• 「父の夢だった国体、僕に継がせてほしい」そして今、オリンピックへと道は続く。クレー射撃選手・大山重隆
COLUMN
2020.03.22

「父の夢だった国体、僕に継がせてほしい」そして今、オリンピックへと道は続く。クレー射撃選手・大山重隆

大山重隆

父と一緒に狩猟をやろうと銃を手にした青年は、クレー射撃の面白さにはまって夢中になった。そして今年、オリンピックへの道が見えてきた。(雑誌『ターザン』の人気連載「Here Comes Tarzan」、No.783より全文掲載)

東京オリンピック出場内定選手が語る、クレー射撃の魅力。

射手がコール(掛け声)をかけると、それに反応して15m前方にある機械が動き、クレーが射手から遠ざかるように空中に飛び出す。クレーは蛍光オレンジに輝く、皿のようなカタチをした陶器で直径は11cm。飛び出す向きは左、右、中央のどれかで、高さもランダムである。

射手はすばやくクレーに銃口を向け、引き金を引く。パァーンという乾いた発砲音が響くと、クレーは砕かれて、細かなオレンジの粒となり、バラバラと地面に落ちる。

大山重隆

クレー射撃のトラップ種目は、横一線に並んだ5つの射台(射手の撃つ場所)を移動して、クレーを撃破していく。1ラウンドで25枚のクレーを撃ち、2発以内で当てることができると得点となる。

大山重隆は昨年のアジア選手権で日本人最高位となり、この種目での東京オリンピック出場が内定した。まずは、クレー射撃の魅力について語ってもらおう。

「やっぱり、自分で所持する本物の銃と本物の弾を撃てるということでしょうか。一度、見ていただけるとわかるのですが、引き金を引いたときの衝撃音は迫力がありますよ。やっている本人としては、狙ったクレーに当たったときはヨシッて感じでうれしいし、本当に楽しいんです」

クレーは秒速30mで、空中を射手から遠ざかる。それを秒速300mの銃弾で射貫くのだが、最初に言った通り、方向、高さともにランダムだから、瞬時にクレーを追う視覚が必要だし、銃口を向ける反射神経も大切になる。

これだけでも大変なのに気象状況にも左右される。風が吹けばクレーは不規則な飛び方をするし、日差しが強かったり、あるいは暗かったりすれば見えにくくなる。

さらに「本物の銃と本物の弾」を使っているので、射手にかかる衝撃がすさまじい。発砲したときに、肩にかかる重量は最大1トンにもなる。

大山重隆

「下手をしたら骨折します。だから、衝撃をどう吸収するかが重要になる。初矢(1発目の弾)を外したときに衝撃をうまく流せないと、二の矢(2発目の弾)が安定しなくなりますから。ただ、これは撃っていくなかでわかってくるというか、できるようになる。僕も最初は、銃が跳ね上がって顔に傷がついたり、肩に痣ができたりしていましたからね。同時に大事なのが衝撃を受けてもカラダを安定させられる体幹。これは国立スポーツ科学センターに週2回通って、トレーニングで鍛えています」

大山の練習を見ていると、どうにも軽々とクレーを撃っている感じなのだが、実際は肉体を極限まで酷使する競技なのである。しかし、と大山は言う。「クレー射撃は9割がメンタルの勝負なんですよ」と。

父の夢だった国体、僕に継がせてほしい。

大山が銃を手に入れたのは21歳のときだった。ただ、そのときはクレー射撃という競技をやってみたいと思っていたわけではなかった。

「父が若いころから射撃をやっていて、結婚を機に選手としての現役を退いたのですが、狩猟をしていたんです。それで、一緒にやらないかって言われて、始めることにしたんです。地元は埼玉ですが、栃木県でヤマドリを狙ったり、北海道ではエゾシカを撃ったり。これは競技と並行して今もときどきやっていますよ」

大山重隆

自分の銃が持てたからといって、一足飛びにハンティングはできない。銃を安全に扱う方法を学ばなければいけないし、そもそも引き金を引くという体験も必要だ。そのために大山はクレーの射撃場へまず行くこととなった。そこで競技と出合う。

「やってみたら、なんか面白いんですね。それで、射撃場に通うようになって、ちょっと大会に出てみないなんて誘われるようにもなって。狩猟のシーズンは冬ですから、夏場はクレーをやるようになったんです」

そして、競技にのめり込むようになったのには、もうひとつ理由があった。それが当時のコーチ、小林庸一さんの存在だった。小林さんは埼玉で浦和銃砲火薬店を営んでいる。

「(クレーが)出たらすぐ(引き金を)引け、って言うんです。これは普通じゃない。普通は、クレーが出たらその飛んでいくラインを目で追いかけていって引け、となる。ただ、ラインを追うと、引き金を引くタイミングがつかみにくくなると思うんです。クレーも遠ざかっていきますし。だから、パッと反応して、すぐに引き金を引くことが重要なんです。どうしてあんな指導をしてくれたのかあのときはわからなかったのですが、思い切り引くということを最初に教えてもらっていなかったら、今の自分はないと思っているんです」

