3密を回避して痩せる! はじめての自転車通勤2020

毎日、混雑した電車で職場に通うより自転車通勤のほうが体脂肪も燃えるし、仕事の能率だって上がるかもしれない。

取材・文/坂田滋久 取材協力/鏑木裕(RX BIKE) イラストレーション/中村知史

初出『Tarzan』No.795・2020年9月10日発売

秋から冬にかけて、自転車ライフのベストシーズンがやってくる。

緊急事態宣言が出て、10万円の給付金が手に入ると聞いたとき、仕事熱心で健康意識の強い人々の頭に浮かんだのは「自転車を買って通勤しよう」というアイデアだった。コロナで「自転車ライフ」見直しの機運が高まった。満員電車で通勤するより、自転車のほうが「3密」を回避して体脂肪を燃やせる。

まさに一石二鳥とはこのことだ。ステイホームしながら実行の機会を待った。緊急事態宣言が解除されたら梅雨が来た。今年の梅雨は長く、やっと明けたら猛暑の日々。コロナの感染者数がうなぎのぼりなのをニュースで見ながら、一方で熱中症も心配なので、とても自転車どころじゃなかった夏。

「それでも、店に自転車を見に来るお客さんや購入するお客さん、放置していた自転車の整備を依頼されるお客さんが途切れませんでした」

と振り返るのは、東京の目黒通りで4月に営業を開始した自転車店、〈RX BIKE〉でチーフメカニックを務める鏑木裕さんだ。残暑が過ぎ、秋から冬にかけて自転車ライフのベストシーズンがやってくる。ある程度、長い距離を通勤しても汗びっしょりになることがないし、雨に降られることも少ない。

そろそろ、満を持して自転車通勤を開始するタイミングだ。

自宅から職場までの通勤コースの決め方は?

すでに計画を練ってある用意周到な方は、通勤コースが頭の中の地図に入っているかもしれない。どうぞその道を実際に走ってほしい。自転車はあるけれど通勤コースの検討はこれからだという方は、よっぽど土地勘に強い自信があるのでないかぎり地図を用意しよう。

その地図で職場の位置を確認し、縮尺を参考に家から直線距離でどれくらいか見当をつける。5km、10kmぐらい楽勝で通えるし、15km、20kmぐらい自転車通勤する人は普通にいる。体力と道路状況にもよるけれど、30kmを超えると自転車で毎日のように往復するのは若干、ハードルが高いかも。

息が上がらない程度の、体脂肪の燃焼に適したペースで走行するなら時速はおよそ20km前後だろう。片道20kmとして1時間前後。それ以上になると、たぶん毎日は大変。

通勤コースの作り方。

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自転車通勤は直線距離で20km程度まで

例えばもしマガジンハウス(=『ターザン』編集部)に通勤するなら…。コンパスの針を職場に刺し自宅が何km圏内に入るか調べよう。縮尺を参考に円を描く。体力と道路状況にもよるが、10km以内なら楽勝だし20km程度までは自転車通勤する人も珍しくない。

自転車通勤のコース取り

通えそうだなと思ったら、自宅から職場まで地図上の最短距離に線を引く。続いて実際の道路状況に即し、主に幹線道路をつないでコース取り。その道で通勤しつつ、徐々に脇道なども検討して、ベストな通勤コースを探そう。

時速20kmで1時間ぐらい走ると概算で420キロカロリー消費することになる。これは8枚切り食パンだと約3枚分、ごはん茶碗に大盛り1杯ぐらい、生ビール中ジョッキ約3杯分に相当することになる。これで満員電車の「3密」を避けられたらダイエットの大正解ではないか。

とりあえず、家にあるママチャリでも5kmぐらいまでは何とか通えるかもしれない。小径車は意外と長く走れるし、コンパクトで置き場所が確保しやすいのはメリットだ。職場に駐輪場があるのは恵まれたケースで、普通は近くに駐輪場を見つける必要が出てくる。上等な自転車ほど路上駐輪は盗難が心配だ。最寄り駅、または商業施設などで契約可能な駐輪場を探そう。

いざ通うなら、どんな自転車に乗るのがベスト?

