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ヒトが猫に癒やされる理由、ヒトが猫を癒やす方法

猫と過ごす時間は、何にも代えがたい幸せ。その癒やし効果は科学的にも実証されている。猫が人にもたらす効能とは、どんなものなのか。アニマルセラピーにも従事する先生にお話を聞きました。普段猫に癒やされているあなたが、逆に猫を癒やしてあげるためにも参考にしていただきたい猫マッサージのハウツーとともに。

教えてくれた人

原大二郎さん
原大二郎さん(はら・だいじろう)/1949年、香川県生まれ。家庭動物診療施設 獣徳会 会長。獣医としての活動のほか、小児科病棟、幼稚園や小学校、介護老人保健施設を訪問しアニマルセラピーを行う。NPO〈CAN BE(子供のための動物と自然の絆教育研究会)〉も主宰している。
小田切敬子さん
小田切敬子さん(おだぎり・けいこ)/1959年、大阪府生まれ。NPO法人アニマルセラピー協会理事長。専門は動物行動学、人と動物の関係学。飼い猫のヒメとともにアニマルセラピーを実践。その活動は眞並恭介氏の著書『すべての猫はセラピスト 猫はなぜ人を癒やせるのか』(講談社)に詳しい。

動物と暮らす人の方が健康!?

猫のかわいさは、トレーニングの疲れさえも吹き飛ばすくらいのパワーを持っている。ひと休みのパートナーとして、隣に猫がいてくれたら、クールダウンの時間はより充実するだろう。

その癒やし効果は、科学的にも立証され、近年、医療現場でも取り入れられている。猫が人間に癒やしを与え、健康面や精神面に良い影響を与えるというのは本当なのか。獣医師である原大二郎さんは、まず、猫に限らず、動物が人に及ぼす効能についてこう語る。

「人間と動物が一緒に暮らすことでどのような効果があるのか、という問いについて、海外ではさまざまな研究がされてきています。例えばアメリカやヨーロッパでは、動物と暮らしている人は、そうでない人と比べて社会保障や公的な資金を受けずに暮らしているというデータがあります。このデータから判断すると、動物と暮らす人の方が健康であるという見方ができるのではないでしょうか」

最近では、裁判所で“コートハウスドッグ”という犬を取り入れている事例もあるという。子供が裁判のときに証言台に立たなければならない場面で、心を閉ざしてしまうことがよくある。コートハウスドッグが寄り添うことで子供が心を開いてくれるのだという。また、まだまだ事例はそれほど多くないが、裁判所のほか、介護老人保健施設などにも動物が取り入れられ始めている。

首の周りを撫でる
猫マッサージその1・顔の周りを撫でる/猫は自分の大事なものに、フェロモンをつけ、自分のにおいをつけるマーキングの習性がある。猫の顔を撫で、自分の手に猫のフェロモンをつけることにより、猫はその手を大事なものだと判断し、警戒心を抱かなくなる。

「アメリカには以前から、ペットと暮らす介護老人保健施設がありました。今まで日本では、動物は病気の原因菌を持っているなどの理由で不衛生だと思われ、医療や介護の現場では排除されてきましたが、そういった風潮は、ずいぶん変わってきましたね。最近、大阪にも自分のペットと暮らせる施設ができました」(原さん)

多くの研究結果や、海外での実績もあり、日本の医療現場でも動物の癒やし効果が注目されるようになってきた。

猫に触れ合うことで病状が回復したケースも

NPO法人・アニマルセラピー協会理事長である小田切敬子さんは、愛猫のヒメと一緒に病院を訪問し、飼い猫によるセラピーを実施している。そもそもアニマルセラピーとは、動物を使って、人間の身体や精神の健康面を向上させる療法。動物と過ごす時間を与えることで、患者の心を安定させることができるという。

「原因のわからない精神的な不調は、なかなか症状に合う薬を処方することができず、治癒することが難しい場合があります。そんな症状が、猫と触れ合うことで改善する例はたくさんあります」

なぜ猫に触れ合うことで病状が回復するのだろうか。

「猫を撫でたときに、その猫が気持ちよさそうな表情をしたり、呼びかけに反応してくれたりすると、猫が自分を受け入れてくれると感じることができます。

私の猫はアニマルセラピー猫として訓練されているので、声をかけると寄ってきたり、振り向いたり、時折鳴いて応えるなどの反応を示します。それが患者さんたちの心に良い影響を及ぼすのです。患者さんは猫の反応が嬉しくて、ますます優しく接するようになります。

今までは猫を触るだけだった患者さんが、今度は一緒に遊んでみよう、歩いてみよう、と前向きな気分になっていく様子をたくさん見てきました。攻撃的な人でも、動物には不思議と優しく接します。10年前はアニマルセラピーという言葉自体、知っている人はあまりいませんでしたが、だんだん認知度が高まっていると感じます」

リンパを流す
猫マッサージその2・リンパを流す/人間と同じように、猫にもリンパマッサージは効果的。左肩甲骨前縁はリンパの最終出口なので、そこを優しくさすって流す。肩から前足の爪先をクルクルと円を描くようにさするのも、リンパの流れを良くする方法。

