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こんなパンを待っていた! 豆でつくられたグルテンフリーの《ZENB ブレッド》
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目次
自ら感情をコントロールする切り替え術は「抑制」「ディストラクション」「再評価」の3つに分けられる。
「抑制」とはある事象に対して高ぶった感情を、自分の中に抑え込む内省的な方法。「ディストラクション」は事象に対する感情や捉え方の切り替えが難しい時、何らかの行動を起こすことで別の事象に注意を向ける方法。「再評価」とは日々反省などを繰り返しながら、一つの事象を多角的に見られるよう根本的な考え方をアレンジする方法。
3つのアプローチを状況に合わせて使い分けられれば、自ずと気持ちは整うように。
「アスリートは未来に起こりうることをいくつも想定して、対処策も練っています。それでも、実戦の場で乱れてしまった時に平常時の状態にリセットしようと試みます」(高井秀明さん・日本体育大学スポーツ心理学研究室)
その方法こそゲーム中に行うルーティン。常日頃ベストコンディションであるという前提のもと、想定外の状況においても威力を発揮するルーティンは、3つの切り替え術を総称した方法論と言えよう。
アスリートが実践する“あの所作”がいかにプレーに生きるか、スポーツ心理学の観点から高井先生が解説!
14年よりヤンキースで活躍する田中将大投手。マウンドでキャップのツバをじっと見つめる姿が印象的。
「キャップのツバをフォーカルポイントにして気持ちを一点化させているのでしょう。ピッチャーは連続して投球するので都度切り替える必要がある。気持ちのバランスを崩しかけても行動で自身をアレンジして再度プレーに臨むのです。野球選手は本調子でない時、スタジアムの旗などを見上げる人もいます」
平成の野球史に数々の歴史を残したイチローさん。打席入り後のバット立ての一連の動作はあまりに有名。
「毎回正確に同じ動作を行うことで自分自身が乱れた時に原因にすぐ気付ける。そのためにアスリートはルーティンをつくるのですが、イチロー選手の正確さはやはり圧倒的でした。あんなにも長年続けられたのは、イチロー選手がより細部の精度を追求し、自身の違いに常に敏感であったことの表れでしょう」
今年1月、世界ランク1位に上り詰めた大坂なおみ選手。試合で調子が振るわない時、後ろを向くことが。
「後ろを向くという行動によって自分のプレーではなくそれ以外に意識を向けようとしているものと思われます。コート側を向くと視覚情報が入ってくるので、それらを一度遮断して気持ちをリセットさせようと試みているのでしょう。一見些細な動作に見えますが、次のプレーにおける処理能力を高めるには十分です」
全仏オープンで最多優勝数を誇るナダル選手。サーブ前に鼻や額付近を触る仕草が。
「“触る”動作は心理学では不安傾向を意味するのですが、ナダル選手の場合はまた違うものと思います。どんなゲームでも必ず行っていますから。おそらくこのルーティンをする間は、次に行うプレーの戦略を考える時間に充てているものと考えられます。ただ、ご本人はほぼ無意識で行っている可能性もあります」
元巨人のエース・桑田真澄さん。現役時代、マウンドで投球前にボールを手に何かをささやきかけていた。
「桑田選手が行っていたルーティンは心理学ではセルフトーク(自己対話)と呼ばれます。自分の中で次の行動にポジティブなイメージを描くため、自分を奮い立たせる言葉を発するのです。誰かに言ってもらうのでなく自分自身で発音することで、聴覚情報として認識できて、フィードバック作業につながります」
五輪や世界体操競技選手権で好成績を残す内村航平選手。跳馬前に両手を前方に伸ばす、その意図は。
「内村選手のルーティンは次に行うパフォーマンスに直結する、ご本人にとって欠かせない動作です。自身の伸ばした両手を基準に、自分自身のカラダの軸や跳馬までの距離、方向性のズレがないかなどを測っているのです。ラグビーの五郎丸歩選手の“祈りのポーズ”も同じ意図のもとなされていたルーティンです」
取材・文/門上奈央 取材協力/高井秀明(日本体育大学スポーツ心理学研究室)
初出『Tarzan』No.769・2019年7月25日発売