年齢性別でウンチは変わる。誰にも聞けないウンチにまつわる素朴な疑問

ウンチQ&A。排便機能専門医の神山剛一先生に答えていただきました。

取材・文/井上健二 イラストレーション/サタケシュンスケ 取材協力/神山剛一(寺田病院外科・胃腸科・肛門科、医学博士)

(初出『Tarzan』No.771・2019年8月29日発売)

年齢性別でウンチは変わる。

下痢は男性に多く、便秘は女性に多い。そんな印象があるけれど、これは案外間違っていない。「平成28年国民生活基礎調査」によると、下痢の割合は男性1.8%、女性1.5%とやや男性優位であり、便秘の割合は男性2.5%、女性4.5%と女性優位なのである。

「女性は出産に備えて骨盤が骨格に対して相対的に大きく、それだけ多くの便が溜められます。反面溜めすぎると排便が難しくなり、その分だけ男性よりも下痢が少なく、便秘が増えるのでしょう。女性ホルモンも、おそらく関係しています」

同調査で年代による変化を見ると、下痢は年齢であまり変化しないのに、便秘は男女とも加齢で増える。加齢で食が細くなりウンチの材料が減り、押し出す力も衰えるためだろう。

便秘を訴える人の割合
便秘を訴える人の割合
「便秘がある」と訴えた人の割合(人口1000人当たり)。総じて男性よりも女性の方が多く、男女ともに便秘の有訴率は年齢が高くなるほど右肩上がりに増えていくことがわかる。
出典/厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」

便秘解消には水をたくさん飲んだ方がいい?

便秘予防のために水分を多めに摂る人もいる。水が足りないと脱水するのでNGだが、水をたくさん飲んだからといって便秘は治らない。

すでに触れたように、小腸に流れ込む液体の総量は1日9Lほど。そのうち飲み水は通常1〜1.5Lで、残りは唾液や膵液や腸液といった消化液だ。ゆえに飲み水を多少増やしても、小腸に流入する水分の総量は大きく変わらず、ウンチを作る大腸に入る水の量も大差はない。

水をいくら飲んでも、大腸の蠕動運動が何かの要因でスローダウンすると再吸収される水分が増えてウンチは硬くなり、便通はたちまち悪くなる。

水を飲みすぎても腎臓からオシッコとして排泄されるからとくに支障はないけれど、便秘解消を期待しすぎるのはお門違いなのである。

サプリメントや青汁で下痢が起こることもある。

良かれと思って摂っているものが、想定外に便通を乱すこともある。

典型がサプリメント。サプリによる便通悪化の引き金となるのは、成分を包んでいる錠剤やカプセルに使われているセルロースである。セルロースは難消化性デキストリン。摂りすぎると大腸の蠕動運動を刺激して通過スピードが速まり、下痢を誘発しやすい。サプリを1日に1〜2カプセル飲むくらいなら平気だが、毎日大量にサプリを摂っている人は要注意である。

意識高い系の好物である青汁やグリーンスムージーも摂りすぎは×。

「飲みすぎて食物繊維が一度に大量に入ると蠕動運動が亢進して下痢を起こしたり、逆にウンチが量的に増えすぎて便排出障害による便秘を起こしたりするケースもあります」

イキむためにインナーマッスルを鍛えるべき?

排便で息むには腹圧が大切だから、スムーズな排便のために、腹横筋や骨盤底筋群といった腹部のインナーマッスルを鍛えて腹圧を高めるのがいいという説がある。

でも、神山先生は否定派だ。

「自律神経を整えるために深い呼吸をしつつインナーを鍛えるというなら構いません。でも、息まず出せるウンチと状況を作るのが先決なのに、その努力を怠ってインナーを鍛えて息んでウンチを出そうとするのだとしたら本末転倒です」

加えて言うなら、インナーは自らの意思で動かせる随意筋であり、ウンチを出すときに働く直腸の筋肉は意思では動かせない不随意筋。随意筋で息んでも排便の背中を軽く押せる程度にすぎない。インナーの頑張りのみではウンチは出せないのだ。

アルコールは便にどんな影響を?

飲酒をすると下痢をしやすい。それは第一に、お酒のアルコールが腸管の活動をコントロールする自律神経を乱すから。

加えてもう一つ、大腸に炎症が生じて水分吸収がおろそかになりやすいという理由も考えられる。

アルコールは肝臓と筋肉で完全に代謝されるが、長年お酒を飲み続けて脂肪が肝臓に溜まる脂肪肝になると血行障害が生じる。

肝臓と腸管は門脈という太い血管で結ばれているお隣同士。だから、肝臓の血流が悪くなってくると、腸管の血流も悪くなり、困った炎症が生じやすくなる。

「腸管を調べても何もおかしなところが見当たらないのに、お酒を飲むと必ず下痢をするというタイプは肝臓に問題がある可能性もあります」

便秘だと大腸がんになりやすい?

大腸がんは日本人がもっとも罹りやすいがんであり、年間死亡者数は第2位。女性では死亡者数1位で、男女ともに注意すべきがんだ。

便秘だと大腸がんに罹りやすいというイメージもあるけれど、これはどうやら幻想のよう。

日本人約6万人の約7年間の追跡調査で、便通が毎日1回ある人と、便通が週2〜3回で便秘傾向の人の間で、大腸がん全体と部位別に結腸がん、直腸がんのリスクを比べた研究がある。それによると男女ともに両者に有意な差はなかった。

この調査では、逆に下痢便の場合、直腸がんのリスクが増えるという結果が出た。ただこれは直腸がんの影響で下痢便になった可能性もあり、下痢便と大腸がんの関わりにはっきりした結論はまだ得られていない。

便通と大腸がんのリスク
便通と大腸がんのリスク
日本人約6万人を約7年間追跡する間、男性303人、女性176人が大腸がんを発症。便通の頻度や便の状態への回答を元に、大腸がんの発症リスクを調べた。便通の頻度では、大腸がんの発症リスクは変わらなかった。
出典/国立がん研究センター「Ann Epidemiol.」2006年16巻888-894ページ

便秘薬はどう進化している?

