「パーゴワークス」のトレランパックが、機能性とシンプルさを同時に両立させる意味

取材・文/井出幸亮 撮影/大嶋千尋

(初出『Tarzan』No.763・2019年4月18日発売)

「カラダにフィットさせるだけなら簡単ですが、バックパックには荷物が入る。それも、行きは重いが帰りは軽い。その荷重バランスを考えるのが難しい」。ましてやそのバランスが走行性に大きく影響するトレイルランニングという分野においては、課題の多さはさらに増す。

パーゴワークス〉代表の斎藤徹さんはトレランギアの進化を自ら体験してきた、この分野の第一人者。ルーツは約25年前、初めてトレイルランの大会に出場した際、パックを自作したことだと言う。

パーゴワークスの斎藤徹(さいとう・てつ)さん
斎藤徹(さいとう・てつ)/1971年生まれ。アウトドア用品を手掛けるプロダクトデザイナー。2011年に〈パーゴワークス〉を創業。バックパックのデザイン歴は20年以上に及ぶ。

「当時主流の腰で荷重を支えるタイプのパックは走りづらく、重心を高くして腰をフリーにする構造のパックを考えました。《RUSH》シリーズはそのコンセプトをブラッシュアップしたモデルで、素材、構造、デザインまで25回以上も試作を重ねました」

数え切れないほどの実験を繰り返して生まれたのは、一見して非常にシンプルな構造とデザインのパック。

パーゴワークスのとレザンザック。幅広のハーネスに配された2本のチェストストラップがパックの安定性を高める。
幅広のハーネスに配された2本のチェストストラップがパックの安定性を高める。

「既存モデルを研究するうちに、構造が非常に複雑でわかりにくいものが多いことに気付き、パッと見てポケットの位置などがすぐ認識できるようなデザインとカラーリングを心がけました。また布地を折り返して縫う“内縫い”を採用して縫い目を隠し、見た目をすっきりさせながら、ショルダーハーネスのフォームを左右一杯まで入れ、フィット感を高めました」

一般的なパックよりも面積の広いショルダーハーネスはカラダへの当たりが柔らかく、安定感がある。高い機能性とシンプルさを同時に追求する斎藤さんのこうした設計の思想の背後には、「エントリー層へのアプローチ」というテーマがあると言う。

パーゴワークスでは、あらゆるパターンの型紙を製作し試行錯誤を繰り返している。
あらゆるパターンの型紙を製作し試行錯誤を繰り返している。

「フィッティングも難しくならず、背負い方を自分で容易に変えられるよう操作性の良さを大切にしています。レース志向のギアは初心者には扱いづらい。道具を間違って使うと楽しくないし、そのことでせっかく広がったシーンが萎んでほしくないので」

ビギナー向け=スペックの低い簡易モデルと考えるのでなく、使う人のステージに応じた身体性と動きを徹底的に考え抜く。〈パーゴワークス〉の探求は終わることがない。

※製品情報は全て掲載当時のものです。