原さんもこのアニマルセラピーに従事する一人だ。

「長い間、医療現場でアニマルセラピーの活動をしてきましたが、今まで事故はありません。無事故をずっと更新していることも、その効果を実証していると言えるでしょう。介護老人保健施設の入所者に動物に触れ合う機会を与える活動もしていますが、施設に入所以来、一回も笑ったことのないおばあちゃんが、猫の頭を撫でて昔話をして、ニコニコしていたという話もよく聞きます。また親御さんのいない子供たちの施設や、子供病院でも動物によるケアは取り入れられています。動物とは、自分の存在を無条件に認めてくれる存在なんです」

猫は誰に対しても平等だから

具体的に、動物と触れ合っているとき、私たちのカラダの中では何が起きているのだろうか。

「日本動物病院協会では、東京農業大学と協力し、動物と触れ合ったときの、血中のオキシトシン量を測る実験をしました。オキシトシンとは脳から分泌される幸せを感じるホルモンのこと。研究結果として、動物と触れ合うことで、オキシトシン量が高まることが実証されました。アニマルセラピーには、そのような科学的裏付けもあるのです」(原さん)

では、他の動物にはない猫ならではのメリットはあるのだろうか。

「猫は小さく、鳴き声もうるさくないので小さな家で飼うのにも向いています。においもほとんどないし、身軽なので、飛び回っても静かです」(小田切さん)

「犬と猫の間には決定的な習性の違いがあります。犬と飼い主は主従関係ですが、猫は誰に対しても対等。そして、とても気まぐれです。一緒に遊ぼうと思っても猫の要望と合致しなければ遊んでくれません。そんな性格がかわいいと猫を選ぶ人もいます。また、散歩の必要がなく、放っておいていい分、猫の方が飼いやすいというライフスタイルの人もいるのではないでしょうか」(原さん)

首を撫でる
猫マッサージその3・首を撫でる/急に高い位置から撫でようとすると、猫が驚いて逃げてしまう場合がある。猫の目線より下の位置からそっと手を差し伸べて首を撫でてあげよう。首まわりや顎の下は気持ちのいいポイントなので、喜ぶ猫が多い。

今度は私たちが猫を癒やす番

ただ、人間を癒やしてばかりでは、猫も疲れてしまう。猫と末永く、互いに良好な関係を保って生活するために、たまには私たちが猫を癒やしてあげたい。

専門家である二人は普段どのように猫と接しているのだろうか。小田切さんの愛猫、ヒメは鼻を触ると喜ぶのだという。

「猫同士で挨拶するときに鼻を使います。いきなり人間が近寄ると逃げてしまうこともあるけれど、まずは指でそっと猫の鼻に触ってみてください。猫の警戒心が緩みます。それから徐々にカラダを撫でます。喉元を撫でると喜ぶ猫も多いので、マッサージは積極的にしてあげましょう」

鼻を触る
猫マッサージその4・鼻を触る/猫同士で挨拶をするとき、鼻と鼻をくっつけるのは相手に対して警戒心がないことを示す表現。猫を触るとき、まずは指を鼻先に当てて挨拶をしよう。猫を安心させてからマッサージするのが、よりリラックスさせるコツ。

原さんは病院での診察の際に、緊張している猫を安心させる裏技を教えてくれた。

「猫にとって、目を合わせるのは敵意のしるしです。目をじっと見るのは避けましょう。また、猫の顔からはフェイシャルフェロモンが出ています。猫が顔をこすりつけるのは、自分の大事なものにフェロモンを擦り付ける“マーキング”の習性なんです。先に手で猫の顔を撫でておけばフェロモンがついて、その手を怖がらなくなり、緊張していた猫も安心してくれます。猫のフェロモンをスプレーにした商品も出ているので、警戒心の強い猫の診察には、それを使うこともあります」

猫の発する感情のサインも正確に見極めて共存したい。猫が喜ぶグッズを使うのも手だ。

「猫はしっぽで感情を表します。うちの猫は名前を呼ぶとしっぽを振って返事をします。大きくゆっくり振るのは、次の行動を考えているサインです」(小田切さん)

「猫が生活するのに、広いスペースはいりません。その代わり高さが必要。キャットタワーが喜ばれるのはそのためです。また、毛づくろいも必要なので、毛玉を吐かないように定期的に毛をとかしてあげましょう。専用のブラシを買わなくても、歯ブラシで充分。歯ブラシは猫の口の大きさと似ているのでぴったりなんです。普遍的な人気のある遊び道具は猫じゃらしですね。猫がゴロゴロと喉を鳴らし、高い声を出すのは、機嫌がいいときです」(原さん)

猫の習性を知り、猫にとって快適な環境をつくることも大切。猫を癒やし、猫に癒やされ、楽しく健康的な毎日を過ごそう。

取材・文/宮原沙紀 撮影/中矢昌行 イラストレーション/加納徳博

(初出『Tarzan』No.750・2018年9月12日発売)

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