「筋トレロス」の状態に陥ってしまうという。筋トレロスとは一体何か? 9月下旬に行われた最新の発表会をレポートする。

取材・文/黒田創 撮影/北尾渉

編集部が訪れたのは《森永製菓》が主宰する発表会で、講演テーマは「コロナ禍における筋肉ダウンと筋トレロスについて」。『ターザン』読者であればご存知かもしれないが、同社は大学機関などと協同で栄養とトレーニングについて研究や、トップアスリートへのサポートなども行っている。その研究の中で明らかになったのが、「筋トレロス」という不穏なワードの実態である。

「運動不足解消」が逆効果になる。

最初にリモート出演で登壇したのは立命館大学スポーツ健康科学部の後藤教授(体育科学博士)。後藤教授はまず、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が浸透し、多くの人が身体活動量の低下座位時間の延長といった状況に陥りやすくなっている点を説明。そこから考えられる筋肉ダウンの可能性について説明した。

2018年のオランダの研究では、若年男性15名が7日間に渡って片足の筋肉を使わなかった場合、筋肉量と最大筋力に低下がみられたという。コロナ禍で運動量が減り、同様の現象が私たちの間に起こる可能性もあるのだ。

ならば、運動不足を解消しようとトレーニングをすればいいのだろうか。実際、在宅勤務が増えた結果時間的余裕ができ、筋トレに励んでいる人も多いと思われるが、自己流でトレーニングを続けることは必ずしも好結果につながらない可能性があるという。この状態は「筋トレロス」と呼ばれている。

「筋トレロス」のメカニズム。

では、筋トレロスとは一体何なのか。一般的に知られているように、筋トレ後は筋繊維が損傷して筋肉に炎症反応が起こり、そこから回復する際に筋肥大が起こりやすくなる。

しかしこのとき同時に生じるのが活性酸素。これが蓄積したり、カラダの抗酸化機能や免疫機能が低下していると酸化ストレス状態になってしまい、筋トレしても筋肉の回復は妨げられ、筋肥大しないことがあるというのだ。この「本来得られるはずの筋トレ効果を無駄にしている状態」が筋トレロスなのだ。

いくら筋トレで活性酸素が増えても、カラダの抗酸化機能が高まっていれば問題ない。しかし急激に筋トレを行って筋損傷を繰り返したり、食事で摂るべきビタミンが不足するなどして抗酸化機能が低下したり、免疫機能が低下していると、回復が遅延することで筋トレロスに陥りやすくなる。筋トレロスは無意識に起こる現象のため、気が付きにくいのが少々ややこしい点。そこで後藤教授が示してくれたのが下のチェックリストである。

「筋トレロス」のセルフチェック
  1. 毎回同じ部位の筋トレをしている
  2. 筋肉痛を感じている状態で筋トレを続けている
  3. 筋トレをするときは、毎回限界までやっている
  4. 毎日激しい運動(競技)をしている
  5. トレーニングしていても筋肉、筋力がつかない(成果が出ない)
  6. トレーニングの疲労が回復しない
  7. 筋肉痛がなかなか治らない
  8. 競技のパフォーマンスがあがらない
  9. トレーニングにより体調がすぐれない

【監修】立命館大学 スポーツ健康科学部 後藤一成教授

このうち3つ以上当てはまる項目がある人は筋トレロスの可能性が高い。また、太字の項目(2〜6)に複数チェックが入る場合は体内に酸化ストレスがかなり蓄積している恐れがあるという。

実際、森永製菓が週3回以上トレーニングを行っている600人を対象に行ったアンケートによると、上のチェックリストで3つ以上該当する人の割合は、トレーニング歴別にかかわらず5割前後になった。また、トレーニングしても筋肉、筋力がつかないと感じる割合も、チェックの数が多くなるほど高くなる。

「筋トレロス」を防ぐには?

