CONDITIONING
2020.01.23

なぜ「口が臭い」と、肥満しやすいのか?

口臭が気になる

「今日は歯磨きサボっちゃお」。これが太る第一歩になるんです。口内で悪玉菌が増えると、肥満どころか生活習慣病に発展することも。

歯磨きをしないと、肥満してしまう?

歯磨きをサボりがちな人のイメージとは、どんなものだろうか?

「自分のカラダや健康は自分で守っていくんだという自覚、心理学でいうところの自己効力感に乏しい人が少なくありません。逆に虫歯や歯周病になる前に定期検診に来る人は、向上心があるといえます」と分析するのは、歯周病の最前線で治療と研究に打ち込む花田信弘教授(鶴見大学歯学部探索歯学講座)だ。

歯磨きがおそろかになると、当たり前だが歯は汚れたまま。舌では食べかすや細菌の死骸、老廃物などが舌苔となり、味覚の受容器、味蕾を塞ぐ。

「味蕾が塞がると味覚が鈍くなってしまうので、濃い味、塩分の多い食事を好むようになると考えられます」

自分の健康に対してちゃんと気を遣っておらず、味が濃いものばかりを好んで食べる。それはずばり、太っている人のことではないか?

舌

さて、昨今では糖尿病の患者に歯周病が見つかると、主治医は歯科への通院を勧めることがあるという。歯周病を治療し、症状が軽くなると血糖値のコントロールがしやすくなるからだそうだ。

少し意外に思うかもしれないが、読み進んでもらえれば分かるように、実は口と肥満やメタボリックシンドロームは、今回ご紹介する「リボ多糖」という物質を媒介に、深く密接に関わっているのだ。

太っている人は口が臭くなりやすい?

人体はいたるところに常在菌が存在する。そしてそれは、口の中さえ例外ではない。腸内細菌と同様に、口腔内細菌にも善玉、悪玉(歯周病菌)、そして優勢な側に味方する日和見もいる。

その数が尋常ではない。なんと約700菌種、全10億個が這い回る。大腸に次ぐ一大宇宙だ。

さて、大食漢が食べるばかりで歯磨きをはじめとする口腔ケアを怠ると、細菌は増えるしプラーク(歯垢)も溜まる。

「歯ブラシで取り切れなかったプラークに潜む細菌が分泌する有害物質(外毒素)や、細菌自体が持つ有害物質(内毒素)は歯肉に炎症を起こします」

歯肉に起こる炎症が歯肉炎。こうなると悪玉菌の活動で口は腐敗臭が漂い、周囲にも漏れ出す。歯肉炎が進行すると、歯肉溝は次第に深い歯周ポケットとなり、深さが4mmに達したら、歯周病と診断される。

「悪玉菌は酸素を嫌う(嫌気性)ため、酸素の届かない歯周ポケットの奥に潜み、糖質をエサに増殖します。三大栄養素のうち口の中で低分子に分解されるのは糖質だけです。それが歯周ポケットの奥に入り込むために症状が進むと考えられます」

歯周病が原因で生活習慣病が発症する。

2011年、インディアナ大学で24歳の健康な男女50人に協力してもらい、3週間にわたって歯磨きをやめる実験を行った。結果は下の通り。

試験前(歯磨き実施)試験中(歯磨き中止)
血中エンドトキシン濃度(EU/ml)0.080.74
プラーク指数0.142.08
歯肉炎指数0.411.16
好中球活性5.778.39

※ 血中の内毒素は10倍近くに跳ね上がり、免疫も臨戦状態になった。出典/Endotoxemia and the host system ic response during experimental gingivitis" (J Clin Periodontok, 2011 May: 38(5): 412-417 / Wahaldi V Y らによる)

エンドトキシンとは、冒頭で名前を出したリポ多糖の別名。これは歯周病菌の細胞質膜を覆う外膜で、発熱性と毒性を持つ物質。実験期間中これが激増し、歯にはプラークが付着した。さらに歯肉炎を生じ、悪化した口腔内環境に反応して白血球の一つ、好中球が盛んに活動していた。

「実験後は歯科衛生士が汚れを取り除き、被験者たちは歯磨きを再開しました。すると2週間で口腔内の状態は実験前とほぼ同じ状態に戻りました」

この期間中、被験者たちのカラダには何が起きたのか?