これから自転車を購入する場合、最もおすすめなのはクロスバイクだ。予算も10万円以内に収まる。

「通勤だけに目的を絞れば、肌感覚で7割から8割の方がクロスバイクを選ぶと思います。週末にサイクリングロードなどを50km以上走るような方だと、クロスバイクよりロードバイクを選ぶ方の比率が増えます。

ロードバイクは趣味の領域ですから何十万円もかける方が少なくない。マウンテンバイクに乗っていた方が通勤に転用するときは、タイヤを街乗りに適したスリックタイヤに替えることをおすすめします」(鏑木裕さん)

6つのタイプ別に通勤を検討してみた。

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① ママチャリ:職場が近所ならこれでOK。5kmを超えるとキツイかも。

ママチャリ

スーツでもカジュアルでも、パンツの裾がチェーンに絡まない(裾を留めなくていい)のはメリット。荷物かごも、泥除けも標準装備。近所なら問題ないが、走行距離が延びると必ずや太腿が「もうムリ」と訴えるだろう。これで通勤できる距離かどうか、試してみるのも悪くない。その際はサドルを上げてガニ股にならないようにすると疲れにくい。

② 小径車:都会で置き場所に困らない。20kmぐらいは楽しく走れる。

小径車

折り畳みできるタイプも含めて小径車が都会で人気なのは、家の中や職場の隅に置ける手軽さも理由の一つだろう。愛用者に聞くと時速20kmぐらいは楽に出るし、1~2時間は楽しく走れる。だから、片道20km程度の通勤コースを1時間ほどで通うことは、小径車でも十分に可能だ。途中で雨が降ってきてもタクシーのトランクに積んで運んだりできる。

③ ロードバイク:軽い!速い!その代わり、通勤の際は油断しないこと。

ロードバイク

ドロップハンドルのロードバイクは街路を走るのに最強の自転車だ。軽いし速い。ハンドル幅もタイヤ幅も狭く乗りこなすのに技術がいる…つまり気を抜くと危ないので中上級者向き。ディスクブレーキの普及により、タイヤ幅を広くして安定させることが可能になったのは最近のトピック。高価になりがちなので、盗難にも注意が必要だ。

④ マウンテンバイク:少し重い!山道用だがサスペンションが心地いい。

マウンテンバイク

オフロード用のブロックタイヤは摩擦抵抗が大きく街路を走るとゴロゴロいって重い。家にあるマウンテンバイクを通勤に転用しようと思ったら、タイヤをスリックタイヤに替える(前後輪で予算1万~2万円程度)だけで長い距離を快適に走れる。サスペンションのおかげで段差にも強い。山道に対応したギアをうまく使うと上り坂だって快適だ。

⑤ クロスバイク:趣味性より実用に徹した、通勤利用に最適なバイク。

クロスバイク

登場した頃は「ロードバイクとマウンテンバイクのいいとこ取りをしたリーズナブルな自転車」などと紹介されたが、それから十ウン年で街乗り自転車の代表選手に成長した。ロードバイクほど速くないしマウンテンバイクのようには野山を走れないが、目的を通勤に絞ればクロスバイクが「正解」だろう。価格も10万円以内に収めることができる。

⑥ e-バイク:数年後には自転車の主流? 電動アシストで上り楽々。

e-バイク

スポーツタイプの自転車に長時間駆動のバッテリーが付いたe-バイクが最近、人気急上昇中。クロスバイクやマウンテンバイクの形状をしたe-バイクなら坂の多い道でも心拍数を上げすぎず、平地同様に効率のいい体脂肪燃焼が図れる。今のところ価格は20万円以上を覚悟のこと。これからe-バイクがポピュラーになれば、もっと値段が下がるかも。