ならば、筋トレロスに陥らないためにはどうすればいいのだろうか。後藤教授が掲げるのは「科学的根拠に基づいた正しいトレーニング」と「運動後における適切な栄養摂取」である。負荷の重量や反復回数、速度、セット間の休息時間を科学的な根拠に基づいて設定し、かつ運動後速やかにタンパク質や炭水化物といった栄養を摂取することが効果的な筋トレにつながるという。

「なにを今さら当たり前のことを」と思う読者もいるかもしれないが、上述のアンケート結果の通り、5割前後のトレーニーが酸化ストレスを蓄積している可能性があるのだ。“知っている”と“実践している”は別物と考え、改めて自身のトレーニングを振り返ってみてほしい。その重要性を示す2つのエビデンスを紹介しよう。

1. 過度なトレーニングでは効果が得られない。

1つ目は2000年にスペインで行われた研究結果である。室内用のフィットネスバイクを使用して、「休息日なしで14日間連続でトレーニングを実施した群(Short program group=SP群)」と「2日おきに6週間かけて14日のトレーニングを実施した群(Long program group=LP群)」に分けたところ、その後の全力ペダリングテストで差が見られたのだ。

2000年にスペインで行われたオーバートレーニングに関する研究のテスト結果
Parra et al. Acta Physiol Scand, 2000 より作図

SP群ではトレーニング効果(最大パワー及び平均パワーの向上)が確認できず、このことから疲れた状態でトレーニングを行っても思ったように成果につながらないことが推測できる。

2. 栄養摂取は“運動直後”が効率的。

続いては2001年にデンマークで行われた研究結果。平均年齢74歳の高齢者集団が週3回、12週間筋トレを行い、タンパク質10g、炭水化物7g、脂肪3g入りの補助食品を運動終了直後に摂取する群(直後群)と終了2時間後に摂取する群(2時間後群)に分けて調査したところ、直後群の方が最大筋力、筋断面積ともに増加率が高まったという。特に高齢者では運動直後における栄養摂取が重要でなのである。

2001年にデンマークで行われた、運動終了後の栄養摂取タイミングによる差の研究結果
Esmarck et al. J Physiol. 2001 より作図

効果を高める鍵は「抗酸化物質」。

後藤教授の研究では、筋トレの後にプロテイン(タンパク質)に加え、抗酸化物質を同時に摂取することで、インスリンの分泌量が増加することが分かった。インスリンは血液中のブドウ糖を細胞の中に取り込む作用を持つホルモンで、血中のアミノ酸を筋肉の中に取り込むときのサポート役としても大事な役割を果たしている。

筋トレ効果を高める抗酸化物質とはどんなものなのか。続けて登壇した森永製菓研究所・健康科学研究センター栄養機能研究グループの山本貴之氏(農学博士)は、多くの食べ物の中に存在するいくつもの抗酸化成分の中で、蕎麦やアスパラなどに含まれるポリフェノールの一種「ルチン」に着目したという。

森永製菓研究所・健康科学研究センター栄養機能研究グループの山本貴之さん
森永製菓研究所・健康科学研究センター栄養機能研究グループの山本貴之さん

そのルチンをカラダの中にしっかり取り込めるよう酵素処理したのが「Eルチン」という成分。動物実験での数値によると、Eルチンは酵素処理していない一般的なルチンと比べて体内での利用率が45倍あり、それだけカラダに吸収されやすい。

Eルチンに関する研究データ。

プロテインとEルチンを一緒に摂取することの効果のほどを調べた研究結果がある。

筑波大学アメフト部に所属する男子大学生39名に対して4か月間、一方のグループにはプロテインのみを与え、もう一方のグループにはプロテインとEルチンを与えて経過を測定したところ、前者の下肢筋肉増加量が平均255gだったのに対し、後者の下肢筋肉増加量は平均930gと大きな差が出たというのだ。また、健康な成人男性10名を対象に同様の実験を行ったところ、プロテインとEルチンを摂取した群の方が血中のアミノ酸濃度、BCAA濃度ともに高値を示したという。

このことからわかるのは、アスリートでも積極的に運動をしない層でも、プロテインとEルチンを摂取することでタンパク質の吸収が高まり、筋トレ時の筋合成に効果的に働く可能性が高まるということ。山本さんたちの研究グループは、Eルチンがアミノ酸の代わりに活性酸素を除去し、アミノ酸が筋修復・筋合成に効果的に使われていると考えている。

現段階ではEルチンを配合している製品は決して多くはないが、トレーニングをしているならば、今後の注目成分として覚えておきたい。