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効率的に筋肥大するにはタンパク質をどのように摂取すべきなのか? 体重1kg当たり1.6g/日を摂るのがよい、空腹を感じるときは筋肉のタンパク質分解が高まっている、など、最新の研究をもとに導き出した8つの摂取方法を解説します。
目次
平時に筋肉を維持するには、体重1kg当たり1gのタンパク質摂取が欠かせないとされる。体重70kgなら70gだ。ならば筋トレで効率的に筋肥大を促すためには、どのくらいタンパク質の摂取を増やすべきなのか。
「筋トレ時のタンパク質摂取と筋肥大の関わりを調べた複数の研究を統計的に処理したシステマチック・レビューによると、年齢や性別に関わりなく、1日に体重1kg当たり1.6gが最適の量だとわかってきました」(立命館大学の藤田聡教授)
1kg当たり1.6gだと体重70kgの人では1日110g以上のタンパク質を摂る計算。想像よりかなり多いのだ。
1.6gという数字は、1.2〜2gの中央値。大半の人は1.6gでOKだが、筋トレの刺激に敏感に反応(レスポンス)しやすいレスポンダーは、1kg当たり1.2gでも運動負荷に見合った筋肥大が得られる可能性が高い。逆に筋肉の反応が鈍いノンレスポンダーでは、1kg当たり2gの摂取が求められるケースもあるだろう。
そう言われても、自分がどのタイプか見当はつかないもの。そこで、筋トレをしながら1kg当たり1.2gのタンパク質摂取から始め、2gまでの範囲内で適量を探そう。
筋トレ時のタンパク質摂取で大事なのはタイミングと量。まずはタイミングについて考えてみよう。
タンパク質摂取のゴールデンタイムとされるのは筋トレ直後。後述するように、筋トレの刺激で合成力が安静時の何倍にも高まっている。
それ以外にも、知られざるゴールデンタイムがある。それは朝だ。
「筋トレをしている人でも、していない人でも、朝のタンパク質摂取が少ない人では、筋肉も少ない傾向が見受けられるのです」
現代人の食生活だと、食事量とタンパク質摂取量は朝→昼→夜と次第に増えるパターンが多い。
朝はとくに食事量とタンパク質量が少なく、スムージーやコーヒー+食パン+フルーツ程度ではタンパク質は満足に摂れない。そんな食生活では真面目にトレーニングに取り組んでも、筋肉は肥大しにくい。昼食にも夕食にも負けないくらいタンパク質リッチな朝食を目指そう。朝食抜きなど論外だ。
なぜ朝食がプアだと筋肉は減ったり、肥大しにくくなったりするのか。詳細は不明だが、おそらく就寝中の絶食で筋肉の分解が高まっているのに、それを止められないためだろう。
筋肉ファーストで生活しているボディビルダーならぬ一般人は、四六時中タンパク質のことを考えて暮らしているわけではないだろう。そんな平均的なトレーニーは、筋トレに励んだ日に「今日はタンパク質を多めに摂ろう」と思うのが関の山。
でも、本当は筋トレをしないオフ日もタンパク質の摂取は増やさないとダメ。なぜなら筋トレ後、少なくとも48時間は筋肉のタンパク質合成は高まったままだからだ。
下のグラフを見てほしい。筋トレ直後は筋合成が一気にアップ。その後も48時間以上、安静時より高いままで推移する。
合成速度は落ちてもロングテールだから、筋トレ後の48時間の方が合成される筋肉量はむしろ多いくらい。直後のタンパク質摂取はむろん重要だが、その後もタンパク質を補わないと、せっかく筋トレに励んでも期待した成果が得られないことも考えられる。オフ日もタンパク質多めを心掛け、1日1.6gの原則を守りたい。
このグラフからもう一つわかる。筋トレを2日おきに続けていると、筋合成が高まった状況がずっとキープできるのだ。こうして筋トレ×タンパク質増量がうまく嚙み合うと、右肩上がりでトントン拍子に筋肥大が促せる。
筋肉のために、タンパク質は1日何回に分けて摂るのが正解なのか。研究レベルではまだ結論は出ていないようだが、確実に言えることが一つだけある。
「なるべく空腹を感じないように食べることが大切。空腹時には筋肉のタンパク質の分解が高まっているのです」
鍵を握るのは、肝臓などで新たに糖質を作り出す糖新生という仕組み。食事に含まれる糖質で食後すぐに血糖値は上がり、しばらくすると血糖値は下がり始める。
血糖値は一定範囲内にコントロールされているから、血糖値が下がると脳が空腹のサインを出して摂食を促す一方、肝臓ではグリコーゲンを分解して糖質を血中に放出。同時に、糖新生で糖質を作って血糖値を保とうとする。
この糖新生の材料になるのが、筋肉のタンパク質に由来するアミノ酸。筋肉のタンパク質は分解と合成を繰り返しており、筋肉から放出されたアミノ酸は再び筋肉のタンパク質に合成される。その途中で糖新生の材料として肝臓にアミノ酸が横取りされると、筋肉でのタンパク質の再合成に必要なアミノ酸が足りなくなり、筋肉の減少につながりやすい。
日頃から空腹を感じないように、タンパク質を含む食事を定期的に摂るクセをつけておきたい。