便秘薬は長らく薬草のセンナなどの刺激性のものが主流だった。その名の通り、大腸を刺激して蠕動運動を促し、便秘を解消する。刺激性というだけあり、そのインパクトによって腹痛を起こす恐れもあった。

2012年、32年ぶりに登場したルビプロストンは、お腹が痛くなりにくい非刺激性。小腸での腸液の分泌を促して大腸に流入する水分を増やし、ウンチの軟化&ボリュームアップで排便しやすくしてくれる。

続いて18年に登場したPEG製剤は、大腸内視鏡検査の前に大腸を空っぽにするために用いられるものとほぼ同じクスリ。

「非吸収性の水溶液で浸透圧を変え、本来小腸で吸収されるべき水分が大腸まで流れ込むため、ウンチが大腸を勢いよく下るのです」

プロテインはウンチにならないってホント?

筋トレで筋肉を肥大させたいなら、筋肉の材料となるタンパク質の摂取量を増やしたいもの。そこで頼れるのが、タンパク質を精製したサプリであるプロテイン。

プロテインを飲むとウンチはどう変わるのだろうか。

プロテインはタンパク質リッチでもウンチの固形成分となる食物繊維は入っていない。プロテインは筋肉を作れてもウンチは作れないのだ。タンパク質をプロテインに頼りすぎると、食物繊維の欠乏からウンチが溜まりにくく便秘を招く心配がある。

プロテイン以外の肉類、魚介類、卵、牛乳・乳製品といったタンパク源も食物繊維はほぼゼロ。タンパク質は食物繊維を含む豆腐や納豆などの大豆食品からも摂り、野菜や海藻類などから食物繊維を摂ろう。

理想の排便姿勢とは?

筋トレでフォームが重要なように、排便でも姿勢に気を付けるべき。

排便で密かに大事なのは、ウンチが溜まる直腸と排出口である肛門の角度。直腸肛門角だ。

「溜まったウンチが漏れないように、直腸と肛門には角度がついています。排便のために息むと骨盤が下がり、直腸肛門角がストレートになってウンチが出やすくなります」

洋式トイレにじっと坐って上体を起こすと、直腸肛門角は鋭角になってウンチは出にくい。

直腸肛門角を180度に近づけるのに有効なのは、両足の下に踏み台か雑誌を重ねて置くか、上体を前傾させること。膝を股関節より高くすると直腸肛門角がストレートになりやすい。前傾角と台の高さを調整して最適の排便姿勢を追求しよう。

排便姿勢で大切なのは、 直腸肛門角の調整。
姿勢で大切なのは、 直腸肛門角の調整。
直腸と肛門を結ぶ直腸肛門角が鋭角だと、便は出にくい。踏み台に両足を乗せたり、上体を軽く前傾させたりして直腸肛門角をまっすぐにしてやると、肛門を締めている恥骨直腸筋が緩みやすくなり、排便がスムーズになる。
資料提供/神山剛一

断食で休腸日を作るべき?

お酒好きの左党は、アルコールの解毒でてんてこ舞いの肝臓を休めるため、週2〜3回の休肝日を作るべきとされる。ならば腸管はどうか。

左党でも下戸でも、1日3食の消化吸収で小腸も大腸も生まれてから死ぬまで不眠不休で働き詰め。断食でもして、休肝日ならぬ休腸日を作った方がいいようにも思える。

しかし神山先生は、休腸日を設ける必要はないとおっしゃる。

「つねに腹いっぱい食べてたまに断食して休腸日を作るより、普段から腹八分目にして消化管に負担をかけすぎない心掛けの方が大事。また、断食で健康になるというエビデンス(科学的な証拠)もありません」

野放図な飽食の免罪符として断食を持ち出すよりも、飽食自体を改めるべきなのである。

ウンチがとぐろを巻くのは?

「ウンチ」でネット上の画像検索をかけてみると、とぐろを巻いた例のイメージがたくさん出てくる。

では、なぜウンチはとぐろを巻くのか。そんな小学生並みの疑問に、神山先生は次のようなオリジナルの仮説を披露してくれた。

大腸の出口に当たり、ウンチを最終的に絞り出すのは直腸。直前のS状結腸までは大腸は捻りのないまっすぐな筒状なのだが、直腸だけはなぜか少し螺旋を描いている。

「そこからツイストしながらウンチが出てくるため、ウンチはとぐろを巻きやすいのではないかというのが、長年の僕の仮説です」

直腸がキレイに“作品”を仕上げるには、バナナ状の適度な硬さが不可欠。とぐろを巻くウンチは、腸内環境が良好な証しでもある。

ダイエットでウンチはどう変わる?

ダイエットがきっかけで、便通が変わることもある。

ダイエット=食事制限。普段食べているモノから何を制限するかで、ウンチの状態は変わってくる。

減量中にとくに増えるのは便秘。前述のようにウンチの固形部の3分の1を占めるのは、食物繊維。食事量を減らすと食物繊維も減り、材料不足でウンチが溜まりにくく、便意も起こりにくい。とくに糖質制限ダイエットでセーブしがちな食パンやイモ類には食物繊維が多いため、糖質制限で便秘になる人は少なくない。

ダイエット中の便秘を防ぐには、カロリーは減らしても食物繊維がリッチな野菜、海藻類、きのこ類などを減らさないのがポイント。これらの食品は低カロリーだから、増量しても減量の足は引っ張らないのだ。