旨味を知る人の食欲は乱れない。5つのダシを、いつもより簡単に取る方法
取材・文/井上健二 撮影/小川朋央 監修・料理・スタイリング/美才治真澄(管理栄養士)
初出『Tarzan』No.776・2019年11月7日発売
食欲が正しく働いていたら、本来はカロリー計算なんかしなくても、食べすぎたりしないはず。
乱れた食欲を正常化する重要なヒントになるのは、旨味。アミノ酸の一種であるグルタミン酸、核酸の一種であるイノシン酸やグアニル酸などがその代表である。
和食や地中海料理といった伝統食は旨味を上手に活かしている。旨味は脳に深い満足感をもたらし、適量で箸が置けるようになる。
旨味を食生活に取り入れるために、まずは出汁の取り方を学んでおきたい。うま味調味料や出汁パックでも出汁は取れるが、コストがかかるし、濃い味になりがちで食べすぎる恐れがある。かといって料理教室で教わるような本格的な出汁の取り方をするのは少々面倒。そこで忙しくても手軽に出汁が取れる方法を覚えよう。
取り上げるのは、旨味たっぷりの出汁が出る5つの食材。含まれる旨味成分に違いがあり、それらを組み合わせれば旨味はさらに数倍に跳ね上がる。基本の取り方を覚えたら、複数の出汁をミックスするダブルスープ、トリプルスープも試したい。
目次
1. 昆布:水から澄んだ出汁を取る。加熱しても沸騰させない。
昆布とカツオ節は、ユネスコ登録された和食の、ベースとなる出汁を取るのに欠かせない食材。まずは昆布からチェックしよう。その旨味成分はグルタミン酸。1908年、世界で初めて発見された旨味成分だ。
昆布は水から出汁を取るのがポイント。乾燥加工された昆布はセルロースなどの細胞壁が壊れているため、水からでもいい出汁が出る。煮立てるとアルギン酸という余分なぬめり成分が出てしまうので、加熱する際も沸騰寸前で火を止める。
出汁用の昆布(出汁昆布)の表面に見られる白い粉は、汚れではなくマンニトールという糖質の一種。昆布出汁の美味しさを作っている大切な成分なので、洗ったり拭いたりしないでそのまま使おう。
冷蔵庫と時間を味方につける。
作り方:保存容器に水と10cm角にカットした昆布を入れて冷蔵庫に一晩置く。
時間がないときは、刻んで軽く火入れ。
作り方:10cm角の昆布をキッチンばさみで細切りにする。鍋に昆布と水を入れて弱火にかけ、沸騰寸前まで加熱したら、火を止める。
2. カツオ節:個包装されたカツオ節パックを活用。
鍋にお湯を沸騰させたら火を止め、カツオ節を入れて鍋底に沈むまで1〜2分待つ。カツオ節が沈んだら、キッチンペーパーを敷いたザルで丁寧に濾す……。教科書的にはこれがカツオ出汁の取り方。旨味成分のイノシン酸をフルに引き出して、確かに澄んだ上品な出汁が取れるが、少し手間暇がかかりすぎる。
ここでは気軽にマグカップなどを使ってコーヒー感覚でドリップする方法を紹介しよう。
カツオ節も出汁用の花カツオや厚削りではなく、お好み焼きのトッピングなどに用いられるパック入りの削り節で十分。花カツオや厚削りは少々持て余すが、個包装された使い切りタイプなら、好きなときにさっと出汁が取れて重宝する。
マグカップ&レンチンで超簡単カツオ出汁。
作り方:マグカップに削り節と水を入れ、ラップをかけて電子レンジ(600W)で1分半ほど加熱。茶濾しで濾す。
コーヒーを入れる感覚で出汁をひく。
作り方:コーヒーを淹れるようにカップにドリッパーを乗せてペーパーフィルターをセット。削り節を入れる。上から熱湯を注ぎ、完全に出汁が落ちるまで待つ。
3. 煮干し:頭もはらわたも取らずに丸ごと使う。
煮干しは、カタクチイワシなどの小魚を丸ごと乾燥させたもの。イノシン酸が豊富に含まれているし、グルタミン酸だって入っている。
臭みと灰汁が出ないように、和食料理店などでは頭とはらわたを除いてから使うのが普通。でも、家庭料理ではハードルをうんと下げて、頭もはらわたも取らずに使おう。
水出しならそもそも臭みは出にくいが、加熱するよりも出汁は出にくいので、煮干しを多めに使うのがコツ。加熱すると少量でパンチのある出汁が取れるから、そのパンチに負けないように味噌汁などの味強めの調理に用いる。出汁を取った後の煮干しは立派な食材。日本人に不足しているカルシウム、鉄、亜鉛などのミネラルの貴重な補給源となる。
水出しの際は、煮干し多めで。
作り方:保存容器に水と煮干しを入れて冷蔵庫に一晩置く。
鍋で加熱すると、強めの出汁が出る。
作り方:鍋に水と煮干しを入れ、弱火にかける。煮立ったら5分ほどさらに煮立てる。
4. ポルチーニ:濃厚な出汁と香りが楽しめる天然きのこ。
旨味が多い食材の一つが、きのこ。干しシイタケが代表格だが、今回取り上げるのは、ポルチーニ。秋の味覚として、スーパーでもスライスした乾燥品をよく見かけるようになった。メインの旨味成分は、干しシイタケと同じくグアニル酸だ。
ポルチーニは古代ローマ時代からイタリア人たちに愛されてきたが、フランス語で「セップ」と呼ばれフランス料理の食材にもなっている。その特有で濃厚な香りも魅力。出汁を取った後は刻んで料理に使おう。
ポルチーニは松茸やトリュフと同じように、樹木の根に共生する菌根菌から生じるため、人工栽培は困難。したがって流通しているポルチーニはすべて森林で採取された天然モノ。安心して使える。
人肌程度のぬるま湯で戻す。
作り方:ボウルにドライポルチーニとぬるま湯を入れる。30分ほど置いたら、茶濾しなどで濾す。
レンチンで手軽に。香りは飛ばさない。
作り方:耐熱ボウルにドライポルチーニと水を入れ、電子レンジ(600W)で1分ほど加熱。香りが飛ぶので沸騰させないこと。
天然モノだけにポルチーニには細かい砂やゴミが混じっていることがある。出汁に砂やゴミなどが入らないように、戻し汁は上澄みを使ったり、茶濾しなどで濾したりして用いよう。
5. ドライトマト:旨味と栄養がダブルで味わえる。
和食よりひと足先にユネスコ登録されたのが地中海料理。その美味しさのポイントの一つはトマトだ。
野菜には何かしらの旨味が含まれているが、トマトはとくに旨味成分が多く入っている。さらに乾燥で水分を飛ばしたドライトマトは、グルタミン酸とグアニル酸がぎゅっと凝縮。強力な旨味調味料となる。
市販されているドライトマトの多くは、完熟トマトを2つ割りにしてそのまま天日で乾燥させたもの。トマトにはリコピンという抗酸化物質が含まれているが、乾燥させてもリコピンが減ることはない。煮干しやポルチーニと同じように、出汁を取った後のドライトマトも料理に加えると、リコピンをはじめとするトマトの栄養素が100%満喫できる。
キッチンばさみで切り、 ぬるま湯に浸すだけ。
作り方:ドライトマトは細切りにしてボウルに入れる。ぬるま湯を注いで30分ほど置く。
時間がないときは、 細切りにして煮る。
作り方:ドライトマトは細切りにして鍋に入れる。水を入れて火にかけ、5分以上煮立てる。