食事や、タンパク質サプリのプロテインなどから摂ったタンパク質は、アミノ酸に分解されて体内で利用される。このタンパク質由来のアミノ酸は、筋肥大を促すうえで2つの役割を担う。
第1の役目は、筋肉でのタンパク質合成のスイッチを入れること。筋トレなしでも、タンパク質を含む食事をするだけで筋合成を促す準備が整うのだ。前述のように筋トレの刺激は48時間ほど効くが、タンパク質摂取の効き目は1〜2時間しか続かない。
スイッチの一つとして働くのは、筋肉の細胞内のエムトール(mTORC1)というシグナル物質。タンパク質を作る全20種類のアミノ酸のうち、9種類は体内では合成できないため、食事から忘れずに摂るべき必須アミノ酸。なかでもロイシンはとくにエムトールを活性化する作用が強い。ロイシンが多いのは、牛乳に含まれる乳清(ホエイ)とそれを原料として作られるホエイプロテインだ。
第2の働きは、合成のやる気スイッチがオンになっている間に、筋肉を大きくするための材料をきちんと提供すること。必須アミノ酸をバランスよく含む5大タンパク源から、体重1kg当たり1.6gを基本に過不足なく摂っておきたい。
筋トレ後に成長ホルモンが分泌されると筋肉のタンパク質合成がUPする……。よく見聞きする話だが、これはどうやら正確ではないらしい。
確かに筋トレ直後に成長ホルモンの分泌量は増えるが、それがダイレクトに筋肥大に関わるわけではなさそう。
「成長ホルモンは肝臓で成長因子の分泌を促し、筋肉の肥大を助けます。ただそれはつねに分泌されている量で十分。この基礎分泌が減った高齢者では、成長ホルモンを補塡すると筋肉量が保てるという報告があります。しかし基礎分泌が足りていれば、筋トレ後の成長ホルモンは筋肥大の必要条件ではありません」
筋トレに限らず、有酸素運動でも成長ホルモンは分泌される。その主な働きは、体脂肪を脂肪酸に分解して運動エネルギー源として供給することである。
筋肥大に関わるのは成長ホルモンより性ホルモン。男性ならテストステロン、女性ならエストロゲンである。
筋肉の細胞にはこれらの性ホルモンをキャッチするアンテナがあり、筋トレをすると性ホルモンの分泌も増える。
動物実験では、このアンテナを壊すと筋肉の萎縮が起こることがわかっている。また筋肥大しやすいレスポンダーには、この性ホルモンのアンテナが多い傾向も見受けられるのだとか。
トレーニーが大好きなアミノ酸に、BCAA(分岐鎖アミノ酸)がある。
BCAAは、先ほど出てきたロイシン、イソロイシン、バリンという3つの必須アミノ酸の総称である。
BCAAは運動中に筋肉内で代謝されるため、消耗しやすいという特性がある。そこで欠乏を避けるため、筋トレの前と最中にBCAAをドリンクなどから摂り続けているトレーニーも多い。
その努力は見習いたいが、BCAAは摂れば摂るほどいいわけではない。
「BCAAを代謝するためには、他の必須アミノ酸が必要です。BCAAを一度に大量に摂りすぎると、他の必須アミノ酸の濃度が下がるケースがあります」
必須アミノ酸は9種全部が揃わないとタンパク質は合成できない。BCAAをいくら摂っても、他の必須アミノ酸が足りないと筋合成は加速できない。
BCAAをサプリから摂るときには、他の必須アミノ酸が不足しないように気を配るべきである。
肉類や牛乳といったタンパク源なら、BCAAだけではなく、他の必須アミノ酸もバランスよく含まれている。サプリのみに頼らず、食事からのタンパク質&アミノ酸摂取にちゃんと目を向けよう。
筋肉作りには、タンパク質と同時に糖質の摂取も欠かせないとされている。
理由は大きく2つある。
第1の理由は、筋肉の分解を止めて合成を促すから。糖質を摂って血糖値が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌される。このインスリンが筋肉の分解にブレーキをかける一方、合成のアクセルを踏んでくれるのだ。
第2の理由は、筋トレで使ったグリコーゲンを補うため。筋トレのメインエネルギーは糖質。筋トレを長時間行うと糖質を供給するため、筋肉に蓄えたグリコーゲンが分解される。減ったグリコーゲンを補塡して筋肉の疲労をリカバリーするには糖質摂取が欠かせないのである。
以上は正論だが、トレーニング直後にタンパク質を十分摂ることができるなら、糖質の同時摂取はマストではない。
「摂ったタンパク質に由来するアミノ酸にも、体内でインスリンの分泌を促す作用があります。そしてグリコーゲンは、筋トレ後に食べる食事に含まれている糖質でチャージしても遅くありません」
欲張って減量と筋肥大の二兎を追う場合、糖質は制限しがち。その際は何よりもタンパク質の摂取を増やす努力を忘れないようにしたい。
取材・文/井上健二 撮影/石原敦志 スタイリスト/山内省吾 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/藤田聡(立命館大学スポーツ健康科学部)、佐藤貴規(ゴールドジム)