「歯周病菌は歯周ポケットから毛細血管に侵入し、血流に乗り全身を駆け巡ります。そして、リポ多糖が血管内皮をはじめ、全身に慢性炎症を起こします」

なお、エンドトキシン、つまりリポ多糖が実験期間中の数値ぐらいまで増えてしまうと、例えば、人工透析を受けている患者ならば、1年以内に15%の人が死亡するというから恐ろしい。

次に下のグラフを見てほしい。フィンランドで発表された研究によると、脳内動脈瘤破裂を起こした患者の患部からは歯周病菌や歯周病治療関連菌、口腔内細菌が多数見つかったという。

歯周病菌はくも膜下出血の一因か?
歯周病菌はクモ膜下出血の一因か!?/脳内で破裂した動脈瘤から歯周病菌や歯周病治療関連菌などの口腔内細菌群が見つかった。
The connection between ruptured cerebral aneurysms and odontogenic bacteria. (J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2013: 84(11): 1214-1228. / Mikko J Pyysaioらによる) を改編。

慢性炎症が重大疾患をもたらすという話は、近年よく耳にするメタボリックシンドロームの発症メカニズムとまったく同じだ。というよりも、歯周病はメタボリックシンドロームが巻き起こす悪循環のドミノ倒しにおける、最初の引き金になっていることも十分疑われる。

肥満が進行すると、やがてメタボリックシンドロームを招きかねない話は冒頭で触れた通り。

だが、口腔ケアを怠り、歯周病を放置すれば、たとえ太らなくても短時間でカラダはメタボリックシンドロームと同様の状態に陥ることがうかがわれる。「歯周病菌による慢性炎症が、口だけでなく他の部位でも起きていると言えるでしょう」

一過性のダイエットでは悪玉細菌が増える。

歯周病を抱え込んでしまうと、血中に菌が流れ込む以外に、消化器にも毎日流れ落ちていく。これにより歯周病菌は腸内細菌叢のバランスを大きく変化させるという研究がある(新潟大学大学院医歯学総合研究科・山崎和久教授による)。

さて、口にも腸にも棲息する細菌で有名なものに、ファーミキューティス(グラム陽性菌)とバクテロイデス(グラム陰性菌)がある。これは細菌を分類するために行うグラム染色で用いる試薬に対する反応の違いによる分類だ。リポ多糖を持つのは主にグラム陰性菌。

「大腸に達した食物繊維はファーミキューティスによる発酵を受け、乳酸や有機酸といった短鎖脂肪酸を生じます」

早い話が、ファーミキューティスは食べ物の残りかすからエネルギーを作り出し、宿主であるヒトに一部を提供しているのだ。腸内にファーミキューティスが多く、食物繊維の豊富な食事を心がけると、食事からのエネルギー回収率は高まり、人によっては太る。おかげで、この菌、一部ではデブ菌などと呼ばれるが、反面これは健康的な食生活を示す菌であり、働きだ。

下のグラフは、低炭水化物・低脂質のダイエットの実験。これを続けると、悪玉菌が増えてくることがよく分かる。低炭水化物は食物繊維の不足をもたらすからだ。増えた悪玉菌のバクテロイデスはずばり歯周病菌。

「バクテロイデスの活動はヒトにエネルギーはもたらさず、カラダを病的な方向に傾けることが分かっています」

では、歯周病になると太るの痩せるの、果たしてどっち?

悪玉菌が増える
炭水化物や脂肪を減らすと悪玉菌が増える/原因と結果が双方向に作用し、悪玉菌が増えると痩せていく可能性も考えられる。
"Human gut microbes associated with odesity" (Nature 444: 1022-1023, 2006 / Ley REらによる)

リポ多糖を投与したマウスは確かに太った!

編集部で検索、調査を試みたところ、興味深い実験にぶつかった。

2007年、フランスの研究チームが行った実験では、リポ多糖を4週間にわたって継続的に皮下に注入し続けたマウスは、体重が増えると同時に、体重に対する肝臓の重量が増えていた。しかも、奇妙なことに、その増加量は、比較のため高脂肪食を与えたマウスより大きかった!