それにしても、この競技のネックとなるのが競技を続けていくための費用である。まず銃と銃弾が必要。銃弾は消耗品だ。それを保管する丈夫なロッカーも自宅に設置しなくてはならない。そして、警察に行って諸々の手続きをすれば、収入印紙その他で経費がかかる。

さらに、練習のたびに射撃場を使用する。この場所は人の少ない、安全な郊外にあることが多い。使用料の他に、車で行けば高速代やガソリン代がいる。

大山重隆
大山重隆(おおやま・しげたか)/1981年生まれ。165cm、64kg。21歳のときに狩猟が目的でライセンスを取得。クレー射撃に出合う。2009年、新潟で行われた国体で初優勝。13年、16年、18年には全日本選手権で優勝を果たす。19年、茨城県で開催された国体で優勝。同年、アジア選手権で日本人最高位となり、東京オリンピックの代表に内定した。

「始めたときは大学生だったのですが、さすがに自分一人ではどうにもならない。そこで父に相談したんです。父は国体に出場するのが夢で、それを叶えることができなかった。その夢を継がせてくれないかなって。だから、僕が国体に出て優勝したときには、応援に駆けつけてくれた。目がうるっとしてたんですが、照れくさいのか、“帰るから”ってすぐいなくなっちゃった。僕もうれしくて泣いてしまったのですが、ひとつ恩返しができたと思いましたね」

そして、大山は「今でも給料はすべて競技に使う。結婚できないから、彼女に悪いと思っています」と、苦い顔。しかし、このひたむきさが、3度の全日本選手権優勝の糧となったのだろうし、バルセロナ・オリンピック以来の男子クレー射撃日本代表の内定に繫がっているのである。

当たるでしょと思えば、平然と引き金を引ける。

昨年、アラブ首長国連邦で行われたワールドカップの予選で、大山は忘れられない経験をした。予選を通過して決勝に上がれるのは6人。そして、4位タイには7人が並んだ。その中に大山が入ったのだ。

ワールドカップでここまで上位に食い込んだことはなかった。ルールでは、この7人でサドンデスを行い、上位2人が決勝に進めることになる。

「サドンデスも初めてで、選手は2発ではなく1発だけ撃って、クレーに当てていく。当たらなかったら、即抜けです。7人中、僕が最後の射手で、見てるとみんなバンバン当てていくんです。“こりゃ、1枚目から外したらマズイぞ”って感じで、どうにか1回目はクリアしたんですが、2回目に外してしまった。サドンデスでは、クレーはランダムでなく、左右、正面、どこに出るかはあらかじめわかっているんです。わかっているクレーに当てていく。これが、簡単なようで、実は難しいんですね」

これこそが、大山の言うところの9割がメンタルという理由なのであろう。射撃場での練習で、出方がわかっているクレーならば、百発百中とまではいかないかもしれないが、かなりの率で当てることができるはずだ。

ところが、ワールドカップの決勝がかかっていると、2回目で外してしまう。世界のトップレベルの選手は、技術的にはほとんど横並びだという。ココロの揺れこそが勝敗を左右するのだ。

大山重隆

「自分で自分を追い込んでしまうというのが、ひとつのメンタルの弱さだとは思います。普通なら当たるのに、当てなきゃいけないと思ってしまうと、それは外すことが前提で引き金を引くことになる。逆に、当たるでしょ、と思えれば、平然とできるんです。でも、ココロの中っていろいろとあるじゃないですか。だから、はっきりとした答えはない。ただ、ルーティンは大切だと思うんです。練習のときも本番のときも、ずっと同じことを繰り返す。それだけでも、メンタルは安定する方向に向かっていくと考えているんです」

大山は海外でも国内でも、試合のときに行うルーティンは決まっているという。まず、出発の3時間前に起きて、焦らずゆっくりと過ごす。そして、競技スタートの1時間30分前に会場入り。銃を組み立てるなどきっちり時間を決めて、必要なことを行っていく。

競技中は、一度正面を向いて、右足から射台に入り、スタンスを決める。一度、銃口を斜めに上げて、銃床を肩に当てる。そして、銃口を下げて構えるのだ。

この繰り返しと、これまでの経験(去年のワールドカップのような)によって、大山はメンタルを鍛えてきた。そして、4か月後にはひとつの回答が出るのである。オリンピックだ。

「ロンドン・オリンピックから出場を目指してきたので、やっと出られるかもというところまで来ましたね。実はロンドンは見に行っているんです。あの光景は痺れるどころじゃないですね。本当に“何だこれは!”っていう感じ。みんな国を背負っているように見えたし、観客席と射台の間は近いのですが、その間の溝が自分にはとてつもなく深く感じた。射台のほうの世界に行きたいと強く思いましたね。自分の中ではオリンピックまでのプランができているので、それを淡々とやるだけだと思っています。オリンピックでの目標は、まず決勝の6人に残ることですね。そして、決勝まで進んだらメダルを獲りたい。今はやり抜いて、結果を残したいと思うばかりです」

とてつもなく深い溝の向こう側の景色を見る日はもう間もなくだ。

取材・文/鈴木一朗 撮影/下屋敷和文 取材協力/ニッコー栃木総合射撃場

初出『Tarzan』No.783・2020年3月12日

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