懐かし筋トレ「手押し車」では腕は鍛えられない?
取材・文/廣松正浩 撮影/小川朋央 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 イラストレーション/モリタクマ 取材協力/有賀誠司(東海大学スポーツ医科学研究所教授) 取材協力・エクササイズ指導/清水忍(インストラクションズ代表、IPFヘッドトレーナー)
(初出『Tarzan』No.706・2016年10月20日発売)
体幹トレーニングとして、行うべし。
うさぎ跳びと並んで、昭和の部活では基本のキだった運動だが、いまでもあれをやる人はいるのか? そもそも、あれは腕のどこかを鍛えたことになっていたのか?
「いやいや、競技者の世界ではオーソドックスなトレーニングとして、いまなお残っていますよ」と清水忍トレーナー(インストラクションズ代表)は現状を語る。
「ただし、腕トレという位置づけではなく、あくまでも体幹トレーニングとしてですが」
そうか、体幹なのか。部活ではペアを組み、遠い目標まで競争で往復させられたから、フォームなんてぐっちゃぐちゃ。挙げ句、急ぐあまり足首を持つパートナーに押しまくられ、手が追いつかなくなり、もつれ、転んでの大騒ぎ。それでも腕ではない?
「手押し車の姿勢をとるとき、脱力したら腰が反り返り、お腹が開き膝も曲がってしまいます。それを防ぐため体幹の筋肉が使われます」と有賀誠司教授(東海大学)。
スタート前から太腿前後の筋肉や腹筋、背筋も動員されるし、いざ進み始めれば肩まわりが動くから、三角筋や広背筋もしっかり機能することになる。
「基本的には肘を伸ばしたままの動作ですから、腕や胸の筋肉は補助的に使われるだけ。したがって、太く、強力な腕を作る効果には乏しい運動です」
上腕三頭筋に効く、最新型手押し車。
スピードなど捨てて、腕立て伏せの要領で一手ごとに肘を屈伸すれば、腕の強化にもつながるが、これは相当の鬼トレになるはず…。
あるいは、進むことさえ捨てて、両足首を持ってもらったまま、その場で両手でぴょんぴょんと跳躍を繰り返すなどという腕立て伏せのハード版は、むしろスポーツ界で比較的広く行われているのだそう。これなら腕や胸の強化につながるだろう。
「運動特性から見ると、腕と同様に肩や背中も鍛える運動だと思います。かつては根性トレーニングの代表格だった手押し車は、近年形を変えて見直される機運にあります」
ただし、手法は少々変わった。たとえば、パートナーが持つのは片足だけ。当然、放っておけばバランスが崩れるから、ねじれようとする力に対して全身で抵抗せざるをえない。難易度はがぜん高くなる。
「下に紹介したエクササイズもそのアレンジバージョンといえるものです。体幹を保持しながら、腕は上腕三頭筋に効くはず。こちらはパートナーなしでできるので、取り入れてみてください」
と清水トレーナーは締めくくった。
実践! 開始の体勢自体がそもそもきつい。
1. ラテラルハンドステップ
体重をかけても崩れない古雑誌などを10cm程度の高さに積み上げる。両手をこの障害物の左右どちらかについたら、片手ずつ障害物に上げ、反対側に片手ずつ下ろしたら、同様の動作で開始の位置に戻る。10回×2セット。
2. アームサイクル
足は爪先立ちで、前腕を床についたプランクの体勢から、片手をついて腕を伸ばしたらもう一方の腕も伸ばす。次に片側ずつ肘を下ろす。さらに負荷を上げたければ、椅子などに両足を乗せてデクラインにする。10回×2セット。