- 走る
- 遊ぶ
山を走る上で、大切なこと。
PR
国立がん研究センターが行っている大規模コホート調査の統合解析では、太っている人より痩せている人の方が死亡リスクが圧倒的に高いという意外な結果が。そう、痩せているから健康。という図式は間違いです。それは、なぜなのか。7つのリスクをお教えしましょう。
目次
年齢や居住地などある一定の条件を満たす集団をコホートといい、これを長期追跡したデータをコホート調査という。国立がん研究センターが行っている大規模コホート調査の統合解析では、ちょっと意外な数値が導き出されている。
上のグラフは日本人のBMI別死亡リスク。男性の場合、BMI23〜25未満を1とすると、30以上のグループは1.36、19未満のグループは1.78。なんと太っている人より痩せている人の方が死亡リスクが圧倒的に高いという結果が。
BMI25〜27未満が最も死亡リスクが低いというのも意外。最も健康的といわれる指標はBMI22のはず。
「22というのは、高血圧、脂質異常などの有病率が最も低いBMI。これと全死亡との関係性は別のもの。これに対して私たちのデータは、その後に発生する病気の罹患や死亡リスクを10年20年の長期にわたって追跡した調査結果です」(国立がん研究センター・笹月静さん)
スキニー族、これヤバくね?
同じく国立がん研究センターのコホート調査の統合解析によるがん死亡リスク。こちらもBMI23〜25未満を1とした場合の数値。
男女ともに最もリスクが低いBMIの範囲は21〜27未満。それ以上でも以下でもリスクは高くなるが、こちらも太っているより痩せているグループの方が明らかに不利。
「女性の場合は乳がんや子宮体がんといった肥満と関連があるがんが多いので、太っているグループの方がリスクは高くなります。これに対して男性のがんは、肺がんや胃がんがメインで、痩せているグループのリスクが高いという結果が出ています」(笹月さん)
男性の場合、BMIが19〜21未満ですでに死亡リスクは1.23倍。BMI30というかなりの肥満グループの上をいく。たとえば、身長170cmで体重60kgという場合、そのリスクに片脚を突っ込んでいるということ。もちろん、数値はあくまで傾向であり目安だが、事実は事実。目を逸らさずに直視のこと。
お次は世界中の臨床医学雑誌の中で最も高いインパクトを及ぼすといわれる『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に発表されたデータ。
調査の対象は糖尿病患者1万人。タバコを吸ったことのある人と吸ったことのない人を比較すると、前者の場合は痩せているほどがんのリスクが高いという結果が出た。
東京慈恵会医科大学教授の浦島充佳さんによれば、
「非喫煙者の糖尿病患者は太っているほどがんの死亡リスクが高くなるのに対して、喫煙習慣があって痩せている糖尿病患者は、圧倒的にがんでの死亡リスクが高くなります。糖尿病があるとただでさえ免疫力が低下するのでがんになりやすく、がんのリスクファクターのタバコ、やせが加わることでさらにリスクは高くなるのです」
大抵の喫煙者は痩せている。喫煙のリスクが先か痩せているというリスクが先かは不明だが、ダブルの条件を満たすのは、かなりヤバい。
再び国立がん研究センターのコホート調査の統合解析データに戻ろう。こちらは、心疾患や脳血管疾患による死亡リスクをBMI別に比較した数値。やはりBMI23〜25未満の死亡リスクを1としたとき、こちらは太っている方がややハイリスクな「U」字形となる。
血液ドロドロで動脈硬化が進み、心臓や脳の血管に異常を来すのはもっぱらメタボ体型の人。そんな固定観念はここでも無残に崩されてしまう。現にBMI21未満の男性の心疾患の死亡リスクは約10%増しという数値。
「日本のメタボ指導は欧米のデータを基にしています。欧米ではBMI30以上という人はザラで太れば太るほど罹患リスクは高くなる直線的な関係です。一方、日本人でBMI30以上の人というのは数パーセント。欧米のデータを直輸入してしまうと対策としては少しズレてしまう可能性はあると思います」(笹月さん)
適正BMIは幅広いということ、知る必要がありそうだ。
昨年発表されたばかりのホヤホヤの研究論文に興味深いデータがある。調査対象は14万人。一人ひとりの握力を計測し、握力の高い人、中くらいの人、弱い人に3分割。で、それぞれのグループの特定の疾患による死亡リスクを比較したデータだ。
フタを開けたらびっくり仰天。いずれの疾患や病態に関しても、握力の弱い人ほど死亡リスクが高く、握力の高い人のそれが最も低いことが分かった。これ、BMI値では測り切れない体組成と健康との関係を表した、画期的な研究報告といってもいい。
「この結果から考えられるのは、同じ体重でも中身が脂肪なのか筋肉なのかで、死亡リスクが変わってくるということ。太っているから単純に痩せればいいというのはナンセンスということです」(浦島さん)
同様に、痩せているから健康だ、とはもはや言えない。とくに前項で「プニョやせ」に当てはまったという人は要注意。
マラソンのレースの前に体重を絞り込むと、やたらに風邪をひきやすい。そんな経験を持つ人は少なくないという。同じように、一年の間に2回も3回も風邪をひくという人に限って、なぜか痩せている。詳しいメカニズムは分かっていないが、スキニー族は免疫力が総じて低い傾向があるのは確か。
「やせ気味の人は感染症や呼吸器疾患にかかりやすい可能性があります。痩せている人は免疫力が低下しているので、カラダへのダメージが高い手術を受けると回復が遅いという傾向もあります。またコレステロール値が低いと血管壁が弱くなって出血性の脳卒中のリスクが高くなるという報告も」(笹月さん)
理由のひとつとして考えられるのは恒常的な栄養不足。
「サルの実験では、栄養過多のサルは人間と同様、生活習慣病になり、栄養不足のサルは死因は分かりませんが栄養過多のサルと寿命は同じという報告があります。痩せている=長寿ではないのです」(浦島さん)
最後のヤバい理由は、超高齢国家のニッポン人が避けては通れない認知症。そのリスクを血糖値と関連づけたデータがある。
検査基準でいうと、空腹時血糖値の基準値は70〜109mg/dl。126mg/dl以上では糖尿病と診断される。つまり、上のグラフで示されている血糖値は一応正常範囲内。
空腹時血糖値が100だった場合、その7年後に認知症になるリスクを1とすると、血糖値がそれ以上の場合は認知症リスクが高まり、それ以下になると低くなっていく。
「正常範囲内であっても血糖値が低いほど認知症のリスクが低いということです。たとえば、過激なダイエットで体重を落としては食事を元に戻す、そういう人は血糖値が上がりやすくなる可能性があるので要注意です」(浦島さん)
無理な食事制限でやせ体型をキープすることは、将来の認知症を招くことになるかも。空腹時に甘いものをバカスカ食べるというスキニー族も、また然りだ。
取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/山内省吾 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/笹月 静(国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究部部長)、浦島充佳(東京慈恵会医科大学教授 分子疫学研究室室長)
(初出『Tarzan』No.692・2016年3月20日発売)