私がトレーニー、ランナーに中鎖脂肪酸(MCT)をすすめる理由
数年前からトレーニーやダイエッターの間で注目を浴びている油がある。それが中鎖脂肪酸油だ。オイルのほかにも粉末やゼリーなど、市場にはさまざまなタイプの製品が出揃っている。しかし具体的なメリットや摂取時の注意点など、まだまだ知らない人も多いはず。そこで管理栄養士の浅野まみこさんに、ホントのところを詳しく聞いてみました。
取材・文/黒田創 イラストレーション/加納徳博
1. そもそも中鎖脂肪酸ってなんですか?
一般的には“中鎖肪酸油”や“MCT”と呼ばれるこの油、普通の食用油とは何が違うのだろうか。
「MCTとはMedium Chain Triglyceridesの略で、中鎖脂肪酸100%の油を指します。油はその主成分である脂肪酸の長さや種類によって特性が異なっていて、私たちが普段使っているサラダ油やキャノーラ油、オリーブオイルなどに含まれているのは長鎖脂肪酸。
炭素のつながる長さによって異なり、長鎖脂肪酸は炭素数12以上、中鎖脂肪酸は炭素数8以上10以下です。
中鎖脂肪酸は『脂肪酸』の長さが長鎖脂肪酸の約半分で、簡単に言うとカラダの中での代謝経路が変わってくるんです」(管理栄養士・浅野まみこさん)
中鎖脂肪酸は代謝が早い。
長さの短い中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸よりも水で分解されやすいため、糖などと同じように、胃から小腸、門脈を経由して直接肝臓に入って分解される。
中鎖脂肪酸の分解経路
- 食事による摂取
- 胃
- 小腸
- リンパ管
- 門脈
- 肝臓に入って代謝される
一方の長鎖脂肪酸は、小腸で消化、吸収されたのちに血管やリンパ管を経由して全身の脂肪細胞や筋肉、肝臓に運ばれ、分解および貯蔵される。脂肪細胞や筋肉に貯蔵された脂肪酸は、そこからさらに必要に応じてエネルギーとして分解される。
長鎖脂肪酸の分解経路
- 食事による摂取
- 胃
- 小腸
- リンパ管
- トリグリセライドへ形を変える
- リポタンパクに形を変える
- 胸管
- 動脈・心臓
- 肝臓へ入って代謝される
つまりMCTは一般的な油よりも複数の臓器に負担をかけることなく、かつ素早く(長鎖脂肪酸の約4倍早いとも言われる)分解され、短時間でカラダのエネルギーになってくれるのだ。
「そうしたMCTの特徴を生かし、高齢者や腎症、吸収障害をもつ方向けの補助食品として医療の現場でも使われています。私もMCTの存在を知ったのは病院に勤務していた頃で、エネルギー補助食品として、患者さんに代謝の早いMCTクッキーを提供していました。
MCTがカラダに負担をかけにくいというのは、医療関係者の間では以前からよく知られていることだったんです」(浅野さん)
それが近年、次第に一般のユーザーにも広がってきたというわけだ。
2. ランナーに中鎖脂肪酸が良い理由。
カラダに負担をかけずに、素早くエネルギーに変わるMCTはランナーにとって使いやすいオイルだと浅野さんは話す。
「現在、ランニングの前には炭水化物を摂取する“カーボローディング”を行ったり、直前、またはランの最中もこまめに糖分補給を行うのが一般的です。MCTはダイレクトに肝臓に届いて効率よく分解、代謝されるので、エネルギー源の新しい選択肢になってくれるはず。
手軽に摂取できて、ランの前に炭水化物を摂るよりも膨満感(お腹が張る感覚)が少ないのも魅力です。短めのランならそれだけでOKですし、長距離の場合も走り始めから糖質と併用して、エネルギーとして活用できるでしょう」
また走る直前やランの最中にブドウ糖飲料などを摂った場合、当然ながら血糖値は急上昇し、急降下する。この血糖値の上下動はカラダに疲労感をもたらしてしまう。MCTには血糖値を上げない、というメリットもあるのだ。
マラソン前に有効な使い方もある。
マラソンのような長距離レースに出場する場合は、糖質とMCTを上手に使い分けた補給方法もおすすめだ。
「長距離を走る場合おすすめのやり方は、まず数日前からカーボローディングを行い、当日は米飯などの炭水化物で緩やかに血糖値を上げます。
そして直前のエネルギー補給は、クエン酸やエネルギーへスムーズに変換されるブドウ糖、果糖を含んだ果汁100%のオレンジジュースなどとMCTで行います。
レース中の補給もそれらを使うといいでしょう。これで血糖値を安定させ、大きな上下動を抑えられるので、疲れを感じにくくなる。またMCTがエネルギー源として使われることで、その流れで体内にある脂質も使われやすい状態になると考えられます」
3. トレーニーに中鎖脂肪酸が良い理由。
ランなどの有酸素運動に加え、筋トレでカラダを絞りたい人にも効果的だという。
「筋グリコーゲン(筋肉に蓄えられたグリコーゲン)のレベルが低いと満足なトレーニングができませんし、仮にトレーニングができても筋肉自体をエネルギー源として使ってしまい、逆に筋肉は減ってしまう。
そのため筋トレの前にある程度糖を摂る必要があるのですが、ここで多めに摂ると、今度は肝臓や筋肉で蓄えられた以外のグリコーゲンが脂肪になってしまいます。
筋トレ前にMCTを摂ればそれをエネルギーとしてトレーニングできるため、筋肉が削られることは避けられますし、ランニングの場合と同様、体内の脂質が優先的に使われるようになるメリットもある。筋トレで効果的にカラダを絞りたい方におすすめです」(浅野さん)
またトレーニング直後に適切に栄養補給をしないと筋肉の分解が進んでしまう恐れがあるが、こうした場合もMCTを摂るとそれが抑えられる可能性がある、と浅野さん。食が細く、トレーニング直後に炭水化物をあまり食べられない人は試してみてほしい。
4. 中鎖脂肪酸油(MCT)を摂取する際の注意点。
MCTを“摂るだけで痩せる魔法のダイエット食品”のように捉えているケースも多いという。しかし、それは間違い。MCTはあくまで油の一種であり、他のオイルと同様、1gあたりのカロリーは9kcalある。
「MCTは摂るだけで代謝が上がる訳ではありません。運動前のエネルギー源として活用したり、普段使っている長鎖脂肪酸油と置き換えるのが良いでしょう。運動もせずにただプラスオンしても、総摂取カロリーが増えてしまう点をお忘れなく。
また加熱すると煙や泡立ちが起こるため、揚げ物や炒め物には使えません。サラダにドレッシング代わりにかけたり、調理済みの料理や味噌汁にオイルを少し垂らすといいでしょう。
痩せたい人は、カフェインの作用で脂肪燃焼が期待できるコーヒーなどに加えて、運動前に摂取するのものおすすめ。MCTは無味無臭なので、味にはまったく影響しないのもポイントです」(浅野さん)
運動前のエネルギー補給や毎日の食生活にMCTを。気軽に少しづつ取り入れるといいだろう。
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