ちなみに高脂肪食を与えられたマウスの腸内にはグラム陰性菌が増え、血中のエンドトキシン濃度は開始前の2〜3倍になっていた。

マウスの実験結果をそのままヒトに当てはめることはできないが、2008年に発表された研究(Kalliomakiらによる)では、幼少時の腸内に黄色ブドウ球菌(嫌気性のグラム陽性球菌)が多く、説明無用のビフィズス菌(嫌気性グラム陽性桿菌)の少なかった児童(ヒト!)は、その後過体重になることが多かったという。

口腔内細菌は腸内細菌叢に影響し、それがヒトの代謝や肥満に影響することだけはどうやら間違いないようだ。

さらに、悪影響は自分だけに留まらない。遺伝子の解析技術が進んだ今では、疾患と遺伝子の関係が明らかになってきた。

「昔は遺伝子の突然変異によって病気が起こると考えがちでした。ウイルスに感染したり放射線を浴びると遺伝子の配列が変わるという話です」と花田教授。

ところが、風向きが変わった。遺伝子の配列は変わらないまま、DNAに装飾が付く。

「それを付けるのが歯周病などによる慢性疾患だというのです。しかも、その変異がマウスでは3代にわたって遺伝しました」

歯周病による影響は子孫にまで及ぶ可能性があるのだ。

歯周病を放置すると“でぶ”スパイラルに。

味蕾は低分子の物質しか受け付けない。口の中にある段階で低分子まで分解の進むのは糖質だけだ。だから、口当たりよく、すぐエネルギーになる糖質が欲しくなるのは自然の摂理。そして、糖が歯周ポケットに流れ込めば歯周病菌のエサとなる。

歯ブラシ

「本能のままに食事をするのは、あまりよろしくない。脳が血糖値の上下によっても空腹かどうかを判断するのは知られたことですが、他の栄養素の過不足は恐らく認識できません」と花田先生。

日本人が歯を失う最大の原因は、言わずと知れた歯周病。加齢とともに進行し、歯を失うにつれロクに噛まずに飲み込める糖質過多に陥るのだ。また、

「初めにお話ししたように、歯を磨くと同時に、専用のブラシでの舌磨きも習慣づけましょう。舌苔は味覚を鈍麻させるだけでなく、細菌が定着し、増殖する温床にもなるからです。食事にも注意が必要で成人後は成長期とは違う食事に切り替えるべきです。エネルギーや糖質過多の食事は控えましょう」

とはいえ、まったく糖質を排除してしまうと、善玉菌のエサが乏しくなる。食物繊維も豊富な玄米や精製度の低い米、雑穀を増やすといいだろう。

ヒトは細菌と共生する生き物。自分のカラダをガーデニングするような気分で賢い生活、食事をデザインしてほしい。

正しい口腔ケアを知って太らない生活を目指そう。

満腹感をもたらす要素の一つとして、咀嚼回数が関係することは言わずもがな。そして、何歳になっても自分の歯でしっかり噛み続ける、その第一歩は当たり前だが歯磨きだ。

「毎食後すぐに磨いたとしても、歯には凹凸があるから、凹の部分にはブラシが届きにくいものです。どんなに頑張ってもプラークの20%は取り残しになってしまいます」

歯間にはデンタルフロスや歯間ブラシを用いるのがよい。なければ、歯間にブラシを垂直に突っ込む容量で磨き、プラークを減らす努力をしてほしい。さらに、「プラークやバイオフィルム(プラークが糖質と結合したもの)を取り除くため、3か月に一度は歯科医を受診してください」

歯ブラシ

また、開発した花田先生が在籍する鶴見大学歯学部附属病院をはじめ、一部の歯科医院・歯科医師は薬剤で除菌を行う先進医療「3DS」を実施している。

「歯科衛生士、または歯科医によるクリーニングを受けてからの歯磨き後に、患者さんの歯型から作ったトレーに専用の薬剤を塗布し、それを5分間、口を閉じて噛みます」

これで歯表面の菌は一掃できる。歯周ポケット内部の菌は抗菌剤、抗生剤を服用して叩く。かくして無菌状態になった歯に、頬、舌、歯肉などから常在菌が定着する。ここは酸素のある場所だから、歯周病菌のいないプラークが形成される。

「自由診療ですが、今後の選択肢としてお勧めします」

取材・文/廣松正浩

初出『Tarzan』No.693・2016年4月7日発売

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