お酒を飲めない遺伝子の持ち主は、幸せなのかもしれません
生まれつき飲めない人の遺伝子、というのがある。人呼んで「下戸遺伝子」。つまり、酒を飲めない人はどんなに訓練しても酒に強くなることはないのだ。一方で、肝機能の強さはこの下戸遺伝子とはまったく別問題。酒に強いつもりで痛飲していると、痛い目に遭ってしまうのです。
取材・文/鈴木一朗 監修/高山忠利(日本大学医学部消化器外科教授)
(初出『Tarzan』No.599・2012年3月22日発売)
欧米には「オリエンタル・フラッシャー」なる言葉がある。これは、東洋人が酒を飲んだときに顔が赤くなる状態を指したもの。こんな言葉があるぐらいだから、欧米人はあまり顔に変化が出ない。
じゃあ、かの国の人たちは肝臓が強いのか、というとそうではない。酒が強い=肝臓が強いではないのだ。
どんな人でも肝臓でアルコールを処理するときに、絶対に必要なモノがある。それがアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase : ADH)だ。
この酵素を作る遺伝子には2つのタイプがあり、誰もが対になる組み合わせで持っている。これは先天的に存在するので、後天的に変わることはない。そのため最近では生まれつき飲めない人の遺伝子を下戸遺伝子と呼んだりもする。
一般的にアルコールが強いといわれる人は1型の遺伝子をペアで持っている人(1型×1型)。コーカソイド(白人)、ネグロイド(黒人)はほぼすべてこのタイプ、モンゴロイド(黄色人種)では60%存在する。
訓練すればある程度飲めるようになるのが1型×2型。こちらはモンゴロイドのみに35%ほどいる。
最後に、まったく飲めない2型×2型は、こちらもモンゴロイドのみに5%という少数派だ。彼らはどんなに訓練をしても、酒が強くなることはない。
だが、もちろん酒を飲めない人はアルコール代謝に必要な酵素がないだけであって、肝臓が弱いわけではない。どころか、酒に耐性があり、飲める遺伝子を持った人は強くなる。脳のアルコールに対する感受性が下がってしまうためだ。だから、飲める人のほうが肝機能を低下させてしまうケースも多々あるのである。
日本人ではアルコールが原因で肝がんになることは少ない。だが、欧米人にはアルコール依存症になり、アルコール性肝炎、肝硬変、肝がんと移行していく人がけっこういるのである。
「日本人は飲めない」ことが、肝臓を守ることに繫がっているのだ。
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