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“スリップインするだけ™”じゃない!《スケッチャーズ スリップ・インズ》快適学。
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錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。そのアジアトップを務める田丸尚稔氏がアメリカで実際に見た、聞いたスポーツの現場から、日本の未来を変えるヒント。
「ビジョントレーニング」と聞いて、何を鍛えることができると想像するだろうか? おそらく、多くの人は「動体視力」と答えるのではないだろうか?
ボクシング漫画『がんばれ元気』を読んだことがある方なら覚えているかもしれない。世界王者になる夢を持つ主人公の堀口元気は、毎日のように電柱によじ登り、そこから、高速で走る電車の中を眺めて乗客の顔を認識できるようにトレーニングを積んでいた(幼い頃、これを真似て電車を外から眺めたことがある人は多いのではないか? 私はやりました…)。そして元気は「見える…見えるぞ!」と、動体視力が良くなったという話の流れだったのだが、果たしてそれはボクシングのスキルが上がったと言えるのだろうか。
たとえば相手から右ストレートが繰り出されるとする。その拳が見えたとしても、ガードしたり、よけたり、あるいはカウンターパンチを合わせていったり、がうまくできるかは別だ。「見える…見えるぞ!」と高ぶりつつ、パンチを食らう、なんてことにもなりかねない。
他の競技を想像してもいい。野球のバッターボックスに入り、投げ込まれたボールが、その縫い目まで見えたとしよう。「見える…見えるぞ!」と興奮したとして、単にストライクを取られることだってあるだろう。向かってくるボールが見えるだけでなく、それがストレートなのか変化球なのか理解し、タイミングに合わせてバットを振る(あるいは振らない)。それらすべてが連動してこそ、スポーツのパフォーマンスとして成立するのである。
IMGアカデミーで行われるビジョントレーニングは、「動体視力=動くものを見る能力」だけを鍛えるものではない。動くものを見て(See)、それが何であるか認識し(Think)、適切な動きをする(Do)。この「See, Think, Do」の連動をより速く、そして正確に行えるようにすることがスポーツのパフォーマンスを高めることになる、というわけだ。
テニスの錦織圭選手が世界のトップで戦える強さの一つとして、Eye-Hand Coordination(アイ・ハンド・コーディネーション)が挙げられるのだが、つまり視覚と手の動作の連動性が優れているというもので、まさに「See, Think, Do」が速く、正確であることを示している。
では、具体的にビジョントレーニングにはどのようなものがあるのだろうか?
たとえば、ダイナボードと呼ばれるトレーニング機器で、焦点を中心から動かさずに周辺視野を鍛えるものがある。赤いランプが点き、それを素早くタッチして消していく。
上の写真は、1から50までの数字の小さなパネルがあり、小さい数字から大きな数字という順や、その逆、あるいは奇数だけ、などさまざまパターンを変えて、パネルを速く集めるゲームを1対1で行っている様子だ。
ポイントはいくつかあるのだが、一つは対戦形式で行ったり、時間制限を設けてプレッシャーのかかる状況を作り出すことで、試合など特殊な環境で“使える”実戦的なスキルを上げることだ。トレーニング機器はなかなか手に入れられないかもしれないが、このパネル(厚紙などでもよい)程度であれば自作も可能なので、興味のある方はぜひ試してみてほしい。
もう一つ。この「See, Think, Do」の連動は、普段はそれほど意識せずに行っていることが多いのではないだろうか?だから、いまひとつ実感を伴って、その重要性を認識することができないかもしれない。そんな生徒に対してIMGアカデミーで行っているのは以下のようなトレーニングだ。
ゴルフのパッティングを2人一組で行う。一人はパターを持ち、ボールを打つのだが、目隠しをさせられる。もう一人はパターを持つことはできないのだが、芝目を読み、距離感を測って、それをパートナーに伝えてボールを打ってもらう。つまり「See, Think, Do」のうち、どれかをできなくしてしまうのだ。
それにより、パターを持てない人は見ることにより集中し、それを言語化することで思考を客観的に捉えることができたり、一方で目隠しされた人は認識したものを動作に正確に伝える連動を意識しながら実感できたりする、というものだ。
実際に行ってみると、なかなかに面白い体験になるので、ゴルフのパッティングでなくとも、何かモノを動かすなど簡単なことでも、2人一組でやってみるのもどうだろうか。
このビジョントレーニング、プログラムを提供しているのがメンタルコーチだったりする。先述の通り、プレッシャーがかかる環境下でトレーニングをしたり、加えて心拍数などを測りながら呼吸を整えて行ったりと、パフォーマンス向上にはメンタルの安定性が大きなカギになる。
視野が広がったり、何かを感知する速さや正確さが上がると、急な対応に際しても焦りが減り、メンタルも非常に落ち着くという。アスリートに限らず、あらゆる人、場面で有効なトレーニングになるのではないだろうか?
田丸尚稔(たまる・なおとし)/1975年、福島県生まれ。出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。
文/田丸尚稔
(初出『Tarzan』No.773・2019年9月26日発売)