最近は、e-バイクを購入する人が目に見えて増えている。

「いわゆるママチャリ型の電動アシスト自転車はかなり普及しましたが、最近はスポーツタイプのe-バイクの性能が向上して、かなり使い勝手がよくなっています。実際に売れてますね。まだ価格は20万円以上しますが、今後は自転車の主流になるのではないでしょうか。スポーツとして自転車に向き合う人はアシストのないロードやマウンテン、それ以外の一般の方はアシスト付きのクロスバイクといった使い分けになるかもしれません。そうなればe-バイクも手頃になるでしょう」

電動アシストの有無にかかわらず、スポーツタイプの自転車には泥除けも荷台も付いていない。

「雨の日の通勤を考えると、泥除けは追加したほうが便利です。仕事着が汚れない。軽装で通勤して職場で着替える方もいますけどね。あとはオプションで荷台を付けるとバッグを固定できて移動が楽です。まあ、バックパックが手っ取り早いということで荷台不要とおっしゃる方も、実際かなり多いですね」

安全のために用意するべき最小限の装備は?

路上で観察するとジャケット姿でクロスバイクに乗っている方が多いようだが、残念ながらヘルメットを着けていない人もチラホラ。

「ヘルメットは絶対にかぶることをおすすめします。命に関わりますから。他に安全のためのアドバイスとしては、オートバイのように昼でもライトを点灯しようという働きかけが広まりつつあります。サングラスもファッションというより安全面でも有効なアイテムです」

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義務化はされてないけど、ヘルメットは必ず使おう!
ヘルメット

技術も体力もある自転車乗りでさえ時にアクシデントに遭う。自分に非がないことを主張できるのは無事だった場合だけ。「義務じゃないからヘルメットしない」なんて言わず自分の身は自分で守ろう。自転車店で相談すると、軽くて、蒸れない、快適なヘルメットが選べる。ヘルメットは自転車通勤の必需品だ。

異物が目に入らないように、スポーツサングラスを装着。
サングラス

もちろん紫外線対策の意味もあるが自転車で走行していると目に虫が入ることもあるし、どこから飛んでくるのかゴミなどが入ることも多い。それらを避けるには軽くて視界が広いスポーツサングラスが最適。光の強さでレンズの色が変わる調光仕様だと昼夜兼用できるので便利。最近は度付きも手に入りやすくなった。

秋から冬にかけてコロナの状況がどうなっているか。それ次第だが、人通りのあるエリアではマスク着用が望ましいだろう。

自転車レーンがあればそこを走り、なければ車道を走るのが基本。でも実際に自転車通勤してみると戸惑うような場所がよくある。

「自転車レーンが急に途絶えたり、どっちへ進めばいいか疑問な場所があったりしますから、臨機応変に自分の安全は自分で守るべきです」

それも自転車ライフの正解。

自転車通勤する人たちは、どんな保険に入っている?

たとえば東京都の場合、国の要請に応じて自転車保険の加入が条例で義務化されている。全国各地の自治体で対応に差はあるが、義務化されていない地域でも、事故を起こした際の補償や賠償のことを考えると自転車保険には加入したほうがいい。

クレジットカード、自動車保険、損害保険に付帯している場合も多いので、まず現状を把握しよう。個人賠償、損害補償、ロードサービスの有無を確かめ、不十分ならコンビニエンスストアでも自転車保険に加入できる。

【個人賠償】

自転車で事故を起こし、相手に怪我を負わせたり死亡させた場合の賠償額は時に数千万円に及ぶ。これにどれだけ対応できるか要チェック。

【損害補償】

自転車で事故を起こし、自分が怪我をした場合の入院時の費用や、通院時の費用はどこまでカバーされるのか。これも正しく知っておきたい。

【ロードサービス】

自転車で事故を起こし、自転車が故障した場合のサポートの有無も要チェック。通勤経路の状況や距離を考えに入れて要・不要を判断しよう。