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昨年11月、UAEドバイで開催されたパラ陸上の世界選手権で、最新鋭の陸上競技用車いす(通称:レーサー)がデビューした。このレーサーを使用した日本の伊藤智也は、出場したT52・400mで銀、100mと1,500mでそれぞれ銅メダルを獲得したのだ。
伊藤は34歳の時、多発性硬化症という難病にかかり、車いす生活となった。
その後、車いすでの陸上競技をスタートさせ、2004年のアテネ大会からパラリンピックに出場。08年北京では2個の金、12年ロンドン大会では3個の銀メダルを獲得し、その後、競技を引退している。
モノコックレーサー誕生の裏にあるのは、伊藤の現役復帰だ。開発したRDS社は、もともとレーシングカーや松葉杖など、さまざまなドライカーボン製品を手がける工房。企画からデザイン、製作まで全工程を自社で行う。
16年にRDSのスタッフが伊藤に出会い、伊藤の心の底にたぎる戦意に惚れ込んで「レーサーを一から作るから、現役に復帰しませんか」と声をかけたことに端を発する。
提案を受けた伊藤は、古いレーサーを引っ張り出してカラダを押し込み、ダイエットから着手。走り込んで半年後、ようやく現役時代の感覚を取り戻して、最新レーサープロジェクトの選手として復帰する決意を固めた。
RDSでは伊藤の全身にセンサーを取り付け、計測と調整を重ねた。世界選手権の1か月前にフルカーボンのモノコックレーサーが完成。伊藤は、真新しいレーサーを駆って、前述の好成績をマークしたのだった。
フルカーボンモノコックレーサーの特徴は、超軽量と高剛性。車体各部の無駄な変形による駆動ロスを抑制し、トラックでの爆発的な加速を実現する。
「マシンは最高なのだから、僕はエンジンに徹するだけ」
復帰を決めてから伊藤は、”エンジン”たる自分の出力を、走り込みで高めてきた。
世界選手権銀メダルを獲得した400mのタイムは1分00秒06。
「強風の中でのこのタイム。北京の頃の自分を超えている」
伊藤は語る。まさに、F1のようなレーサープロジェクト。伊藤の快進撃が、その成果を物語る。
取材・文/宮崎恵理 撮影/吉村もと
初出『Tarzan』No.788・2020年5月28日発売