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悪者扱いはもうやめて! 砂糖の主張を聞こう

さまざまな食品に踊る「糖分カット」の宣伝文句。まるでそれが健康的な食生活のように喧伝され、いまや肩身の狭いお砂糖。でも、よく聞けばいいこともたくさんしてます。いまこそ砂糖の汚名返上を。

お米より低GIです!

砂糖はお米より低GIです!

血糖値の上がりやすさを示す目安として知られるのが、GI値。GIは「グリセミック・インデックス」の略であり、GI値はブドウ糖を100としたときの値だ。

高GI値の糖質を食べると血糖値が急に上がり、肥満ホルモンであるインスリンが追加分泌されて太りやすくなる。砂糖はブドウ糖と混同されやすいせいなのか、GI値が高くて血糖値が上がりやすいと誤解されているが、砂糖の主成分であるショ糖はブドウ糖+果糖。ブドウ糖は全体の半分だし、残り半分を占める果糖は血糖値が上がりにくいため、GI値は思ったよりも高くない。

GI研究で世界的に知られるオーストラリアのシドニー大学によると、砂糖のGI値は60前後。白米(75〜89)より低GI値で、健康に良いとされている玄米(48〜62)とさほど変わらない。砂糖をいくら控えても、白いご飯をお腹いっぱい食べるような食生活では意味がないようで。

いやいや、摂りすぎてませんから!

いやいや、摂りすぎてませんから!

世間的には砂糖に対する風当たりは強いけれど、日本人の健康に責任を持つ立場にある厚生労働省は砂糖摂取量に関してとくに上限を設けていない。

対照的に砂糖に対して厳しい姿勢を見せるのは、世界保健機関(WHO)。肥満と虫歯予防(後述)のために、砂糖を含む糖類を1日の摂取カロリーの10%以内に抑えるように強く推奨している。

製造・輸入量から逆算した日本人の砂糖消費量は1日51g程度でカロリーにして204キロカロリー。「平成28年国民健康・栄養調査」によると、成人の1日の摂取カロリーは男性2100キロカロリー、女性1,700キロカロリー前後であり、その10%はそれぞれ210キロカロリーと170キロカロリー。WHOの基準とほぼ同じだが、同調査によると砂糖・甘味料、それらを含む菓子類の摂取量も計32gほどに留まる。よほどの甘党でない限り、砂糖の摂りすぎを心配する必要はなさそう。

砂糖を摂るとセロトニンが出ますよ

砂糖を摂るとセロトニンが出ますよ

砂糖を含む糖質は体内ではブドウ糖としてやりとりされる。血中のブドウ糖が血糖であり、全細胞の基本的なエネルギー源。ことに全エネルギーの約20%を消費する大食漢の脳の神経細胞は血糖を好む。

筋肉などの細胞はブドウ糖以外に脂質をうまく使えるのに、脳の神経細胞は糖質を最優先で欲しがる。神経細胞も血糖以外に脂肪酸やケトン体といった脂質の代謝物も利用できるが、それは糖質の供給が途絶えた非常事態に備えたシステム。あくまで神経細胞は血糖を求め続ける。

さらに、甘いものを食べるとホッとすることからわかるように、糖質はメンタルにも好影響を与える。

砂糖の半分を占めるブドウ糖は、脳内にトリプトファンというアミノ酸を導き入れる働きがある。メンタルを落ち着かせるセロトニンという神経伝達物質はトリプトファンから作られるため、甘いものなどから砂糖を摂るとリラックスできるのだ。甘いものが心の栄養とされる所以。

保存性が高まります!

保存性が高まります!

調味料としての砂糖の重要な作用に、食品の腐敗を防いで保存性を高めることが挙げられる。正月のおせち料理が長持ちするのは、気温が低いうえに砂糖を多用するため。では、なぜ腐敗が防げるのか。

筋肉や肝臓でブドウ糖を貯蔵するグリコーゲンは3倍の水分を求めるが、同様に砂糖には水分を抱え込みやすい化学的な性質がある。一方で腐敗を招くカビなどの微生物が活発に活動するには水分が不可欠。砂糖を入れると微生物が利用できる水分がそれだけ減り、腐敗が抑えられる。この水分を抱え込みやすいという特徴により、食品を柔らかくしたり、しっとりさせたりする働きもある。

調味に砂糖を用いるなら「サシスセソ」の原則を守って、砂糖(サ)を初めに入れるべき。砂糖は塩(シ)や醬油(セ)よりも分子量が大きい。塩や醬油を先に入れると食品に先に入り込んでしまい、図体がデカい砂糖を後から入れても食品の内部まで深く浸み込みにくいのである。

悪酔いしたくなかったら、砂糖にお任せ!

悪酔いしたくなかったら、砂糖にお任せ!

最近では砂糖などの糖類をカットした低カロリーのアルコール飲料が人気を集めている。でも、糖類を抑えたお酒は悪酔いしやすい恐れがあるから、要注意だ。

お酒のアルコールは約2割が胃、残り8割が小腸から吸収される。糖類ナシだと胃に留まる時間が短くなるため、アルコールが素早く小腸に移動して体内へスピーディに吸収される。このため酔いが早く回りやすくなる。空腹で飲むと悪酔いしやすいのと同じ理屈。アメリカ・ノーステキサス大学が男女各8人を2群に分けて行った実験で、低カロリー甘味料で割ったジンと糖類を含むジュースで割ったジンを飲んだ群では、前者の方が血中と呼気中のアルコール濃度が約18%高い値を示した。

お酒に糖類が入っていると胃に留まる時間が長引き、アルコールが小腸からゆっくり吸収されるため、アルコール濃度の急上昇による悪酔いが避けられる。かといって調子に乗って飲みすぎるのはNGだけど。

でも、虫歯には注意してね!

でも、虫歯には注意してね!

というわけで、砂糖は適切に摂れば、決して悪者ではない。ただ唯一気をつけたいのが虫歯。

口の中には虫歯を引き起こすミュータンス菌(以下、原因菌)がうじゃうじゃいる。この原因菌は糖質、なかでも砂糖が大好き。砂糖などの糖質を分解して作り出すグルカンという粘り気のある物質は、ツルツルした歯表面のエナメル質にくっつき、そこで原因菌が増殖するとプラーク(歯垢)に成長する。プラークを放置すると原因菌が砂糖などを代謝して酸を作り出し、その酸がエナメル質を溶かして虫歯が生じてしまう。

虫歯予防で何より大切なのは、砂糖の摂取量よりも摂取タイミング。3食以外の間食のお菓子や甘い清涼飲料水などで砂糖をダラダラ摂っていると、原因菌がつねに活性化されるので虫歯に陥りやすい。食後の歯磨きでグルカンやプラークを溜めない工夫をしつつ、3食以外のダラダラ喰いをしないように留意せよ。

取材・文/井上健二 イラストレーション/沼田光太郎 取材協力/永井幸枝(三井製糖研究開発部研究課長)

(初出『Tarzan』No.738・2018年3月22日発売)

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