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ウイルスは人の距離を遠ざけるのか?|米国スポーツ見聞録 vol.19

二人で行うトレーニングを紹介するIMGアカデミー・テニス部門の佐藤悠史ヘッドコーチ。

錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。2019年末までアジアトップを務めた田丸尚稔氏が語る、コロナ禍のトレーニング事情。

とんでもない状況になってしまった。

この原稿を書いている時点で、オフィスに行かなくなってひと月半が過ぎた。数か月前の予定では、今頃はアメリカと欧州に渡り、リサーチをしていたはずなのだが、住む街どころか自宅すら出るのもままならない事態にまでなるとは正直想像ができていなかった。

オリンピック・パラリンピックは1年延期され(果たして1年が十分な期間なのか、という議論も出始めているけれど)、スポーツのイベントは大小問わず、無観客での開催どころかほとんどが中止延期になった。

学校の運動部活動や地域クラブも休止、スポーツジムも早々に閉鎖が相次いだ。この『ターザン』誌だって、取材が思うように成立しない状態が続けば、コンテンツの作り方も変わらざるを得ないだろうと思う。

もちろんスポーツに限ったことではないけれど、“カラダ”と何かしら関係せざるを得ない者の定めとして、スポーツにまつわるあらゆる事柄はコロナ禍によって、良きにせよ悪しきにせよ、大きな変革を余儀なくされている。

動画配信とアプリの活用。

そんななか、トップアスリートやスポーツの指導者を中心に、主にはSNSを利用したトレーニング動画等の投稿が広がっていったのは、とてもポジティブな反応だったと思う。

シンプルにその動画を観て学んだり、楽しんだりするという一方通行でなく、アスリートたちがリレー形式でチャレンジ動画を続けてアップしたり、観たユーザーが各々実際に挑戦した動画を返答したり、そこには幸せな連帯があった。

米国フロリダ州を拠点とするスポーツ教育機関、IMGアカデミーも、現在はプログラムを中止しているのだが、テニス部門でヘッドコーチを務める佐藤悠史コーチや、エリートクラスを担当する弘岡竜治コーチは、英語と日本語で、自宅や狭いスペースでもできるトレーニングを公式のSNSで上げていた。それに対し「やってみた!」と動画で返答するやりとりは、1万km以上も離れたフロリダと日本を確実につないでいた。

IMGアカデミーで、もう一つ見られる特徴が『CoachNow』(コーチ・ナウ)というアプリケーションの使用だ。

これは、なにも最近使い始めたわけではなく、2年前からプログラムに導入している。簡単に言うと、スポーツのコーチングのために、動画やコメントを共有するアプリで、スケジュールのお知らせからトレーニングの復習など、サブ的に使用していた。

しかし、昨今の事情で実際のプログラムが停止してしまった状況となり、アプリの充実は否が応でも必須となった。

スポーツのトレーニング映像はもちろんのこと、フィジカルやメンタルコンディショニング栄養学リーダーシップなどさまざまなコーチング動画やテキストがコンテンツとして揃いつつある。

きっと、これらは一時的な補塡に留まらず、将来的にはアカデミーの生徒以外にもオンライン上で販売できるパッケージになり得るだろうという、ある種のビジネス的なたくましさのようなものも感じている。

コロナ禍という、いまだ収束がまったく見通せない状況の中で、スポーツに取り組めない人々のために善意でコンテンツを届けるだけでなく、そうしなければスポーツの世界で先々“食えないかもしれない”という危機感、あるいは現実の世界で生き抜くという“実践的な”たくましさのようなものが、何かを本当に変革するには必要なのだろう。

SocialからPhysicalへ。

今後はアプリもそうだし、たとえばVRのようなテクノロジーがスポーツの観戦やトレーニングの世界でどんどん実装されることになる。

今回の災いは、幸か不幸かそれを加速させるのは間違いない。ただ、いま一度考えなければならないのは、たとえば映像があるとして、それをいかにリアルにしていくか、という技術的なことだけではない。

トレーニングのコンテンツがあったとして、映像のクオリティがどれだけ高くても、受け手が実践しなければ意味がない。佐藤コーチの映像に対して、チャレンジした人が返答をした、その「間」にあるコミュニケーション人を動かす「愛」のようなもの。それがスムーズに交わされることを見据えた、たとえばコーチと生徒はもちろん、生徒同士も連帯するコミュニティ機能等も踏まえたテクノロジーの進化が重要だと思うのだ。

Social Distancingという言葉が、コロナ禍を機に広まった。伝染性の病を予防するために、社会的な距離を取ることが有効な手段というわけだが、最近はPhysical Distancingという言葉の方を選ぶことが多くなっていると思う。

かつてであれば、他人と物理的に離れることは、そのまま社会的にも距離を置くことになった。確かに現在もイベントや社交の場は限られてしまったが、テクノロジーが進化した今、コミュニケーションは死なず、Social Distancingという言葉はしっくりこない。

ウイルスは人々を物理的に引き離すが、社会は連帯し、人は寄り添えるのである。

田丸尚稔(たまる・なおとし)/1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学にてスポーツマネジメント修士課程を修了し、IMGアカデミーのアジア地区代表を務めた。筑波大学スポーツウエルネス学位プログラム(博士課程)在籍。

文/田丸尚稔

初出『Tarzan』No.787・2020年5月14日発売

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