愛犬は山を走るうえでベストパートナーになり得る
プロトレイルランナーである石川弘樹さんの愛犬は、13歳のティアと11歳のカルナ。ともにメスで、甲斐犬のミックスだ。
ティアとカルナの登山歴はなんと10年以上。石川さんの練習パートナーとして、1歳の頃から全国各地の山を駆け回っている。時にはトレイルランニング大会のコースディレクターを務める石川さんの後について、ルート開拓を手伝うことも。
「地図上には道があるのに、実際山に入ると草木が茂って道が見えないということが結構あるんです。そういったルートを探す時に犬たちと一緒に山へ行くと、不思議なもので、“おそらくここが地図に載ってる道だろうな”という方向にぐんぐん進んでいくんです」
「しかもそれがおおかた当たってる。獣としての本能が働いてるのかもしれませんね」
地方の山を走る時は人がいない時間や場所を選ぶため、誰かと出会うことは滅多にない。が、毎日の散歩コースである自宅の裏山にはきちんと整地された登山道があり、早朝でも人に出くわすことが多い。
人懐こいティアとカルナは一切吠えたり威嚇したりはしないが、すれ違う人への配慮を優先し、リードを腰に巻いて走るようにしている。
コミュニケーションが何より大切だ
「おとなしいですね、とよく声をかけられるんですが、それは彼女たちが小さい頃に時間をかけて信頼関係を築いたからだと思います」
「具体的に何をしたかというと、3歳ぐらいまでは何があっても怒らない。これを徹底しました。何かの拍子で吠えてしまったり粗相をした時に、コラ!ダメ!と怒ると、犬はかまってもらってると勘違いしてしまうんです。だから問題のある行動をした場合とにかく無視をする、目も合わせないようにします」
「その代わり、静かに待っていられたり、家の外で排泄ができた時には思い切り褒めてあげる。すると、あぁこうすれば遊んでもらえるんだと学習します。これを繰り返してきたおかげか、外では必ず僕のそばにいて、視界からいなくなることはありません」
時間をかけて築き上げた信頼関係によって、一緒にトレイルランニングを楽しむことができる。
「一人の時はタイムや距離を意識したトレーニングになってしまうけど、ティアとカルナと山へ行く時は友達と遊ぶようで楽しい。相手は犬なのに“いいね〜”とか“待て〜”とか、喋っちゃいます(笑)。昔は20km近く軽々走れたのが、今は彼女たちが歳をとって長距離を走れなくなってしまったのは少し寂しいけど、今もこうして大好きなフィールドに一緒に立てていることが嬉しいです」
石川弘樹さんの「トレイルランニングを愛犬と楽しむ7か条」
1. 長距離移動に備え、車に慣れさせておく
普段から車に慣れさせておくことで、遠くの山も一緒に走れる。エンジンの音がすると、「どこか楽しそうな場所に連れていってもらえる!」と、尻尾を振りながらケージに入る2匹。
2. 腰にリードを巻いて腕が振れる状態を作る
リードを手に持つと走りにくいため、腰に巻いて両手を解放する。歩行者とすれ違う時は足を止めてリードを手繰り寄せ、犬を足元に近づけるのが鉄則。広い道は気持ちよく駆け抜ける。
3. 愛犬と自分の荷物をトレランバッグにまとめる
散歩中は、愛犬と自分の荷物をコンパクトにまとめられるトレランバッグが大活躍。写真は石川さんのシグネチャーモデルである〈GREGORY〉の《RUFOUS8》。(1)フロントポケットには保存袋に詰めた犬のおやつ。(2)石川さんの水分補給用ドリンク。(3)中には予備のリードやブラシなど。(4)サイドポケットには犬用のトイレ袋。(5)犬用のウォーターボトル。
4. 近隣の人にも犬を好きになってもらう
散歩コースの裏山では、毎日会う顔なじみの人も多い。必ず挨拶と会話をして犬と自分の存在を知ってもらうことで、お互い気持ちよく過ごせる環境を作る。おじさんに可愛がられるティアとカルナ。
5. 時には愛犬に道標となってもらう
犬たちが選ぶコースは走りやすいことが多いため、それに従うこともある。「その日走るコースを決めている場合でも、僕が行こうと考えている方向に迷わず進むんです。どうしてわかるんだろう」。
6. 街中の散歩と同様にトイレの処理を
街中で散歩をする時と同じように、排泄物は必ず持ち帰るのがマナー。ポリバッグに手を入れ、排泄物を摑んで裏返して持ち帰るタイプのトイレ袋が便利。スコップが必要なく荷物もかさばらない。
7. 給水ボトルとおやつを必ず持っていく
体温調節が苦手な犬は暑さに弱い。運動量が増えれば当然喉が渇くので、トレイルランニング中はこまめに水分補給を。山の中でいい子に過ごせた時やトレーニングのご褒美として、おやつも忘れずに。
教えてくれた人
石川弘樹/いしかわ・ひろき。1975年生まれ。プロトレイルランナー。国内外のトレイルランニングレースに参戦するほか、数多くのレースプロデュースも行う。愛犬のティアちゃん&カルナちゃんは、ともに0歳の時から育てている。