筋肥大させるためには何をどう食べたらいい?
ヒトは、毎日適正量のタンパク質をせっせと取り入れなければ、健全な肉体を保てない。とはいえ、闇雲に摂ればいいというわけでもない。筋肥大に役立つ食について、考えてみました。
取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 イラストレーション/友田シトウ 取材協力/河村玲子(パーソナル管理栄養士、トレーナー) 料理製作/美才治真澄(管理栄養士)
(初出『Tarzan』No.739・2018年4月5日発売)
目次
筋肥大には筋肥大なりの適正タンパク質量がある。
カラダの組織を形づくっているタンパク質は、体脂肪のように際限なく溜め込むことができない。というのも、体内では古いタンパク質は分解、新しいタンパク質は次々合成と、めまぐるしいターンオーバーを繰り返しているからだ。
なので、1日当たりの適正量をせっせと取り入れなければ健全な肉体を保てないというわけ。
タンパク質の適正量は一般人でいうと体重1kg当たり0.8g。ランニングなどの持久系スポーツを習慣にしている人はちょい多めの1.1〜1.4g、筋肥大を目指すならばさらに多い1.5〜1.8gが目安。体重65kgなら最低でも97gのタンパク質は必須、豚肉なら1日約480g平らげて一人前のトレーニーってこと。
他の栄養素とのバランスもまた重要だ。
体重1kg当たり1.8gなんて足りないっス! 自分は2g、いや3gのタンパク質を摂ってよりスピーディに筋肥大したいっス!
重いウェイトを持ち上げている人ほど、そんな思い込みにとらわれがち。けれど、むやみやたらにタンパク質を摂ればいいってものではない。
というのは、糖質(炭水化物)や脂質で十分なエネルギーがカバーできていれば、少ないタンパク質が体内で最大限に利用されるメカニズムが働くから。
十分なエネルギーが担保される糖質と脂質の割合は右の円グラフの通り。1日に必要なエネルギーのうち、タンパク質は15〜20%で事足りる。体重1kg当たり最大1.8gのタンパク質で立派に筋肥大は実現可能。
糖質や脂質でエネルギーが摂れていないとタンパク質がエネルギーとして使われるので、体重1kg当たり2g程度のタンパク質が必要な場合もある。ただし、2g以上のタンパク質がうまい具合に筋肉の材料になるか否かは保証の限りではない。
1日の摂取エネルギー量、もしかして多すぎ?
ヘルスケアの世界で最もポピュラーな「日本人の食事摂取基準」。この中では、身体活動のレベル別に1日これくらいのエネルギーが必要でしょうという数値が示されている。
ところがこの数値、真剣に筋肥大に取り組もうという人にとっては予想外の結果に繫がる可能性もあり。なにせ元になっているのは60年代の日本人のデータから算出した基礎代謝。うっかりするとやや多めの数値となり太る原因にも。たとえば、30〜40代の男性で結構な運動習慣のある人の推定エネルギー必要量は3050キロカロリー。
一方、2000年の日本人データから算出された基礎代謝の計算法がある。上に示した国立健康・栄養研究所の超複雑な式がそれだ。これに基づいて筋肥大を前提としたエネルギー必要量を導き出すと、30代の平均的な体型の男性で2638キロカロリーとなる。前者に比べ約400キロカロリー減。これはデカい。
肝心のタンパク質を食事で補うコツ。
1日480gの豚肉は到底完食できません。それよりもプロテインをササッと飲んで補っちゃえば事はカンタンなのでは?
数字だけ見ればその通り。でも健康を保つための食生活を考えると、それですべてOKってわけにはいかない。
プロテインにはビタミンや糖質なども含まれているが、メインの栄養素はもちろんタンパク質。一方、一般的な食事は他の食材から多様な栄養素を摂取することができる。たとえば青魚からはオメガ3などの必須脂肪酸、野菜からはポリフェノールなどの機能性成分というように。
また、同じタンパク質を摂るのでも、肉由来のものと魚・植物由来のものを大体半々の割合でいただけば、栄養バランスを整えやすい。しかも、タンパク質食品は種類によって消化吸収スピードが異なるので、体内にアミノ酸が常に満ちた状態を維持できるというメリットも。
いつなんどきも準備万端、材料がたくさんあれば筋肥大もしやすいということ。
プロテインに頼るべきケースもまたあり。
では、何が何でもタンパク質を食事で摂るべきなのかというと、それも頭でっかちな話。
1日に摂るタンパク質量を増やすということは、卵の黄身や牛丼の脂身など、同時に脂質量を増やす可能性も高める。
なので自慢じゃないけど出腹体型、カラダづくりには筋肥大と同時に減量しなくちゃという場合は、プロテインを活用する手は大あり。食事で賄えないタンパク質をプロテインでカバーすれば脂質量も調整しやすい。
また、多忙で補食のタイミングが取れないという場合も然り。トレーニング前には消化吸収のいい軽食を最低でも1時間前に食べ終えておきたい。その機を逸したときは、遠慮なく堂々とプロテインに頼ってよし。