ランナーはなぜ食べ過ぎても太らないのか。「ランで痩せる」メカニズム
5kmのランで消費できるのはざっくり350キロカロリー程度で、体脂肪換算だとせいぜい50g。だけど、ランが日々の新たな習慣になってくると、この計算以上にみるみる痩せる。その鍵を握るのは、ラン後に体内で起こるある現象なのだ。
取材・文/井上健二 撮影/山城健朗 スタイリスト/山内省吾 ヘア&メイク/天野誠吾
(初出『Tarzan』No.775・2019年10月24日発売)
アフターバーン効果で、ラン後も脂肪は燃える。
息が切れないように気を配っても、ランのように酸素をたっぷり使う運動を長時間続けると、筋肉はどうしても一時的な酸素不足に陥る。
この酸素不足を補うために、走り終わってからも、しばらくは安静時よりも酸素消費量が増える。これは「運動後過剰酸素消費量」という現象で、英文の頭文字を並べてEPOC(エポック)と略される。激しい運動をすると、EPOCが高い状態は24〜48時間も続くらしい。
EPOCで取り入れた酸素は筋肉の修復などに用いられる。そのときのエネルギー源となるのは、脂肪酸。運動後も体脂肪が燃え続けるから、アフターバーン効果と称される。
のんびりウォーキングではEPOCは期待できないが、体脂肪の燃焼を最大化できるような速さのランは、EPOCによるアフターバーン効果の恩恵が得られる。だから、机上の計算以上に痩せられるのだ。
長く続けていると痩せ体質に変身できる。
ランナーは、たまに多少食べすぎても太ったりしない。ランニングで、痩せ体質へ変身しているからだ。
変化を促すのは、筋肉から分泌される「PGC-1α」という遺伝子。PGC-1αは、筋肉内のミトコンドリアを増やす指令を出す。ミトコンドリアは体脂肪を燃やすカマドのような存在だから、ミトコンドリアが増えるほど体脂肪は減りやすい。
PGC-1α出現の引き金となるのは、自律神経のうちでも心身を活動的に整える交感神経の興奮や、エネルギー源であるATPが減ると活性化する「AMPキナーゼ」という酵素。ランでは交感神経が優位になり、AMPキナーゼも活性化するため、PGC―1αの指令でミトコンドリアが増える。
歩いても思ったように痩せないのは、前述のEPOCによるアフターバーン効果の援護射撃がないうえに、強度が低すぎてPGC-1αが増えにくいためである。
加えてPGC-1αには、筋肉まわりの毛細血管を増やす働きもある。毛細血管が増えると筋肉に行き届く酸素と脂肪酸も増える。それを増量されたミトコンドリアで燃やす連携プレーが確立すれば、ちょっとやそっとでは太らない痩せ体質の完成だ。
筋トレしてから走ると効果倍増。
ランが習慣になって心身に余裕が出てきたら、筋トレも試してみよう。筋トレで筋肉がつくと代謝が上がるからだ。
じっとしているときでも消費する基礎代謝の20〜30%を担うのは、筋肉。筋肉を増量すると基礎代謝が押し上げられるため、痩せやすい。
週末などにランと筋トレをセットで行うなら、筋トレ⇒ランの順でやると、痩せランがワンランクUP。
筋トレを行い、交感神経が興奮すると成長ホルモンとアドレナリンの分泌が促される。成長ホルモンとアドレナリンには体脂肪を分解する働きがあり、筋トレ後に走ると分解された体脂肪がスムーズに使われて痩せやすいのだ。
体脂肪を収める脂肪細胞に広がる血管には、「ホルモン感受性リパーゼ」(HSL)という酵素が潜む。成長ホルモンとアドレナリンはこのHSLを活性化。HSLが脂肪細胞に働きかけて体脂肪を分解する。
お尻や太腿、胸や背中といった大筋群の筋トレでは、とくに成長ホルモンとアドレナリンが分泌されやすい。自体重でスクワットやプッシュアップなどを行ってから颯爽と走り出そう。