「たかがめまい」ではない。
長時間パソコンに向かった仕事の後に立とうとしたら、ついふらり。駅に近づき、減速中の電車内で立とうとしたら、またふらり。軽いめまいでよろけたことは、誰でも一度や二度はあるだろう。そのときだけで以後、再発がなければそれでよし。
ただし、難聴や耳鳴り、ひどい頭痛を伴ったり、吐き気、それどころか実際に嘔吐したり、物が二重に見える、手足がしびれる、ろれつが回らない、意識が薄れるなどしたら、脳血管障害の前兆としての深刻なめまいである可能性もある。放っておかず、大至急受診するべし。
糖尿病や高血圧など、生活習慣病がひそかに進行していることによって起こるめまいもある。実は「たかがめまい」ではないのだ。
働き盛りに急増「良性発作性頭位めまい症」。
めまいの中で最も多いのが良性発作性頭位めまい症(浮遊耳石症)。これはたとえばうつむいて洗髪後、顔を上げたらくらっとした、などというようにある特定の頭の位置になったときに起きるめまい。これが起きる理由は内耳の仕組みによる。
耳は音を感知するだけではなく、内耳で自分の体勢、動きなどを検知している。いわゆる平衡感覚というものだ。内耳には3方向にループを描く半規管(3つ合わせると三半規管)があって、その中を内リンパ液が満たしている。
また、耳石器の中には耳石が並んでいる。カラダが動くと内リンパ液も耳石も影響され、動きを感知できる。要は、内耳には3軸加速度センサーが内蔵されているのだ。ところが、何かの拍子に耳石が脱落して、三半規管内に迷い込むことがある。
三半規管に迷い込んだ耳石を浮遊耳石と呼ぶが、これがあると内リンパ液の流動に干渉することがある。すると、目から入ってくる視覚情報と調和しない、誤ったシグナルを平衡感覚から受け取ることになる。
二方向からつじつまの合わない情報が流れ込み、脳は混乱する。これが良性発作性頭位めまい症であり、いま高齢者ではなく働き盛りの世代に急増しているという。
ストレスが耳を追い詰め、有酸素運動が耳を救う。
耳石が脱落する理由は頭部外傷や耳疾患によるとされるが、明らかな原因がないことも多く、患者の声を聞くと不活発な生活が背後に見える。広くは生活習慣病かもしれない。
その名の通り良性だから、放っておいてもいずれ耳石は新陳代謝のサイクルで吸収され、気にならなくなることもあるが、耳石の量が多く、なかなか軽快しない人は耳鼻科を受診しよう。
原因が浮遊耳石だと診断がつけば、理学療法で耳石を耳石器に戻す処置を受けることになる(下図参照)。ちなみに、耳石は小さすぎるので、手術で取り除くことはできない。
当然ながら生活の見直しも十分に意味がある。それをすることによって頭の位置を変えるという意味では、運動の習慣化は大いに推奨できる。
治療法の選択肢は、増えている。
めまいにはこのほか、急に立ったことで起きる起立性低血圧症によるものや、学童などが長時間の起立で起立性調節障害に陥ることによるものなどがある。どちらも先に述べたような重大疾患のシグナルを伴わなければ、心配する必要は少ない。
良性発作性頭位めまい症の次に多いのはメニエール病によるもの。この病気はめまいや耳鳴りを繰り返す不快きわまる難病。人口10万人当たり約16人と意外に患者数は多く、30代後半から40代前半の女性に多発しているという。
あくまでも一説だが、ストレスなどにより脳下垂体が分泌する抗利尿ホルモン、バソプレッシンの影響で、内耳の内リンパ液の代謝に変調をきたし、内耳に水腫(むくみ)を生じることが原因ともみなされている。
重症の患者には手術で余分な内リンパ液の排出路を設けることもあるが、多くの場合、薬物療法と生活の改善で軽快が期待できる。
また、薬物療法以外にも水分摂取療法や中耳加圧療法など、いまでは治療法の選択肢が増えつつある。完治が難しい場合でも、十分に生活の質を取り戻すことは期待できるのだ。あきらめるのは、まだ早い。