運動すると食欲は抑えられる、という研究結果

取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/村田真弓 取材協力・監修/森谷敏夫(京都大学名誉教授) トレーニング監修・指導/齊藤邦秀(ウェルネススポーツ)

初出『Tarzan』No.776・2019年11月7日発売

運動すると食欲は抑えられる。

週末の夕方、ちょっと小腹が空いたタイミングでジョギングに出かけ、帰ってきたらアラ不思議。食欲がきれいさっぱりどこかへ消えちゃった。

そんな経験はないだろうか。でも、考えてみたら辻褄が合わない。運動でエネルギー消費したわけだから、カラダは欠損分を食事で補おうとするのでは? 運動医科学の専門家、森谷敏夫さんに疑問をぶつけると、「食欲は何もしていないときの方が強く感じます」という。

「ラットの実験で適度に運動させたグループよりもまったく運動をしないグループの方がエネルギー摂取量が多く、体重も重いという報告があります。運動をすると、むしろ食欲は抑えられるのです」との答え。

食欲の中枢は脳の視床下部にある。脂肪細胞や消化器から分泌されるホルモンなどの情報が中枢に届けられることで、食欲が増減することが分かっている。

原因は「ホルモン」。

たとえば、脂肪細胞由来のレプチン、腸管由来のPYYやGLP-1というホルモンが視床下部の満腹中枢に働きかければ食欲は低下する。胃から分泌されるグレリンが摂食中枢に働きかければ食欲が増すという具合だ。

「こんな報告もあります。被験者に有酸素運動レベルと高強度レベルの運動を1時間行ってもらった後、ブッフェスタイルの食事で好きなものを食べさせる。すると、運動前に比べて食欲増進ホルモンのグレリンが一時的に減り、PYYやGLP-1といった食欲抑制ホルモンが増えて、食事によるエネルギー摂取量が減ったというものです」

ジョギングに出かけて戻ってきたとき、カラダの中でこうしたホルモンの増減が起こっていたわけだ。

運動で食欲抑制ホルモンが増える?
運動で食欲抑制ホルモンが増える?/若年成人男性の肥満者と非肥満者に運動を実施させた実験で、腸管から分泌される食欲抑制ホルモン、GLP-1の量が安静時に比べて増加した。
Takahito Yoshikawa, Saho Yamamoto, Shigehiro Tanaka 2011

自律神経の働きも。

また、運動による自律神経の働きも食欲コントロールに関わっている可能性が高い、と森谷さん。

「交感神経の中枢は脳の視床下部、満腹中枢の近くにあります。脂肪細胞から分泌されたレプチンが満腹中枢を刺激すると同時に交感神経を活性化します。その両方の作用で食欲が低下すると考えられます」

実験では有酸素運動レベルと高強度レベル、2つの運動で食欲低下が見られたが、どちらがより有効かというと、最新の説では高強度運動に軍配が上がっているという。

「高強度のインターバルトレーニングを行うと食欲がよりコントロールできると言われています。最大酸素摂取量の90%の運動を1分程度行い、その後に軽い負荷の運動を組み合わせる。これを5セット程度行うと食欲の抑制に繫がります。高強度運動の方が交感神経への刺激が強く、食欲抑制ホルモンの分泌が多くなる可能性があります」

お腹を揺らせば食欲減退。

さらに、腹部の筋肉に電気的な刺激を与えて行う運動でも食欲抑制効果が見られるという話。

「メカニズムはまだ分かっていませんが、腸管を揺さぶるような刺激を入れた方が食欲抑制効果が高まるイメージはあります」

なーるほど。お腹を揺らしながらの高強度インターバル。1時間のジョギングをするより、こちらの方が手っ取り早そう。1分という短時間なら乳酸が溜まってシンドイと感じる前に終えることができる。で、運動後、ホルモンの変動のピークを迎える30〜45分後に食事をすれば少量の食事で満足できる。食いしん坊のみなさん、論より証拠、即実践!

2つの運動強度とエネルギー摂取量の変化を比べてみると
2つの運動強度とエネルギー摂取量の変化を比べてみると。/左は高強度運動時、右は有酸素レベルの運動時のGLP-1の増加量とエネルギー摂取の減少量。こちらの方が横軸のGLP-1の量が同じときのエネルギー摂取量が少ない。交感神経がより刺激され、満腹中枢が影響を受ける可能性も。
Takahito Yoshikawa, Saho Yamamoto, Shigehiro Tanaka 2011
PROFILE
森谷敏夫(もりたに・としお)
森谷敏夫(もりたに・としお)/京都大学名誉教授。京都産業大学、中京大学客員教授。専門は運動医科学、応用生理学。生活習慣病における運動の重要性を説き、巷間の誤ったダイエット法に警鐘を鳴らす。